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近畿の候補は夏の皆勤校の山城! 離島の壱岐、11人で奮闘の大田などセンバツ21世紀枠候補の9校決まる

森本栄浩毎日放送アナウンサー
近畿の21世紀枠候補は「皆勤校」の山城に。吉田義男さんの母校だ(筆者撮影)

 来春センバツ(3月18日開幕)の21世紀枠候補9校が決まった。前回から東西の区分がなくなり、地域を問わず2校が選ばれることになっている。名門進学校あり、離島ありで、選考会でも白熱の議論になることは間違いないだろう。なお原稿は、13日にリリースされた推薦理由書を参考にしている。

山城は全国15校しかない「夏の皆勤校」

 地元の近畿は、全国で15校しかない夏の第1回地方大会からの「皆勤校」の山城(京都)に決まった。秋は東山、鳥羽といった甲子園経験校を撃破し、4強入り。チームの要である捕手の高尾輝(2年=主将)が鳥羽戦で顔面に死球を受けて欠場する中、奮闘したが、近畿大会出場はならなかった。タイトル写真の左端に写っているのが、フェイスガードをした高尾だ。創立118年で、甲子園には春1回、夏3回の出場があり、最後の甲子園出場は63年前の夏。甲子園ではまだ勝ったことがない。

吉田義男氏も着用した伝統のユニフォーム

 吉報を受けた岸本馨一郎監督(40)は選手たちの様子について、「校長から報告があった時は、驚き半分、喜び半分だった」と言う。「Y(山城)」と「H(ハイスクール)」を重ねたマークが胸に躍る伝統のユニフォームは、阪神を日本一に導いた偉大なOB・吉田義男氏(91)の時代から受け継がれている。山城の卒業生でもある岸本監督は、「伝統に縛られることはないが、絶対に皆勤は途切れさせたらあかん」と、選手たちに話しているそうだ。

山城がわずかの差で奈良を抑える

 山城は「文武両道」は言うに及ばず、50年以上にわたって聴覚障害のある生徒を受け入れ、放課後に手話弁論大会を開くなど、全校生徒に聴覚障害への理解、啓発活動を行っている。近畿は最終的に、奈良大会で準優勝した名門進学校・奈良との2校で比較になり、上記活動のほか、勉強と部活動の両立、野球の普及や野球人口拡大のため少年野球との交流で地域貢献している点が評価され、山城に決まった。

壱岐は全員が地元出身選手

 大激戦だった九州は、離島の壱岐(長崎)に決定した。秋は長崎大会で準優勝し、九州大会でも初戦で熊本1位の専大熊本を6-3で破ったが、エナジックスポーツ(沖縄)に2-9でコールド負けし、一般枠での選出は絶望視されていた。エースの浦上脩吾(2年=主将)ら、21人の部員全員が壱岐市の出身で、中学時代からの顔見知り。「壱岐から甲子園に行こう」と、有望選手がこぞって進学してきた。島外への練習試合にはフェリーを使うしか手段がなく、片道2時間、料金保護者負担で乗り切っている。

離島チームは過去4校が選出

 21世紀枠で離島のチームは過去、4校が選ばれている(淡路島にある兵庫の洲本は除く)。2003年の隠岐(島根)、11年の佐渡(新潟)、14年の大島(鹿児島)、そして16年の小豆島(現小豆島中央=香川)と、いずれも初戦で敗れたが、大島は8年後の22年に実力でセンバツに舞い戻った。言うまでもなく21世紀枠は、選考会(来年1月24日)でのプレゼンテーションが最大のポイントになるが、壱岐は離島のハンディを乗り越えて、九州大会8強と実績も十分。本番でもかなり高い評価を受けると思われる。

福岡で伝統校躍進も及ばず

 特に九州は有力な候補が多く、創立120年を超える育徳館(福岡)も九州大会で宮崎1位の日南学園を破って8強入りしていたし、同じ福岡では、九州を代表する名門進学校の修猷館も県大会で4強入りし、西日本短大付、東福岡と1点差の接戦を演じていて、県の段階から激戦だった。予想通り、壱岐と育徳館に絞られ、地理的なハンディを克服し、日々の練習にも工夫を凝らした点や、地元でのボランティア活動が高く評価され、壱岐が上回った。

釧路江南は夏に4回の出場経験

 北海道は夏の甲子園に4回の出場経験(未勝利)がある釧路江南だった。3度目の推薦となる。北海道でも特に冬の積雪と凍土に悩まされる地域で、農業用ハウスの活用などで、自然環境とも戦っている。選手は18人で、秋は北海道大会準々決勝まで進み、今春の出場校の北海に0-1で惜敗した。ほかには名門進学校の札幌南士別翔雲も公立で健闘したが、試合内容や地域性などを総合的に判断した。

