「せめて子どもだけでも…」親心が孤児を増やす北朝鮮の飢餓状態
北朝鮮で聖典の一句のように扱われるのが「マルスム」(お言葉)、つまり最高指導者の言葉だ。それは様々な分野に及ぶ。例えば、故金日成主席は1961年9月、松濤園(ソンドウォン)少年団キャンプ場を訪れ、子どもについてこのようなマルスムを残している。
「育っていく新しい世代はわれわれの未来です。新しい世代がいなくして国の未来もなく、社会も進歩もありえません。だから、未来の主人公である新しい世代をよく育てることがとても大切です」
至極当たり前の言葉だが、これすら守られないのが、深刻な食糧難に見舞われている北朝鮮の現在だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、最近になって捨て子が増えていると報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、先月27日の朝、北倉(プクチャン)の孤児院の玄関前に、2歳ほどの女の子が倒れているのを、出勤した職員が発見した。
女の子の安否について情報筋は言及していないが、このような捨て子は今回が初めてではないと語る。
「一掴みのコメもなく餓死の危機に瀕した女性たちが、夜や早朝に子どもを孤児院の前に置き去りにして姿を消す」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
その理由は、孤児院に対しては食糧や衣類など、国際社会からの様々な援助が送られていると認識されており、そこに預ければとりあえず餓死することはないだろうという親心からだという。実際、完全にコロナ鎖国下にあった間でも、孤児院には様々な物資が届けられていたようだ。だが、孤児院の環境も必ずしも良好とは言えない。
別の情報筋によると、順川(スンチョン)市内には2カ所の孤児院があるが、最近になって孤児院の前で捨て子が週に1人以上発見される。
市内の蓮浦洞(リョンポドン)には、2012年に企業所の静養所が建てられ、1歳から6歳の孤児を育ている孤児院として運営されているが、数日前にも3歳の男児がひとりで泣いているのが発見された。
ゼロコロナ政策で地域間の移動が厳しく制限され、物流に支障が起き、行商もできなくなったことで、生活が苦しくなり、餓死の危機に直面した女性たちが、子どもだけは餓死させまいと、孤児院の前に置いていくのだという。
捨て子の急増を受けて順川市当局は、子どもの顔写真を撮影して安全部(警察署)に送り、住民登録書類と照らし合わせ親を探す作業を行っている。
市民は「どれほど生活がひどければ、子どもを捨てるのだろうか」と当局の無策、失策を批判している。
深刻化する捨て子の問題だが、実はコロナ前から起きていた。
強引な少子化対策として、離婚を中々認めない北朝鮮だが、市場で商売をして一家を支えている妻が、夫からのDVなどの理由で家を出てしまい、困窮した夫が子どもを捨てると言った事例だ。
そうやって捨てられて孤児院に預けられたものの、虐待や飢えに苦しんだ末に飛び出す子どもも少なくない。彼らはコチェビ(ストリート・チルドレン)となり、駅前や市場にたむろし、荷物運びなどの仕事をして生き抜いている。中には犯罪に手を染める子どももいる。
「新しい世代がいなくして国の未来もない」という金日成氏の言葉は、北朝鮮の暗い未来を暗示しているようだ。