浅からぬ因縁の仙台育英と慶応が決勝で対決! 豪華カードの甲子園決勝の構図は4年前と一緒だった!
夏の甲子園はいよいよ23日に決勝を迎える。昨夏、東北勢として初めて甲子園大会優勝を果たした仙台育英(宮城)と、長い歴史を持つスーパーブランド校の慶応(神奈川)という豪華な顔合わせになった。史上7校目の夏連覇か、世紀を跨ぐ107年ぶりの優勝か。両校には浅からぬ因縁もあり、実力も伯仲している。記念大会にふさわしい決勝になることは間違いない。
3回戦がお互いの「準決勝」だった
展望で、3回戦で予想される2カードが優勝争いを左右すると書いた。すなわち、仙台育英-履正社(大阪)、慶応-広陵(広島)の対戦である。もちろん、対戦校への配慮も必要なことから「遠回しに」ではあるが、賢明な読者ならこのカードを予想していると、すぐにお分かりになったはずだ。そしてその勝者が、ファイナルに進んできた。21日に行われた準決勝も含めて、今大会をずっとご覧になった方ならば、この2カードが事実上の「準決勝」であったことに気づかれると思う。
浅からぬ因縁その1 そっくりなユニフォーム
ファンなら言わずもがな思い浮かぶ両校そっくりユニフォームだが、ファン歴の長い方なら仙台育英の旧ユニを覚えているかもしれない。アイボリーで胸に「IKUEI」は同じだが、横に「GHS」と小ぶりのローマ字があった。これは「Gakuen High School」の略である。昭和53(1978)年の1回戦で高松商(香川)と延長17回の死闘を演じた時には、このユニを着用していた。昭和60(1985)年の夏限りで、県内ライバルの東北を長く率いた竹田利秋さん(82=現国学院総監督)が退任し、仙台育英の監督となるに際し、ユニの変更話が持ち上がった。現在の理事長(校長)である加藤雄彦氏が中学から大学まで慶応出身だったことから、慶大スタイルのグレー地のユニを提案。慶大の体育会にも筋を通して、採用が認められたと言う。慶応はもちろん、大学と同じデザインである。
浅からぬ因縁その2 センバツでも対戦し、タイブレーク決着
ユニでの縁もあり、両校は毎年、練習試合を行うなど交流し、親交を深めてきた。仙台育英のグラウンドが完成した際にも、慶応が招待を受けている。今センバツで、5年ぶりに揃って出場すると、いきなり初戦(2回戦)で当たることになった。慶応が9回、代打・安達英輝(3年)の適時打で1-1の同点に追いつくと、試合は延長タイブレークに突入した。10回表の慶応は無得点に終わり、その裏、仙台育英はバントと相手の敬遠で1死満塁。ここで熊谷禅(3年)の当たりはレフト前に弾んだが、タッチアップを狙った3走が、好返球でフォースアウトになる珍しい「レフトゴロ」。しかし山田脩也(3年=主将)のサヨナラ打が出て、慶応が涙をのんだ。今春から導入となった延長即タイブレークの適用第1号である。ちなみに今夏も、地方大会直前の7月2日に神奈川で練習試合を行い、仙台育英が4-2で勝った。前日に食事をした仙台育英の須江航監督(40)と慶応の森林貴彦監督(50)は、「また夏に当たりたいですね。今度は初戦じゃなくて決勝で」と語り合ったと言う。
4年前にも同じ現象があり、勝者が入れ替わった!
センバツ初戦のカードが、その年の夏の決勝で再戦となるのは、4年前の履正社-星稜(石川)以来となる。4年前のセンバツでは、星稜が奥川恭伸(ヤクルト)の完封で履正社を圧倒したが、夏は井上広大(阪神)の3ランなどで奥川を攻略した履正社が勝って、初の全国制覇を達成した。4年前は勝者と敗者が春と夏とで入れ替わったが、果たして今回は?
仙台育英の投手を目標に打線を強化した慶応
雪辱を狙う慶応の森林監督は、センバツで打線が沈黙し「(仙台育英の)湯田(統真=3年)君、高橋(煌稀=3年)君には手も足も出なくて、『彼らから点を取って勝ちたいね』と選手たちに言い続けてきた。全国レベルの彼らを基準として、練習に取り組んできた。あの負けが、ここ(決勝進出)につながったと思う。(仙台育英に)恩返しをしたい」と、静かに闘志を燃やした。その先にあるのは107年ぶりの全国制覇。大会が甲子園で行われる前のことで、これには指揮官も「ピンとこない。あとから考えればすごいことなんだろうけど」。歴史の重みを実感させてくれる。
東北6県の思いを胸に「2度目の初優勝」に挑む仙台育英
一方の仙台育英・須江監督は、初日からの登場で5試合の激戦を勝ち抜き、「ここまで『超強豪』とばかり当たって、去年よりかなり疲れている」と話した。これは本音だろう。うち2試合が、同じ東北の聖光学院(福島)、花巻東(岩手)との対戦で、「東北6県で切磋琢磨してやってきた。その思いを持って戦いたい」という言葉は1年前と同じ。東北初の甲子園優勝という「100年、開かなかった歴史の扉」(須江監督)を開き、今度は「2度目の初優勝」に挑む。新たな歴史の扉の前に立ち、あとは開くだけだ。
慶応には2つのアドバンテージが
さて肝心の試合の方だが、慶応に2つのアドバンテージがあることをご紹介しよう。まずは、2回戦からの登場で、仙台育英より1試合少ないという体力面での優位性だ。昨夏は決勝カードが、2回戦からスタートしたチーム同士で同条件だったが、猛暑の中での1試合分の消耗はかなり大きい。あとは慶応の「大応援団」の存在である。森林監督が「相手は大変だろうなと思うけど、ありがたいこと」と応援の後押しに感謝したが、決勝ではボルテージが最高潮に達すること必至だ。
仙台育英投手陣の出来に注目
最大のポイントは仙台育英の投手陣の出来だろう。準決勝で高橋が初めて先発し、湯田が救援して逃げ切ったが、本来の形は湯田→高橋のリレー。力のある3人の左腕も控えるが、状態や出来を考えると、大事な場面での投入は考えづらい。調子自体は湯田の方が良さそうだが、高橋も「だんだんコントロールがよくなり、真っすぐも指にかかるようになってきた」と話し、試合を重ねるごとに復調している。下級生投手が軸になる慶応は、中盤までに離されると苦しくなる。準決勝でもたつきが見られた攻撃陣が奮起し、5回までに3点は欲しい。
両校とも打線好調で、4点以上の勝負か
慶応は準決勝で完封したエース・小宅雅己(2年)が中1日での先発となるか、左腕の鈴木佳門(2年)でいけるところまでいくか。準決勝で森林監督は継投を考えていたが、2点しか取れなかったため、小宅に負担がかかった。仙台育英打線で警戒すべきは、橋本航河(3年)と山田の1、2番コンビで、橋本は足が使える。山田にはセンバツでサヨナラ打を浴び、7月の練習試合でも本塁打を打たれている。リードも冴える捕手の5番・尾形樹人(3年)は好機に強い。慶応も打線は下位まで当たっていて、活躍選手が日替わりなのはいい傾向だ。お互いの打線の状態と、投手の消耗を考え合わせると、4点以上の勝負と予想する。「史上7校目の夏連覇」か、「107年ぶりの全国制覇」か。記念大会を締めくくる決勝で、高校野球の歴史に新たな1ページを書き加えられる。