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「弱い円」時代を生き抜く処方箋【唐鎌大輔倉重公太朗】(後編)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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日本円は2022年、世界の主要通貨の中で歴史的な下落となりました。エコノミストの唐鎌大輔さんは、その理由の一つとして「日本だけ経済成長が極めて弱いこと」を挙げています。円安を止めるために日本ができることは何でしょうか? その処方箋について伺いました。

<ポイント>

・家計の投資がさらなる円安を招く?

・これから日本で起きる消費行動の変化とは?

・アベノミクスがもたらしてくれたメリット

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■家計のお金が逃げる?

倉重:「国債を自国通貨で発行している先進国なのだから、いくらでも刷ればいいのではないか」というMMT(現代貨幣理論)と呼ばれる論調がありますが、いかがですか。

唐鎌:何がおかしいのかは説明すると長いのですが、直近の例だと、イギリスのリズ・トラス政権が1カ月で壊滅しました。「これは新たな成長へのアプローチだ」と謳って、国債の追加発行によって財源不足を賄う方針を示した結果、大きな財政赤字を厭わない政策姿勢を明確にしました。これが金融市場から全く支持されず強烈なポンド安と金利上昇で表舞台からの退場を強いられました。MMT理論が有効であれば、そうはならないのではないでしょうか。

周知の通り、インフレ抑制こそが世界の政府・中央銀行が抱く最大の問題意識であり、国債を無制限に発行して拡張財政路線を維持しようという姿勢は時代錯誤です。少なくともそのような議論が盛り上がっているのは日本(のごく一部界隈)だけではないかと思います。

倉重:日本は現状を受け入れてなんとか強みを探すしかないのですね。中長期的に見ると円安方向なのは変わらないということでしょうか。

唐鎌:私はそう思っています。今回の拙著『「強い円」はどこへ行ったのか』にも書いたとおり、日本はかつてのように潤沢な外貨を恒常的に稼げる国ではなくなってきています。そういう国は普通、通貨は強くなりません。

ドル円相場の歴史は360円から始まりましたが、基本的には「円高の歴史」でした。それは「デフレの歴史」でもありました。

もちろん、稀に円安にいく局面もありましたが、それは過去半世紀で見れば外国人から見れば「円建て資産を安く買える貴重なチャンス」だったと思います。しかし、もう発想を転換したほうが良いと思います。

今後は円安基調が基本で、円高が貴重なチャンスになります。2022年、あれほどの円安が起きたわけですから2023年が円高になること自体、大きな違和感はないかもしれません。しかし、それは極めて長い時間軸に照らせば「外貨建て資産を安く買える貴重なチャンス」が到来しているという目線を持ちたいところです。

倉重:年単位で大きなトレンドになっていくということですね。

唐鎌:変動為替相場なので、1年に40円近く円安になれば翌年が円高になるというのは不思議なことではありません。リーマンショック後のドル円相場は一時的な激しい振れを伴いなながらも「100~120円」というレンジで概ね収まっていた印象です。しかし、仮に今の日本経済や日本円が過渡期に差し掛かっているのだとすると今後は「120~140円」であったり、「125~145円」であったりに上方シフトしている可能性があり得ます。

 ちなみに私はドル/円が110円台前半にあった2021年秋の段階で「120円台で常態化もあり得る」と述べていましたが、これに対しては当時「煽り過ぎ」「目立ちたいだけ」といった類の声がありました。結果、1年後には150円台を突破し、そこから大いに戻した2022年末においても130円付近にあります。私もそこまでの話は想定できておりませんでしたが、やはり日本円について根本的な評価の切り下がりが織り込まれている可能性は否めないでしょう。

倉重:長期的に見ても相場がどうなるのかは分かりません。今後は現状を生かす方向にマインドをチェンジしないと、どんどん厳しくなっていきます。一番マズいのは「家計のお金が逃げること」だそうですね。

唐鎌:日本の家計にはたくさんの金融資産があるといわれます。2022年の6月時点で約2,000兆円あります。この半分以上が円の現預金です。

倉重:普通の銀行預金ですね。これは多いほうなのですか。

唐鎌:現預金割合は米国で15%程度、ユーロ圏で35%程度であるから国際的に見ても多いと言えるでしょう。岸田政権は金融教育を国家戦略の柱として貯蓄から投資へと焚きつける意向を示しています。この現預金部分である約1,000兆円を投資に向かわせるから、「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と2022年5月、ロンドンの金融街シティで言ったのです。しかし今、投資するとしたら何を選びますか?

