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「岡ちゃんのアドバイスが大きかった」乾貴士の初得点を呼んだ岡崎慎司の言葉と、日韓戦で感じたこと。

豊福晋ライター
本拠地イプルアで今季初ゴールを決めた乾貴士。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 ペナルティエリアの中、こぼれてきたボールを思いきり振り抜いた。

 ボールは左ポストを叩きゴールの中へ。

 ガッツポーズしながら走り出した乾貴士は、次の瞬間にはチームメイトにもみくちゃにされた。主将のダニ・ガルシアがお辞儀をしておどける。気温6度、雨も叩きつける悪条件の中で決めた今季初得点。スタンドの観客は乾コールで祝福した。

 その後一時は同点に追いつかれるも、ホルダンが決勝点を奪いエイバルは好調バレンシアに勝利している。

「なんで点を取れないんだろう」

 この1週間、考えていたことがあった。

 「なんで点を取れないんだろう、と」

 前節のヘタフェ戦、乾は相手のプレッシャーにどこか受け身になり、消極的なプレーも目立った。後半早々に交代、試合後の表情も暗かった。

 今年も終わろうとしているのに、まだゴールがない。

 チームに貢献しているという自負はあった。リーグ戦8試合連続先発出場しているようにメンディリバル監督も評価しており、チームの調子もいい。しかし0得点というのは、攻撃的ミッドフィルダーにとっては、やはりもの足りない数字だった。

 岡崎慎司のゴールを目にしたのは、ちょうどそんな時だった。

 前節、レスターシティの岡崎は2得点を決めた。乾は大きな刺激を受けた。エリア内でクロスに飛び込んでいくタイミングと勢い。何よりその姿には、ゴールを見つめるまなざしがあった。

 すぐに自らのプレーの分析をした。

 「ゴール前に入る回数が少なく、ゴールへの意識が薄すぎました。得点以外で何かやれればいい。そう思っているところがあった。ゴール以外でチームに貢献できていると、どこか満足していた。でも得点というのはやっぱり大事なんです。岡ちゃんが2点を取って、すごいなと」

LINEで届いた岡崎慎司のアドバイス

 試合前日、ふと岡崎に「どうやったら点取れる?」とLINEで聞いてみた。

 あの2得点が、乾の胸の奥に隠れていた得点への意欲を揺さぶっていた。

 すぐに返信があった。岡崎の答えはシンプルだった。

「こぼれ球は常に狙うこと」

「逆サイドからのクロスには必ずエリア内につめること」

 バレンシア戦、乾はその言葉を胸に秘めピッチに立った。

 奇しくも乾の初得点は、逆サイドである右からの攻め、そしてこぼれ球だった。

 「中にどんどん入っていこうと意識してやりました。逆サイドからのクロスと、誰かのシュートにはつめようと考えながら。岡ちゃんのアドバイスは、自分の中ではすごく大きかった。あれだけプレミアで点を取れている人なので。実行できてよかったです」

日韓戦とセカンドボールの重要性

 岡崎のアドバイス以外に、もうひとつ乾の頭にあったのは、試合前に見た日韓戦の光景だ。

 1−4の完敗は、多くの日本人と同様、乾にとっても衝撃だった。

 あくまでも自分の勝手な見解、としながらも、敗因ははっきりと見えている。

「日本と韓国、何が一番違ったか。それはセカンドボールの支配率、勝率が低すぎたことだと思います。クロスやロングボールのセカンドボールに対する意識の低さ。そこはエイバルと比べても、まだまだ日本は低いと思う」

 エイバルはフィジカルを全面に押し出したチームだ。巨漢を並べているわけではないが、走り、ぶつかり、競る。特にセカンドボールに対する激しさや一歩目の速さには特筆すべきものがある。クロスの本数も多く、クリア直後のボール回収を全員が意識を研ぎ澄まして狙っている。

 そんな環境で日々を過ごす乾に、日本の戦いはもの足りなく映った。

「韓国のような体が強い相手と戦う上で、日本のようにあまりフィジカルが強くないチームは、その弱点をどう補っていくかを考えないといけない。ポジショニングを先にとる、体を先に当ててどうにかする。自分もスペインにきてすごく習いましたし、監督に教えてもらったり、選手からも吸収しているところです。バレンシアにはコンドグビアという大きな選手がいましたが、ああいう選手に対して、自分ですら何回か体を当てて勝てることもある。こんなに小さな、フィジカルの弱い選手でもです。それを日本代表にも伝えていかないと」

 バレンシア戦で目立ったのは得点シーンだけではなかった。

 自陣エリアまで戻り体を張った。パレホからボールを奪い、コンドグビアと競りあった。スタンドから、自然と拍手がわいた。

 試合終盤、左サイドでバレンシアの2選手をかわした場面では喝采が湧いた。「体がめちゃ軽かったです」というように、今の乾にはおそらく今季でも一番といえるほどのキレがある。

 英国から届いた岡崎の言葉は得点への意識を目覚めさせ、韓国戦ではセカンドボールの重要性を改めて感じた。

 上昇するエイバルの中、多くのことを吸収しながら、乾は充実した時間を過ごしている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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