久慈はセンバツ出場の強豪を破る

 東北は久慈(岩手)で、昭和54(1979)年夏に、唯一の甲子園を経験(初戦敗退)している。秋は岩手大会3位で東北大会に進み、今春センバツ出場の学法石川(福島)に7-2で勝った。鶴岡東(山形)には完敗したが、近年は岩手大会の上位常連であり、34人の選手全員が地元の生徒である。久慈と、今春の東北推薦校だった仙台一(宮城)の2校に絞って検討し、過疎が続く久慈の地元生徒で東北大会勝利を挙げ、地域に元気と夢を与えている点が評価された。

激戦の神奈川で健闘する公立の横浜清陵

 関東・東京は横浜清陵(神奈川)で、強豪私学ひしめくレベルの高い県で8強入りした秋の健闘が光った。夏の選手権出場校の東海大相模に食い下がり、0-5で敗れたが、近年は神奈川の県立で最も安定して上位に食い込んでいる。50年前に創立の清水ヶ丘が前身で、大岡と7年前に統合されて誕生した比較的新しい公立校だ。部活動を生徒の「自治」で行うことをモットーにしている。この地区は、横浜清陵を推す声が多く、すんなり全会一致で決まった。

東海は唯一の私学の名古屋たちばな

 東海は、今回唯一の私学である名古屋たちばな(愛知)に決まった。前身の愛産大工時代には、夏の愛知大会決勝まで進み、甲子園にあと一歩まで迫っていた。今夏も享栄や愛工大名電を破り、現チームの秋は今春センバツ出場の豊川を破っている。近年の成績には目を見張るものがあるが、甲子園出場には至っていない。近年の好成績だけでなく、17年にわたって「カンボジア小学校建設プロジェクト」に協力するなど、国際社会に目を向けた活動も高く評価された。

小松工は随一の実績誇る

 北信越は小松工(石川)で、北信越大会で2勝して4強入りという実績は、候補9校で最も高い。過去、夏の甲子園には2回の出場経験(いずれも初戦敗退)がある。今秋は石川大会準優勝で北信越大会に進むと、初戦で今回の候補でもある富山北部と大熱戦。9回に5点差を追いつき、延長11回タイブレークで逆転サヨナラ勝ちすると、新潟明訓にはコールド勝ちした。敦賀気比に敗れて一般枠選出圏には入れなかったが、粘り強い戦いぶりや、近年の自然災害にめげず、復旧ボランティアに積極参加した点などが大きな評価を得た。

選手11人で奮闘し、中国8強の大田

 中国は、選手11人で大健闘した大田(おおだ=島根)が射止めた。創立100年を超える伝統校で、戦前を含め、甲子園は6回(春3、夏3)の出場経験がある。37年前のセンバツ以来、聖地から遠ざかっていて、甲子園で勝ったことはない。近年は慢性的な部員不足に悩まされている。今秋は4人の女子マネージャーの協力も得て、24年ぶりに中国大会出場を果たし、境(鳥取)を破って8強入りした。OBには、阪神で救援投手として名を馳せた福間納氏(73)がいる。中国は比較が難航し、最終的に竹原(広島)と2校で比較して、中国大会8強の実績に加え、地域の普及活動にも積極的に参加している点が高評価された。

高松東は夏に続き、秋も県で4強入り

 四国は、創立100年を超える伝統校の高松東(香川)に決まった。今夏に続き、現チームの秋も県で4強入りし、多くの卒業生を喜ばせている。狭いグラウンド、短い練習時間などの制約がある中、選手たち自身が主体的に課題を決めて効果的な練習を心掛けてきた。ボランティアにも積極的に参加し、活動報告を学校のホームページで発信するなど、地域とのかかわりを大切にしている。四国は県8強3校のうち、地域貢献が顕著な板野(徳島)を挙げ、高松東と比較した。地域貢献は同等とされたが、夏に続いて県で4強入りした実績が決め手となったようである。

先輩や地域への感謝を忘れずに

 山城の岸本監督からは、「近畿のほかの5校も素晴らしい学校ばかり」と、選に漏れた他校に対する、リスペクトの言葉があった。21世紀枠は野球だけでなく、学校そのものの評価でもある。伝統校の選手たちは、ここまでつないでくれた先輩たちへ。地元の応援を受けるチームは、地域の人たちへの感謝を忘れず、1月24日を待ってほしい。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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