倉重:米国株や米国債でしょうね。

唐鎌:そうです。普通、いま普通の日本人が投資をしようと思った時に真っ先に選ぶのがドル建て資産です。それは投資信託経由で米株を買うのか、それともアップルやテスラなどの個別株を買うのかと言った違いはありそうですが、いずれにせよ円建て資産、例えば日本株が第一候補にはなりにくいでしょう。仮に1,000兆円の5%が外貨にいくと50兆円の円売り、10%ならば100兆円の円売りです。先ほどから出てきている日本の経常収支は、2021年度で約12兆円の黒字しかありませんでした。約50兆円の円売りが出れば高い確率で大幅な円安になると思います。

倉重:5%動くだけでも相当な破壊力ですね。

唐鎌:今の若者の投資は消費感覚と言われます。昔のように銀行の窓口へ行き、高い手数料を払って外貨を買わなくても、ベッドで寝ながらスマホで円を売れます。そういう人がこれから人口動態上では支配的になってくるわけです。2022年は大幅な円安が進みましたが、そうした家計の円売りは起きていませんでした。にもかかわらず152円までいったのです。これは今回の学びでしょう。

倉重:今後家計の円売りが始まると、150円どころではないレベルの円安があり得ると。

唐鎌:岸田政権の政策は少なくとも金融市場からはほぼ支持されていません。今起きていることだけを切り取っても、出てくるものは全部増税です。本来やるべきことは全部「検討」だけして決定せず、増税は即断即決して、金融政策は利上げ方向かと言われるのが現状です。これで日本経済に前向きな展望を抱く人が多くなるはずがないでしょう。こうした状況で貯蓄を投資に回せと言われて日本株を選ぶ人は少数派でしょう。

倉重:労働法制は硬直化、少子化は変わらないし、エネルギーも節電要請で不安定です。

唐鎌:電気の問題もすごく甘く見ているところがあります。政府は「外資系の企業に来てほしい」「GDP比で2030年までに80兆円にする」と言っているけれども、節電要請をされ、守れなければ罰金だと言われている国を投資先に選ぶでしょうか。

2022年、殆どの諸外国が入国規制を撤廃しても岸田政権は科学的根拠が薄弱な鎖国政策の運用を続けました。日経新聞にも「外資系企業の社員の家族がなかなか日本に入ってこられないことが問題になっている」といった記事が載ったりしました。いざとなれば非合理的な閉鎖性を全力で発揮してくる国に企業が拠点を構える理由はありません。資源に乏しい日本は否応なしに海外から買わなければならないものが沢山あります。

そろそろ、「外貨を取ることができない」というリスクを真摯に考えたほうがいいです。

倉重:ゼロコロナ政策で、中国も「そこに会社を置いておくのはどうなのか」というリスクが指摘されていました。日本も同じように見られているのですよね。

唐鎌:同じカテゴリーに入っていると思ったほうが良いでしょう。

外国人にとっては、日本に行ったら屋外でもマスクをさせられるという空気が蔓延しているだけで不気味この上ないわけです。例えば2022年10月、イギリスの「The Economist」という雑誌の表紙に、着物の女性がマスクをしている絵が載って、「Many Japanese are still reluctant to go unmasked(日本人はなぜマスクを外したくないのか)」との題名で掲載されていました。そういう認知をされているのです。

倉重:不思議な国民だと描かれているわけですね。「外国人ばかりに来られては困るよ」と異文化を排除する気質もまだまだありますし、経済的実力があった時の日本を忘れられない人たちもまだ多いです。

唐鎌:そういう人たちは多いですが、日本は物価が安くてきれいで治安がいいのは間違いないので、余計なことをしなければ観光立国化するはずです。そこには闇の部分もありますが走りながら考えるしかないと思います。観光立国というと能動的なイメージがありますが、なんの規制もなければ安くて快適で清潔で安全な日本が観光地に選ばれるのは既定路線でしょう。まずは「政府が余計なことを何もしない」という状態に戻して欲しいと思います。

そして、これから日本で起きることは、外国人の消費・投資意欲に近いものから高くなっていくという事実です。

倉重:観光地価格ですね。

唐鎌:例えば極めて顕著にそれが起きているのが鮨でしょうか。そのほか良い和食屋さんや高級ホテルなどもこの10年間ですごく価格が上がっています。観光立国化とともにそれがいろいろなものに広がっていく可能性はあります。

