NewJeans緊急会見~HYBE内紛 「現時点で見落とせないポイント」
28日に行われたNewJeansによる緊急記者会見からおよそ1日が過ぎた。
関心は「この先どうなるか」にあるのではないか。 およそこの3点にあると見る。
- 「NewJeansは一方的に契約解除を申し出た。契約解除の訴訟もしないという。果たしてその通りになるのか」
- 「韓国世論はどう向かっていくのか」
- 「いったいこの戦いの"勝利"は、どちらにとってのどういうものになるのか」
特に重要なのは2つめの「世論」だ。筆者は10月のほとんどを韓国で過ごし、一連の「HYBE内紛」について現地の人と多く言葉を交わした。一様に「韓国では結局は世論を味方につけた方が有利になる」という返事が帰って来た。
【全文】NewJeans 11月28日記者会見 冒頭発言(韓国トレンド研究所)
会見で飛んだ厳しい質問
1と2に関しては、韓国メディアの報道ぶりのなかにもいくつかこれを示唆するものがある。
端的だったのが、28日の会見の終盤で本人たちに厳しい発言も向けられている点だ。「電子新聞」のチェ・ヒョン記者によるものだ。
Q:100%、ADORとHYBEが加害者だという立場である、という理解でよろしいでしょうか。完全にHYBEとADORの過ちによって、今回の契約解除という結果に至ったと主張されているのですか? また、訴訟を起こさないとおっしゃいましたが、契約というのは双方が合意して進める文書として残る事案です。内容証明を送って要求条件が受け入れられなかったからといって、訴訟を起こさずに解除すると言うのは、一方的に契約を破棄するように聞こえます。そのように受け止めてよろしいでしょうか?
メンバーたちは真摯に質問に耳を傾けた後、ミンジが硬い表情でこう答えた。
A: 私たちは十分に対話を行い、内容証明を送付しましたが、その内容証明の期間内に回答がなかったため、私たちは内容証明に書かれている通りに契約解除を進めることになります」
その後、別の記者がマイクを通さずに「2週間前に通知して、応じなければ契約を解除できる」という条項が元々入っているのですか? といった質問を続けたが、その後、司会者が質問を引き取った。
A: 詳しい状況は私たちも確認する必要がありますが、法律的検討については詳細な状況を確認した上で、ご質問いただいた部分についてお答えさせていただきます。現時点では専属契約の効力停止訴訟についてはまだ、メンバーの立場を発表する場であるため、詳細な状況については早めにお知らせできるようにいたします。
韓国メディア側の厳しい視線や契約解除発言への疑念が示される一幕だった。当日12受け付けた質問のうち2つほどが批判的なものだった。また 日本メディアの多くは「契約解除決定」とも読める見出しを多く打っていようだが、じつのところ当事者たちも「あくまでメンバーの考えを伝える場」としているのだった。これは見落とせないポイントのひとつだ。
数少ない専門家の分析「契約解除は可能」
一方で「契約解除は可能」とする現地専門家の声もある。
28日の会見後、大手経済紙「毎日経済」オンライン版や「イーデイリー」「YTN」が引用した弁護士のコメントが存在するのだ。
家庭裁判所判事出身でセオル法律事務所代表のイ・ヒョンゴン弁護士が自身のフェイスブックにこんなコメントを残した。
NewJeansは専属契約解除の仮処分申請を(裁判所に対して)行わない。 記者会見で最も際立った部分は、今日の深夜を基準に契約を解除するものの、訴訟は起こさないというこの部分である。 これは前例のない方法だ。
(NewJeansの方から)仮処分訴訟を起こすと、結論が出るまで活動できない。
いっぽう、訴訟を起こさずに退社することは可能である。 そうなれば、ADOR(の方が先に)がNewJeansに対して訴訟を起こさなければならず、NewJeansはそれを待てばよい。現時点では、NewJeansの独立を誰も止めることはできない。
「NewJeansが訴訟なしで一方的に退社できるのか」という指摘に対して、それは誤った主張だという意見を持っている。
その理由として、HYBEがミン・ヒジン代表に対して一方的に株主間契約の解除通告をしたという事実を挙げたい。
つまり「HYBEが一方的な契約解除をしておきながら、他者が同じことをできないというのはおかしい」という指摘だ。
HYBEの対応に矛盾があることを指摘する考え方だ。
