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大王製紙とクレシアのトイレットペーパー特許権侵害訴訟について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:特許6735251号公報

「大王製紙の特許侵害認めず 長巻きトイレットペーパー製造 東京地裁」というニュースがありました。

「長巻きトイレットペーパーの品質を高める技術をまねされたとして、日本製紙子会社の日本製紙クレシア(東京都)が、”エリエール”を主力製品とする大王製紙(愛媛県)の特許権侵害を訴えた訴訟の判決で、東京地裁は21日、日本製紙クレシア側の請求を棄却した。」ということです。

裁判所のサイトではまだ判決文が公開されていませんし、大王製紙のプレスリリースにも特許権3件が関連しているとは書いてあるものの、特許番号がわかりません。

この提訴が行われたときの報道記事によると、特許番号は6735251号、6186483号、6590596号であるようです。3件とも、大王製紙により無効審判が請求されていますので、この3件ということで間違いないでしょう。

前の2件は、トイレットペーパー(トイレットロール)のエンボス加工に関するもので、同じファミリーです。最後の1件はトイレットペーパーのパッケージに関するものです。いずれも、数値限定発明ということで、具体的なサイズ等にポイントがある特許です。たとえば、6735251号の請求項1の内容は以下のとおりです。

【請求項1】
2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、
前記エンボスのエンボス深さが0.05~0.40mm、
巻固さが0.3~1.4mm、巻長が63~103m、巻直径が105~134mm、巻密度が1.2~2.0m/cm2であり、
前記トイレットペーパーの比容積が、4.0~6.5cm3/gであり、前記エンボス1個当たりの面積が、2.5~6.0mm2であるトイレットロール。

この特許の明細書では以下のように発明の目的が説明されています。

ロールの柔らかさとは、店頭でトイレットロールを手に持ったときの触感であり、直接シートの柔らかさを反映するものではない。しかしながら、店頭でロールを巻きほぐしてシートの柔らかさを確認することができないため、仮にシート自体が柔らかくてもロールが硬いと、シートも硬いと思われてしまい、購入を促すことができないという問題がある。
従って本発明は、坪量を下げずにシートおよびロールの柔らかさに優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に優れたトイレットロールの提供を目的とする。

要は、長巻きのトイレットペーパーを実現するために単純に紙をギチギチに巻いたのではロールが硬くなって店頭での購買意欲が削がれてしまいますし、また、当然ながら紙を薄くすると使用感が悪くなります。ということで、長さ、厚さ(重量)、触感のバランスを最適化することが必要であり、その最適値に実験の結果たどり着いたのが、上記の請求項ということになります。

私はトイレットペーパーの技術についてはまったく詳しくないですが、明細書を読むと、メーカーとしての様々な工夫や努力が垣間見られて興味深いものがあります。

判決文がまだ公開されていませんが、クレシア側の請求棄却ということは、これらの請求項(実際にどの請求項で権利行使されたかは判決文を見ないとわかりません)の範囲に大王製紙の製品が含まれていない、あるいは、既存の技術に同じようなものがあって新規性・進歩性欠如により特許権が無効とされた、あるいは、その両方であると裁判所が判断したことになります。

ところで、大王製紙とクレシアの間の特許権侵害訴訟は過去にもありました。2012年に大王製紙がクレシアをティッシュペーパーの製造方法(および設備)に関する特許権(4676564号、4868622号)の侵害で訴えた件です(控訴審判決は2016年)。こちらについては、クレシア側が非侵害で勝訴しています。

このように競合メーカーが日々の製品改良から特許を産み出し、必要に応じて権利行使していくというのはまさに健全な競争の姿であると思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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