こうした宿泊・飲食産業以外の何で外貨を稼ぐのかを考えたときに、やはり観光を捨ててしまうとあまり思い浮かびません。現在、日本から海外への輸出だと農産品が好調であり、それ自体は喜ばしいことですが、それで500兆円を誇る日本経済が浮揚することは難しいと思います。自動車産業で生み出されるような数百万人単位の雇用創出効果は見込めないでしょう。

■アベノミクスの功罪

倉重:アベノミクスの話もいろいろなところで総括をされていると思いますが、改めて振り返ってどうだったのでしょうか。

唐鎌:金融・財政・構造改革、3本の矢というのは安倍さんが標榜(ひょうぼう)したものです。一番注目されたのは金融政策でした。これは「金融政策に意味はない」ことが分かったという意味では、非常に有意義だったと思います。先ほど言ったとおり、10年前は円安株高を批判すると厳しい非難にさらされました。ようやく「円安は万能の処方箋ではない」という事実が社会的に周知されたと思いますので、それはアベノミクスの成果と言えます。社会実験を10年した結果、金融政策一本鎗の戦略ではでは解決しないことが分かりました。

倉重:積極的な財政出動をしても賃金は上がりませんでした。

唐鎌:財政出動に関しては拡張路線が標ぼうされたものの、消費増税が2回も行われており、その辺りに政策間の整合性が取れていない部分はあったように思いました。また、構造改革に関しては労働市場改革が一応議論の俎上に上がっていたはずですが、安倍さんの政治資源をもってしても顕著な成果は上がりませんでした。安倍さんに出来ないことは岸田さんにも難しいと考えるべきでしょう。

労働市場に関しては逆にご専門だと思いますので倉重先生に聞きたいのですが、出口が見えないですよね。

倉重:景気が回復しても給料が上がらない国ですからね。一度雇うとなかなか賃金を下げられないし、解雇もできません。雇用調整助成金などの支援策で無理やり延命させているゾンビ企業が多数です。それが本当に健全なのか、いつまでもつのかという話です。

唐鎌:アメリカは一夜にしてコロナで2000万人が失業しました。雇用流動化の方向性を支持すると「あれがいいと言うのか?」と聞かれたりしませんか?

倉重:アメリカは解雇自由の国なので、さすがにやり過ぎだろうと思います。一方でドイツ、フランスは解雇をするけれどもお金で解決可能です。「お互いに嫌な相手と一緒にいたくないだろう。解雇するけど、金は払う。」というやり方です。これが一番合理的だと思います。外資にとっても「何年雇ったら解雇にいくらかかるのか」という最大リスクが見えるわけだから、撤退状況が分かり投資判断もしやすくなります。ただ、それをやると政治家は票田を失うので構造改革ができないというジレンマがあります。

唐鎌:今日話してきたことを突き詰めていくと、「日本だけ賃金が上がっていない」という問題に行き着きます。結局、これも議論を深めていくと「それは日本型の雇用法制の問題だろう」と言われがちなので、そこを打開してもらうしかありません。

倉重:日本の経済、法制の面から見て問題があり、それが何も変わっていないことが「失われた30年」を招いたということがわかりました。

唐鎌:最近懸念していることは、世の中的に「安い日本」とは円安のことだと思われていることです。しかしそもそもの「物の値段」自体が安いのです。この間、某経済番組を見ていたら、ジョン・F・ケネディ空港の600ミリリットルの水が3.8ドルくらいして、1ドル140円で計算すると600円くらいになることを取り上げて「円安の副作用だ」と嘆いていました。

しかし、3.8ドルならば1ドル100円で計算しても380円ですので、全てが円安・ドル高の問題ではないということに気づくべきです。そもそも「定価が高い」という事実があるのです。

iPhoneも、ベンツも、ロレックスも。世界中で多くの人が欲する人気商品は賃金が挙がっている国・地域に合わせて定価が高くなるのです。日本はその対象外という話です。

倉重:日本は今値上げラッシュと言っているけれども、資源や原材料、エネルギーなど外国と取引しているものの値段が上がったのを価格転嫁しているだけであって、サービスや人に対する対価は上がっていないのです。むしろ企業努力という名の下に我慢しています。

