【18歳アイドル急死】「致死性不整脈」とは何か 医師の解説
今月8日に急死したアイドル・松野莉奈さん(18)の死因について、所属事務所は「致死性不整脈(ちしせいふせいみゃく)」の疑いがあると明らかにしました。この「致死性不整脈」とは何か、やや理解不足の報道が多い印象でした。そこで、専門用語をなるべく使わずに医師の立場から説明します。
18歳で急死の衝撃
とても健康な18歳の女性が、突然亡くなったという衝撃。持病もなかったそうですから、よっぽどのことがないと、18歳で死亡するということはありえません。極めて稀なケースであると考えられます。
死因についての憶測
死因については亡くなった報道の後に色々な怪情報が流れました。しかし、亡くなった直後に死因を診断するのは、長年患っていた病気がある患者さんを除いては不可能です。
死因を診断するのには、筆者のような臨床医(=外来や入院患者さんと話したり検査をして診断をする医師)と病理医(=臨床医の依頼を受け、検査で取れた患者さんの病気の一部を顕微鏡で見たりして病気を診断する医師)の双方が関わります。その病理医である榎木英介医師も、こう発言しています。
事務所は「致死性不整脈の疑い」と発表したが
多くのメディアでは「死因は致死性不整脈の疑いでした」として、不整脈に詳しい医師に取材するなどして多数の報道がなされました。しかし、これは正確ではありません。
というのは、「致死性不整脈」という病名は、はっきりと死因が特定できない時にひとまずつける死因であることが多いからです。前出の榎木医師も「致死性不整脈」について
としています。
「不整脈」とは何か?
その上で、この病気の名前について説明します。まずは「致死性」と「不整脈」に分け、「不整脈」から。
「不整脈(ふせいみゃく)」は聞いたことがある人が多いでしょう。「不整脈」とは、「心臓の縮むリズムが狂った状態」です。順を追って説明しましょう。
「不整脈」とは、文字通り「脈(みゃく)」が「不整」になる病気です。この「脈」とは、左胸に手を当てた時に感じる「心臓の動き」と同じです。心臓がドクンと鳴る時、袋のような形をした心臓はぎゅっと筋肉の力で素早く縮まります。すると、心臓の中に溜まっていた血液が出口から押し出され、出口から繋がっている全身の細かい血管まで一瞬で行き渡るのです。これは、手や首の血管を触ることでピクピクした血液の勢いを感じられるため、「脈」と呼んでいたのです。ですから「脈」=「心臓がぎゅっと素早く縮まり、押し出された血液の勢いのリズム」=「心臓が縮むリズム」と言えます。
この「脈」が「不整」になる、つまり「整わなくなる」という状態が「不整脈」です。
実は、正常な人であれば普段は「脈」=「心臓が縮むリズム」は一定です。まあ、メトロノームほど正確に一定ではありませんが、ほとんど等間隔にドクッ、ドクッ、ドクッと動いています。これが「不整」=「整わなくなる」と、ドクッ、ドクッ、ドドドッ、ドクッドクッ、と連発したり、ドクッ、ドクッ、・・・・、ドクッ、と一回縮み忘れてしまったりします。この状態が「不整脈」です。つまり、「不整脈」とは、「心臓の縮むリズムが狂った状態」と言えます。
「致死性不整脈」とは何か?
いまお話しした「不整脈」に、「致死性(ちしせい)」をつけたものが「致死性不整脈」です。「致死性」とは、「死」に「致」る「性」質を持った、という意味です。要は命に関わるということです。致死性不整脈が起きてしまうと、心臓がほぼ止まってしまった時と同じような状況になっています。心臓が止まれば、数秒で失神し、数分で死に至ります。
この「致死性不整脈」があるということは、「致死性でない不整脈」もあります。放って置いていい不整脈は、実はかなり多くの人が持っていると言われています。心臓は筋肉のカタマリですが、何十年も一度も休憩せずに、筋肉痛にもならずずっと動き続けるのですから、時々ミスはあるのです。
「致死性不整脈」は病名というよりは、「命に関わる不整脈たち」というようなグループ名であり、どんな原因でも命に関わる不整脈はこう呼ぼうというものです。ですから、その中にはいくつかの病気があります(※1)。しかし病気以外にも「運動中に胸に強くボールが当たり、致死性不整脈を起こした」というケースも筆者は聞いたことがあります。
目の前で人がぶったおれたらすべきこと
もし致死性不整脈が起きてしまった場合、その人はすぐに意識を失い倒れてしまいます。ほとんど心臓が止まった状態とイコールなので、大急ぎで処置が必要になります。
しかし、目の前で倒れた人が「致死性不整脈なのか」なんて誰にもわかりません。そこで、目の前で人がぶったおれたらどうすべきか、ガイドラインがありますので引用します。
(追記 2/12)
ここから、次に呼吸があるかどうかを確かめます。呼吸が無い、もしくはわからない時は胸骨圧迫を開始します。運転免許の取得の時にやった人も多いと思いますが、胸が約5cm下がるくらいに強く、一分間に100回以上ずっと続けます(※2)。
AEDが来たら
そして、AEDが届いたらどうするか。119番からその現場に救急車が到着するまでに平均8.5分(平成26年度全国平均、総務省HPより)かかりますから、自分でAEDを扱う必要があります。AEDにはいくつか種類がありますが、概ね同じ操作で使えます。
簡単な流れは、ケースを開けて機械を取り出し、機械の電源をつけ、パッドを倒れた人の胸に直に貼り、音声でボタンを押せと言われたら押す、これが心臓の動きを再開させる極めて重要な治療になります。
そのシステムを最後に紹介します。AEDのパッド(シールのようなもの2枚)を人間の体につけると、AEDは自動で心臓の動き(=心電図)を読み取り、さらに「致死性不整脈かどうか」を自動で診断するのです。そして「致死性不整脈」であると判断したら、音声で「ボタンを押してください」と言い、ボタンが押されたら「致死性不整脈」の治療(=電気ショック)をするのです。うまくいけば、これで救命出来ることも多々あります。AEDの使い方について詳細を知りたい方は、筆者の過去記事をごらんください。
最後になりましたが、亡くなった松野莉奈さんのご冥福をお祈りするとともに、ご家族やご友人、関係者の方々に心からのお悔やみを申し上げます。
※1 致死性不整脈には、「心室細動、持続性心室頻拍、トルサード・ド・ポワンツ、房室ブロック、洞不全症候群」(日本心臓財団ホームページより)などがあります。
※2 ご指摘を頂き、胸骨圧迫についての説明を追加しました。なお、本記事は厳密な心肺蘇生法の紹介ではないため、詳細を知りたい方は「JRC 蘇生ガイドライン 2015 オンライン版」(一般社団法人 日本蘇生協議会) をご覧ください。