トラック運転手<待機時間>の記録義務化について
次のニュースが流れていました。
これは、荷物を運ぶトラックの運転手さんたちの荷積み・荷下ろしを待っている時間を記録させるというものです。
記録の結果、あまりに待機時間が長い場合は、荷主に対して勧告を行う、と報じられています。
これによって、ドライバーの長時間労働を是正する試みのようです。
横行している長時間労働隠し
使用者にとっては、荷積みや荷下ろしを待つ時間は労働時間に含めたくないようで、こうした待機時間を運送会社が「休憩」扱いにしている例はとても多くみられます。
やり方としては、運転日報に「休憩」と書かせるなどしている方法をよく見かけます。
しかし、荷積みや荷下ろしを待つ時間も労働時間なので、このようなやり方は「労働時間隠し」であり、違法です。
待機時間も労働時間というと不思議に思う人もいるかもしれませんが、最高裁判例で、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間とされており、使用者の指示があれば直ちに働ける状態を維持することも労働時間となるのです。
したがって、いつでも荷積みや荷下ろしができるように待っている時間も労働時間ということになります。
深刻な問題となっている運転手の長時間労働
報道のように、使用者に待機時間の記録を義務化するほど、トラックドライバーの長時間労働は深刻な問題となっています。
実際、私自身もトラックドライバーの残業代請求事件をいくつかやりましたが、その労働時間の長さには驚かされます。
長時間労働で疲弊させられたドライバーが運転するトラックが、高速道路をビュンビュンと走っているのですから、事故が起きないわけがありません。
事故が起きればドライバーの命はもちろん、巻き込まれた側の命にも関わります。
ですので、自分はドライバーじゃないし関係ないや、ということにはならないのです。
ドライバーの過酷な実態は、運輸労連が8000名以上の労働者から回答を得たアンケートからも明らかです。
同アンケートによると、1ヶ月の残業時間が60~100時間のドライバーが12.6%、101時間以上が3.7%います。
では、残業時間どおりに残業代が払われているのかな、と思ってみてみると、52.9%が払われているようです。
しかし、全く支給されていないドライバーが14.2%おり、時間より少なく支払われているドライバーが10.9%となっています。
2つを合わせるとドライバーの25%ほどの方が、残業代未払いがあるということになります。
そして、残業代であるのに、残業時間を基礎としない払い方(固定や運行経路)も横行していることが分かります(合わせて約20%)。
「働き方改革」でも例外扱い
実は、運送業は36協定の大臣告示の対象外となっていますので、現行法下においては、文字通り青天井で働かせることができます。
そして、今議論されている「働き方改革」の労働時間の上限規制でも例外扱いとされ、5年後に年960時間を上限とすることが検討されています。
しかし、年960時間ということは、1ヶ月80時間ですので、過労死ラインそのものです。
一般の労働者の年間720時間(月間最大100時間未満)もどうかと思う水準ですが、年間960時間は法が認めてよい限界を超えているといってよいでしょう。
長時間労働が問題化している業種こそ「改革」が必要
日本の物流を支える労働者の長時間労働を是正し、その労働環境を改善しなければ、担い手も出てきません。
その意味で、待機時間を記録させることは、小さい一歩ですが、評価できるものと思います。
しかし、本来、長時間労働が問題となっている業界こそ、「改革」が必要です。
5年後・960時間ではあまり「改革」感がありません。
もっと思い切った時間規制をすることが必要だろうと思います。