Yahoo!ニュース

【日本初】独占インタビュー 元ユベントスの北朝鮮代表FWハン・グァンソンが語る日本戦「夢はW杯出場」

金明昱スポーツライター
シリア戦の翌日に取材に応じてくれた北朝鮮代表FWハン・グァンソン(筆者撮影)

 北中米W杯アジア2次予選で日本と同組の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表。エースナンバーの「10番」を背負うのは、セリエAのカリアリ、ペルージャ、ユベントスのほか、カタールでもプレーしたFWハン・グァンソン(4・25体育団)だ。

 最終予選進出に向け、中立地のラオスで行われたシリア戦(6日)に1-0で勝利した翌日、単独インタビューに応じてくれた。肩ひじ張らず、対応はとてもスマートだった。

 北朝鮮は11日のミャンマー戦に勝利し、シリアが日本に引き分け以下なら、グループ2位で最終予選進出が決まる。ちなみに北朝鮮代表がW杯に出場したのは2010年南アフリカ大会が最後。この時は44年ぶり2度目の出場で注目されたが、2026年北中米W杯出場となれば、16年ぶり3度目となる。

 そこで3月に戦った日本代表の印象、セリエAでプレーした当時の思い出、今後の目標や夢などについて聞いた。

「朝鮮代表の強みは最後まで走り続けられるメンタル」

――6日のシリア戦に1-0で勝利して、最終予選進出に大きく近づきました。

絶対に勝ち点3を取らなければならない状況だったので、平壌でたくさん練習してきましたし、相手の分析もして対策もしっかりと練ってきました。その成果が出すことができて本当に良かったです。

――後半アディショナルタイムに1点が決まっての勝利で、とてもタフな試合でした。現在の代表チームの強みはどこにありますか?

強みを一つ挙げるなら、試合が終わる瞬間まで走り続けることができるメンタル、精神力です。そこはみんなが自信を持って言える部分だと思います。

――シリア戦では何度もゴールに迫るシーンが見られました。

今よりももっと代表チームが強くなるためには、これは私の考えですが、ゴールに向かう高い意識と共に枠内への精度の高いシュートへの意識を高める必要があります。得点チャンスを作りだすための能力が必要だと感じます。

――シン・ヨンナム監督は主にどのような戦術や指導でチーム作りをしているのでしょうか?

試合を見ても分かると思いますが、W杯予選では戦う相手によって戦術は変わります。相手の特徴や戦い方を分析し、監督が考えるサッカーを選手たちがしっかりと理解したうえで準備を進めています。例えば2~3人がボールにからみながら、サイドから崩し、正確なクロスボールをゴール前に供給して確実にフィニッシュすることなどです。

前列右から2番目がハン・グァンソン。エースナンバーの10を背負う
前列右から2番目がハン・グァンソン。エースナンバーの10を背負う写真:松尾/アフロスポーツ

「セリエAでやれる自信はあった」

――国内サッカーアカデミーの「平壌国際サッカー学校」在籍し、18歳からイタリアに渡りました。カリアリ、ペルージャ、最後は名門のユベントスとも契約を結びました。幼いころから海外サッカーへの憧れはあったのでしょうか?

私だけでなく、他の選手たちも欧州クラブに渡るチャンスがあれば、自分の技術や戦術などのスキルをもっと高められるし、学ぶこともとても多いことはよく分かっています。私がセリエAのカリアリでトップチームデビュー(2017年4月のパレルモ戦で途中出場)したときは、それはもう嬉しかったです。自分の名前をたくさんの人たちに知ってもらって、レベルの高い場所でサッカーをすることが夢だったので、本当に嬉しかったですよ。

――デビューから2試合目のトリノ戦で81分に途中出場して、後半アディショナルタイムにヘディングシュートを決めました。初ゴールのシーンは今も覚えていますか?

もちろんです。それよりももっと長い時間出場して、試合の流れを作ってもっとゴールを決めたい気持ちが強かったです。試合に出場する回数も増やしたいし、ゴールも決めたいという欲もありました。それにイタリアに来て感じたのは、自分もここでやれるという自信があったこと。その強い気持ちがあったので、結果を残すことができたのだと思います。

――2017年から20年途中までセリエAでプレーし、トップレベルのサッカーをたくさん経験し、見てきたと思います。アジアが世界の強豪に追いつくには必要なものは何だと思いますか?