もっとも同弁護士はSNS上で「NewJeansを応援する」と明言しており、少し色のついた発言ではあるか。
韓国内の有力法律系メディアである「法律新聞」「法曹新聞」は29日16時の時点で関連記事の掲載はなし。未来を語る専門家があまりいない、という点もこの発言が多く引用される背景もありそうだ。
一連のHYBE内紛の大きな「謎」
③の「いったいこの戦いの"勝利"は、どちらにとってのどういうものになるのか」については、より予想が難しい。
連日の報道を見ると「NewJeans側が独立してミン氏と再度活動」というのが片方の勝利ではあるように見えるのだが、それすらどうなるか分からない。
なぜなら、今年4月に始まった一連の騒動、ひとつの謎があるからだ。話は28日のNewJeans会見から離れるが、内紛全体を展望するならこれもまた見落とせないポイントだ。
「そもそもの発端である『HYBEからミン氏にかけられた背任容疑に対する警察の捜査結果が発表になっていない』」
4月に始まった騒動、最初は上場企業たるHYBEの人事に関する経済ニュースとして報じられ、やがて法律関係のキーワードが連発。そこに複数の訴訟や多くの人たちの強い感情が入り交じり、非常にややこしくなっている。 ただ、こういった構図があるのは確かだ。
「ミン氏側、NewJeans側の反発や強い主張は、すべて4月22日に始まった背任容疑を発端として噴出しているもの」
そこにシロ・クロが出ていないまま、話がどんどん進んでいっているのだ。ミン氏は一度、5月30日のADOR代表職の解任危機を「この疑いがグレーなら解任に値せず」という裁判所の判断で回避している。それほどに大きな影響を与える発表にもかかわらずだ。
5月30日の時点では「背任までは至らない背信」との判決が下された
現地法律系メディアの報道 本来は「背任罪成立は難しい」
9月28日の「法律新聞」はこう報じていた。
「紛争の行方を左右するミン・ヒジン元代表の背任容疑に対する警察の捜査が最終段階に入った」
「(9月)27日の取材によると、事件を捜査中の龍山警察署は先月、ADORの現旧役職員とHYBE役職員を再度呼び出して調査した」
「HYBEは去る4月、ミン・ヒジン元代表が子会社であるADORの経営権を奪取しようとした計画と具体的な証拠を確保したとして、背任容疑で告発した。警察は提出された資料と追加の証言をもとに、近々結論を出す予定だ」
「捜査結果によっては、株主間契約解除確認訴訟など法的紛争の勝敗が変わる可能性がある。背任が成立すればHYBEに、逆の結果が出ればミン・ヒジン元代表に有利だ」
「HYBEは容疑の立証に自信を持っているが、韓国の法曹界では、これまで公開された証拠だけでは背任罪の成立は難しいとみている。背任は予備や陰謀段階の処罰規定がないため、ミン・ヒジン元代表が経営権奪取を計画したとしても、実行しなければ罪にならないというものだ」
「ただし、ミン・ヒジン元代表が会社に損害を与える可能性のある機密内部資料流出の明確な証拠があれば、背任が成立する可能性は存在する」
9月時点での内紛の状況まとめ。背任容疑の捜査結果発表情報もあり(韓国トレンド研究所)
この他にも「法律新聞」は5月30日の記事などで「背任容疑についてのHYBE側の証拠は弱い」と報じてきた。
党の本人も、9月27日にソウルの龍山で行われたイベント「2024 HYUNDAI CARD DaVinci MOTEL」で再びこの点を強調していた。
「私は何も悪いことはしていない」
「私が勝つ」
現状は「確認すべき内容多い模様」=現地メディア
しかし、実際のところ11月29日の現在まで発表がない。韓国メディア「アジア経済」で法曹とエンタメ双方の担当経験があるキム・ヒョンミン氏はこう言う。
「確かに発表はまだありません。捜査については確認すべき内容が多くあるようです。そのため時間がかかっているようです」
韓国警察は本件での捜査情報にはかなり強いかん口令を敷いている。2023年12月に俳優のイ・ソンギュン氏がの不法薬物容疑がかけられた際、捜査情報の報道が先走り、結果、は自ら命を絶つという痛ましい出来事があった影響があるという。
いずれにせよミン氏はこの結果を待たずして、11月20日に「ADORを自ら辞職」という選択をした。その背景に何があったのか。先のことを展望するにも、この”原点”の結果は重要な要因になるだろう。