唐鎌:日本は値上げする時に謝ったりします。ガリガリ君が値上げする際、多くの社員の方々が頭を下げて謝罪する写真と共に新聞広告が掲載され話題になりました。基本的に値上げは「黙ってやればいい」と思いますが、日本ではこうした動きに違和感を覚える向きは少なそうです。値上げが容認されない以上、消費者の給料も上がる理由が無いので、日本を取り巻く賃金情勢は大きく変わりません。

倉重:企業としても、例えばDX人材を高値で獲得しようとしても、その人が合わなかった時に給料を下げられたり、転職してもらったりできないと、高賃金人材の採用にチャレンジしづらいですよね。

唐鎌:国内で競争力のある人材が採れないと、外からはもっと採れないので、企業の基礎体力はどんどん落ちてきます。

中国のIT大手で初任給に40万を出す企業が報じられました。たぶん40万で雇われる人は「終身雇用で」とは考えていないし、そういう人が多くなると成長率につながっていくと思います。

倉重:暗い話が多いですけれども、われわれはこれから10年どうサバイバルすればいいのですか。

唐鎌:少なくとも個人レベルでは「金融資産を全部、円で持っているのはさすがにマズい」というところから問題意識を持っていったら良いのではないでしょうか。いろいろな通貨や資産の種類を持つこと自体はリスクを下げる行為として理論的に推奨されるものです。全部同じ通貨で全部現金というのは率直に危険な行為ではあります。

例えば2022年の円は対ドルで最大30%下落しています。当たり前の話ですが、ドル建てで消費・投資をしようとした人は何もしていないのに30%も予算が減ったことになります。極めてシンプルなやり方として外貨預金を持っておくだけでもこれはヘッジできたわけですから、2022年の大相場が1つの学びになると良いなとは思います。

倉重:それに気付いていますかと。

唐鎌:「日本人は保守的だから投資しない」という話がありますが、私はそう思いません。外為証拠金取引(FX)も暗号資産もパチンコも、スマホのソシャゲ課金も結構進んでやっていると思います。直ぐに結果が出ることが好まれているのかもしれんが、それは投資ではなく投機と言って良い行為でしょう。投機に踏み込める人が投資できないという理由はないと思うのです。金融教育を施すこと自体、僕はいいことだと思います。

倉重:短期で見る人が多い印象です。年金財源の運用にしても、赤字の時だけ報道しますよね。長期でいったらすごく上がっています。

唐鎌:今回もひどい相場の中で、マイナス数%という実績で、市場参加者の目線から見れば極めて優秀なものでした。市場全体がマイナス5%も下がっている時に、マイナス2~3%だったら市場全体のパフォーマンスに勝っているわけですから本来は褒められるべきです。しかし、マスコミは絶対にそう言った見方をしませんし、これに反応して市井の人々は大騒ぎします。結果残るのは「投資は危ない」という雑なリスク感覚です。

倉重:それは個人ベースでも同じで、1、2カ月ですぐ売買するという話ではなくて、10年、20年と持っていろという話ですね。それ自体がリスク分散になります。

■次世代のためにできること

倉重:私は子どもが2人いますけれども、次の世代に良い日本になるためには何を改革すればいいですか。

唐鎌:よほど気の長い人でない限り、日本が変わるのを待つよりも、住む場所を替えたほうがいいと感じると思います。既にお金持ちの子どもほど、海外に行かせようとしている人が増えているのは事実でしょう。一度出たら、彼らは日本に戻ってくることはないでしょう。そういうことが今、水面下では起きつつあることは知っておきたいと思います。

倉重:富裕層課税をやったら、余計にそうなります。

唐鎌:日本の学校へ行っても根拠なくマスクを強要されるだけだし、外に行ったほうがいいと思う親が出るのは普通なのです。どうすればいいのかというと、働き方を変えるしかありません。

倉重:経済面も法律面も昭和の幻想にずっととらわれていて、昔の観念、法律、ルールが変わらないまま、「誰かがなんとかしてくれる」という意識のまま、ただただ悪くなっているのがこの30年でした。いよいよ本当にヤバくなってからではもう変えられません。この5年くらいが最後のチャンスとずっと言われています。これ以上いくと引き返せなくなるところまできているので、強く警鐘を鳴らしたいですね。