私が一番違いを感じるのは戦術における思考でしょうか。全体的にアジアは、欧州の選手たちに比べて戦術に対する意識や思考がやや劣ると感じます。そのためにはすべての面で総合的なレベルアップが必要になるのですが、追いつくのはそう簡単なことではないのも分かります。それでも努力することです。私もイタリアでクラブチームの選手たちと毎日練習、トレーニングすることで戦術への意識が高まりました。

セリエAでは与えられたチャンスをモノにして結果を残してきた
セリエAでは与えられたチャンスをモノにして結果を残してきた写真:Maurizio Borsari/アフロ

「欧州選手はゴール前での集中力が高く繊細」

――ハン・グァンソン選手はFWなので聞きますが、欧州とアジアでは決定力に差があるとよく言われます。その差を埋めるには何が必要でしょうか?

サッカーがうまい選手はうまいし、能力の高い選手は元から能力が高かったりするものです(笑)。“才能”といってしまえばそれまでですが、私が思うのは練習の時にもっと集中力を高める能力をつけることだと思います。

――そこは欧州の選手のほうが優れていると?

欧州の選手は特にゴール前に近づくと、フィニッシュまで持っていくまでの集中力が高く、プレーもより繊細になります。ポイントにおいて、集中する能力がとても高いと感じます。

――現在は国内チーム「4・25体育団」に所属していますが、またチャンスがあれば海外でプレーしたい気持ちはありますか?

それよりもまずは所属クラブでしっかりと結果を残したい。私は10代で海外に出たので、まだ多くの国民に自分のプレーをたくさん見せられていないんです。クラブでも代表でも自分の役割を果たすことが今の私の目標です。

「日本代表は強いと思っていたが、意外とそうでもない」

――3月には初来日して、日本代表と戦いました。0-1で惜しくも敗れましたがチームの印象は?

正直に言います。試合前、私も初めて対戦する日本代表については、少し強いのではないかと感じていたんです。ですが、実際に戦ってみると意外とそうでないことも分かりました。これは決して強がっているのではありません。

3月のW杯アジア2次予選で北朝鮮は日本に0-1で敗れた
3月のW杯アジア2次予選で北朝鮮は日本に0-1で敗れた写真:つのだよしお/アフロ

――十分に勝てる相手でもあったと?

対戦前に日本の試合の映像をたくさん見たのですが、細かいパス回しや試合の流れの緩急のつけかたなど、うまい選手が多いと感じていました。でもピッチに立つと自分たちのカウンターやスピード、ドリブルも通用する。ゴールポストに当たった私のシュートシーンから日本のゴールネットを揺らしたシーンもそうです。ファウルの判定で得点にはならなかったですが、次もし対戦する機会があれば、もっといい結果をもたらせると思います。

「在日同胞の応援は本当に力になった」

――日本の滞在期間、たくさんの在日コリアンの応援団がスタジアムに駆けつけていました。それも初めて見る光景だったと思います。

本当に驚きましたし、初めての経験でした。私も日本に来るのは初めてでしたし、あんなにもたくさんの在日同胞が声援を送ってくれるとは思ってもいませんでしたから。本当に大きな力になりました。

――サッカー選手としての夢、目標はなんでしょうか?

もちろんW杯に出場することです。他の選手もそうですが、サッカー選手なら誰もが憧れる夢舞台です。そのピッチに立ちたいです。目標は高く、W杯出場に向けて最後までベストを尽くして戦いたい。

■ハン・グァンソン

1998年9月11日、平壌出身。世代別代表に選出され、2014年AFC U-16選手権で北朝鮮を優勝に導き、15年FIFA U-17W杯にも出場。イギリス・ガーディアン紙の「世界で最も才能あるU-18フットボーラー50人」に選出。平壌国際サッカー学校の育成プロジェクトの1期生で、イタリアのカリアリにテスト生として加入。17年にカリアリでトップチームデビューし、初ゴールを記録。同国選手としてはセリエA、欧州5大リーグに出場して、初めて得点を挙げた選手に。ペルージャ、ユベントスを経て、20年からカタール1部のアル・ドゥハイルへ。19-20シーズンは10試合出場で3ゴールと7度目のリーグ優勝に貢献した。現在は国内クラブの4・25体育団に所属。178センチ、70キロ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事