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夏の旅行先ではレジオネラ肺炎に注意 新型コロナと区別が困難

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナ疑いということで来院した肺炎の患者さんがレジオネラ症だったという事例が散見されています。似て非なる別の感染症で、治療法も異なります。夏場に多い感染症なので新型コロナとの違いについてお伝えします。

公衆浴場や温泉で感染する

レジオネラ症はレジオネラ属菌という細菌による4類感染症で、患者発生は7月~9月に偏っています(図1)(1)。これは、温泉の入浴や旅行と関連して発生が増えるためです。そのため、夏季休暇は要注意です。

図1. レジオネラ症の届出状況(参考資料1より一部変更して引用)
図1. レジオネラ症の届出状況(参考資料1より一部変更して引用)

コロナ禍において、多くの施設が閉鎖されて使用されませんでした。そのため、稼働日数が極端に減ってしまった旅館や浴場では、レジオネラ属菌が繁殖するリスクがコロナ禍前よりも高くなっているのかもしれません。

入浴施設(公衆浴場・温泉施設・サウナ等)、循環式浴槽、自宅の加湿器、屋上設置冷却塔の水中、雨水などでさまざまな水回りで増殖したレジオネラ属菌を含むエアロゾルを吸入することで感染・発症します。塩素消毒されている水道水では繁殖しませんので、自宅での感染はまれです。

ヌメヌメしたところに一般細菌や栄養細菌が増殖した後、補食しようとやってきたアメーバが大量発生し、そのアメーバの中でレジオネラ属菌が寄生・増殖します。アメーバが崩壊すると大量の菌が放出され、これがエアロゾルとともに吸入されてヒトに感染します(図2)。

図2. レジオネラ属菌が吸入感染を起こすまで(筆者作成)
図2. レジオネラ属菌が吸入感染を起こすまで(筆者作成)

レジオネラ属菌はヒトからヒトへ感染することはありませんので、新型コロナのように家族や友人へ感染を広げることはありません。

レジオネラ症の症状

軽症のポンティアック熱と、重症のレジオネラ肺炎に分かれますが、医学的に重要なのは後者です(図3)。

図3. レジオネラ症(筆者作成)
図3. レジオネラ症(筆者作成)

汚染された水や土壌に暴露してから2~10日後に発生します。肺に到達すると強い炎症を起こすことが多く、発熱、咳、精神症状などがみられます。私もレジオネラ肺炎の患者さんを何人か診たことがありますが、意識がもうろうとしたり混乱をきたしたりすることもあります。

レジオネラ肺炎と新型コロナ肺炎を区別することは極めて困難ですが、最近の日本の研究ではのような違いがあるとされています(2)。レジオネラ肺炎の場合、味覚障害・嗅覚障害を起こすことはなく、喀痰や精神症状を伴う肺炎になることが多いと言えます。

表. レジオネラ肺炎と新型コロナ肺炎の違い(文献2をもとに筆者作成)
表. レジオネラ肺炎と新型コロナ肺炎の違い(文献2をもとに筆者作成)

レジオネラ肺炎と新型コロナ肺炎の両者を合併したという事例も報告されており(3)、現時点ではひとまず新型コロナを疑いつつ、レジオネラ属菌への曝露がありそうな場合は、併せてそちらも検査するというスタンスになるかと思います。

レジオネラ肺炎は、通常の細菌性肺炎とは違って極めて広範囲に肺炎を起こすことがあり、致死率は報告によっては10%近くにもなります。新型コロナより毒性が高いと言えます(4-6)。

レジオネラ症の治療

軽症型のポンティアック熱は、自然に軽快することが多く、治療なしでも数日以内に改善します。

レジオネラ肺炎になってしまうと、新型コロナのような抗ウイルス薬は無効で適切な抗菌薬を投与する必要があります。レジオネラ症などを疑っていないと処方されない類の抗菌薬であることから、「抗菌薬が効かない肺炎だ」と呼吸器内科に紹介されることもあります。実は、われわれ医療従事者こそ注意が必要な疾患なのです。

レジオネラ症にならないための生活の注意点

お風呂や加湿器などの閉鎖された空間の水にレジオネラ属菌はひそんでいます。自宅内では、超音波振動などの加湿器を使用する場合、毎日水を入れ替えて容器を洗浄する必要があります。また、追い炊き機能を使った循環式浴槽を使っている場合、レジオネラ属菌が繁殖しやすいため、定期的に洗浄・維持管理が必要になります

旅館や浴場を備えた施設では、定期的な洗浄等により環境を清浄に保てばレジオネラ属菌は増殖しません。それでもなかなか整備が行き届かず、年に何度かは施設でレジオネラの集団発生が起こっているのが現状です。

高齢者や糖尿病を持っている患者さんは、大量の菌に曝露するとレジオネラ肺炎になりやすいので注意が必要です。

まとめ

旅行に行った後、具合が悪いときはコロナ禍では新型コロナの感染を第一に考えておく必要がありますが、このような「新型コロナもどき」の感染症があることを知っておくと役に立つかもしれません。

(参考)

(1) レジオネラ症の届出状況(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/legionella-m/legionella-idwrs/10791-legionella-20211201.html

(2) Miyashita N, et al. J Infect Chemother. 2022 Jul 8;S1341-321X(22)00187-8.

(3) Riccò M, et al. Microorganisms. 2022 Feb 23;10(3):499.

(4) Viasus D, et al. Medicine (Baltimore). 2013;92(1):51.

(5) Dooling KL, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2015;64(42):1190.

(6) Isenman HL, et al. Respirology. 2016;21(7):1292.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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