倉重:最後に唐鎌さんの夢を伺いたいと思います。

唐鎌:今まではずっと大人に話してきたけれども、子どもに金融について話すような仕事をしてみたいと思いますね。

倉重:われわれができることを頑張っていきましょう。

ここからは会場の方から、ご質問を募っていきたいと思います。Aさんお願いします。

A:お話し中にご意見も出ましたが、円安を生かす道と、「もう一回円高に戻るのかな」と期待して待つ道が2つあるのかなと思います。唐鎌さんの今のお考えとしてはもう円安を生かす道しかないというニュアンスでよろしいですか。

唐鎌:基本的にはそう考えています。もちろん、予想は絶対ではありませんが、結果として円高になったらそれは日本にとって良いことだと思えば良いのではないかと思います。政治家の方や官僚の方にも、「もう円高に戻らないという思いで資源の調達方法やルート、産業の在り方を考えることが必要ではないか。結果、それが杞憂で済んで1ドル100円になっても別に悪いことではないでしょう」と伝えています。われわれは最悪を想定しなければいけません。「円安を生かす」という思いで政策運営や家計防衛をすべきと思います。

A:質問ですが、私のお客さんの現場で外国人技能実習生や外国人留学生が実質労働力になっています。彼らがコロナで来られなくなっていて、労働力不足という問題が出ています。

唐鎌:これは本当に今問題になっています。地方では労働者から、「この為替レートでは送金ができない。失った分を補てんしてくれないと、韓国に行く」という話が出ていると聞いたことがあります。円安になると、今まで来てくれていた外国人労働者が来なくなるのはよくあることです。

倉重:技能実習制度も、日本人のやりたがらない仕事を外国人に安くやらせていることが多いです。1回あれをなくして、整理をしたほうがいいのではないかと思います。

唐鎌:技能実習制度がないと立ち行かないようなビジネスはなくて良いとすら思います。四半期に一度公表される日銀短観では「雇用人員判断D.I.」というものが出ます。どの産業にどれくらいの人が足りていないかを見ることができるのですが、宿泊・飲食がとりわけ人手不足になっています。しかし、宿泊・飲食がないとインバウンドを受け入れられません。だから、もう選り好みしている場合ではないという状況を知るべきです。

倉重:高い賃金にするのなら、値上げをしてお金を持っている人を呼び込んでいくというループに入っていかないときついということですね。Bさんいかがですか?

B:そもそも日本は敗戦国なので、今、日本だけで決められることはどのくらいあるのでしょうか。

唐鎌:自国に対する財政・金融政策の在り方は適切に決めて欲しいと思います。しかし、近年の日本を見ていると、「政府が金を配るかどうか」が絶対の評価軸になっている印象で、正直、品が無いと思います。「金を配るかどうか」が毎回注目される先進国は日本くらいのものです。コロナ禍では確かに多くの先進国が現金給付に舵を切りましたが、多くの国はしっかり初期対応だけと割り切っています。

倉重:「バラマキ」はパンデミックがどうなるか分からないという最初の混乱期だけにすべきですね。

唐鎌:日本は未だに「年金世帯に●万円配布する」といったように恥ずかしげもなく高齢者に寄り添う政策ばかりを打ち込もうとしています。円安問題についても、所詮、アメリカ国内のインフレ問題が収束しない限りは米国の金利を下げるわけにはいかないわけですから円は売られやすい地合いで付き合わざるを得ないでしょう。

倉重:そろそろ、日本人としてこの問題と向き合わないと本気でまずい時代になってきたと思います。今日はたくさん示唆に富む話をありがとうございました。

(おわり)

対談協力:唐鎌大輔(からかま だいすけ)

2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、貿易投資白書の執筆などを務める。2006年からは日本経済研究センターへ出向し、日本経済の短期予測などを担当。その後、2007年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、年2回公表されるEU経済見通しの作成などに携わった。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。

著書に

『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、14年7月)

『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、17年11月)

『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、21年12月)

『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、22年9月)

『リブラの正体 GAFAは通貨を支配するのか?』(共著、日本経済新聞社出版、19年11月)

『沈まぬユーロ-多極化時代における20年目の挑戦』(共著、文眞堂、21年3月)

『沈まぬユーロ-多極化時代における20年目の挑戦』(共著、文眞堂、21年3月)

TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。連載:ロイター、東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンライン、Business Insider、現代ビジネス(講談社)など。

所属学会:日本EU学会。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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