「趣味は月1万円以内」というバカ話にツッコミを入れる
■「趣味は月1万円」という記事がBUZZる
Yahoo!ニュースのBUZZ、つまりネットで話題になっているネタのランキングページがありますが、「趣味は月に1万円」という話題が9月9日に大ヒットしていました。日経新聞電子版の「月に1万円以上使うなら『お金がかかる趣味』(20代から始めるバラ色老後のデザイン術)」が元ネタらしいのですが、1.8万BUZですから相当なものです。
元記事リンクはこちら(ただし該当記事は一定期間後会員のみ閲覧になる。無料会員登録で読むことが可能)
未読の読者(あるいはタイトルだけ見て本文を読んでいない読者)のために簡単に要約すると、
'''・趣味をカネがかかる趣味とそうでない趣味に区分整理してみる
・月に1万円以上かかるならカネがかかる趣味と認識し、予算をコントロールしたい
・カネがかかる趣味はひとつかふたつにしておいたほうがいい
・カネがかからない趣味も持っておくといい'''
このコラム、ちょっとスキが多いというか、脇が甘いところがあって、ツッコミどころ満載だったことがネットのネタになった一因かと思われます。
「趣味が月1万円で収まるわけがないだろう」とか
「○○趣味がカネがかからないとか認識甘い」とか
「カネのかけかたにリミットかけられないから趣味なんだろう」とか
「家計の予算管理が先にあって趣味予算を確保するなんてつまらん話。趣味予算が先にかかって残りで家計をやりくりするのが趣味人だろう」とか
いろんなコメント、様々な言説がネットに吹き荒れました。
BUZZネタについては欠かさずコメントするホリエモンもTwitterで「こんな事考える人生ってウンコでしょ笑」とコメントしています。
筆者も趣味のお金の使い方については思うところがあるので、少しツッコミを入れてみたいと思います。
■ツッコミ1)同じ趣味でもカネがかかる場合とかからない場合がある
このコラムのもっとも甘いところは、「趣味のカネがかかる/かからない」の区分です。
本人も独断と偏見で分けた(ないしリストアップした)としていますが、同じ趣味の予算レンジが広すぎるという実態を説明しきれていません(ちょっとは指摘しているが)。
いわゆる秋葉原系のオタクであっても、金を使いまくる人とそうでない人の差は大きいものがあります。毎月5~10万円の予算をガンガン投下する人もいれば、数カ月に一本程度のゲームを買う人、年に1作品くらいしかアニメのブルーレイを買わない人もいるはずです。後者はゲーオタ、アニオタであっても予算は月1万円を割るでしょう。
逆にスポーツ観戦(カネのかからない趣味にカテゴライズされている)も、本気でサポーターをすると予算は半端ではありません。アウェイも参戦するサッカーのサポを想像してみればチケット代と旅費はとんでもない金額になります(だから自由席にしたり乗り合いで車で出かけたりする)。こちらはむしろカネがかかる趣味であるはずです。ペットの趣味も熱帯魚やは虫類なら余裕で月1万円オーバーです。
趣味人はそもそも自分の趣味について誤った認識でコメントされることを快く思いません。このあたりは個人の問題といいつつも、もう少し詳しく述べるべきではなかったでしょうか。
■ツッコミ2)複数趣味をもっていたら月2万円でもいいのか
一カ月で1万円以上かかる趣味はカネがかかる趣味と心得るよう指摘していますが、そもそも趣味の予算はどれくらいが適当か指摘していないので、これまたツッコミが可能になっています。
たとえば2つ趣味をもっていたら趣味の予算をつき2万円にすることはOKなのか、記事を読むだけでは分かりません。たぶん、カネがかかる趣味も2つくらいならもってもいい、というのですから予算が2倍になることは許容していると思われます。
それならば、カネがかかる趣味はひとつにしぼるので予算は月2万円でもいいのでは、と考えることもできますが、そのあたりもはっきり書かれていません。
カネがかかる趣味はふたつくらいにしておけ、というメッセージの意味合いと、実際のオタク予算のかけ方についてうまく書かれていないので、もやもやとします。
■ツッコミ3)よく読むと、「1万円に抑えろ」とは書いてない
ネットでのコメントを読む限り「趣味は1万円を超えてはいけない」と著者は指摘しているかのように理解されています。しかし、よく読むとおかしなことに気がつきます。
著者は「趣味の予算を月1万円に抑えろ」とは明言していないのです。むしろ趣味にお金を使うことは仕事とプライベートのメリハリにもなるし悪いことばかりではないとも別所で指摘しています。
つまり、「1万円を超える趣味であることを自覚せよ」と認識を問い、
「趣味の予算が無制限にならないようコントロールせよ」というのが著者の主張です。
どうやら著者の主張は、家計を破綻させてまで趣味にカネをつぎ込む状態にならないよう警鐘を鳴らしているようです。しかし、それがダイレクトに伝わりにくく誤解を生んでいるように読めます。
タイトルが意図的にミスリードを誘っているのか、判断は難しいところですが、著者の意図とネットの反応がズレているのはもったいない気がします。
(かといって、著者の主張をそのままタイトルにしたらここまでBUZZることはなかったでしょう)
■まとめ 趣味はきわめて個人的なもの
今回のネットの反応をみて感じるのは、趣味というのはきわめて個人的なものであって、その人のプライドでもある、ということです。
おそらくこの著者は人の趣味を否定しているわけではなく(本人もオタクらしい)、趣味で借金するようなバカなまねはしないように、と言っているだけなのでしょう。
しかし、趣味を持つ人の琴線ないし逆鱗に触れる要素であったことは確かです。ここまで反応が大きくなると、むしろ興味深い現象に思います。
しかし、個人的なものだからといって、誰かの助言が無意味であるとは限りません。また、趣味にどれくらいのお金をかけるべきか、ファイナンシャルプランナーのようなお金の管理に詳しい立場の人が発言することもほとんどありませんでした。(こういう人はたいてい、ムダな出費は削れ、と言い、趣味の予算は認めてくれない印象です)。
その意味では、突っ込みどころの多いコラムかもしれませんが、ひとつの判断軸となってもよいようにも思えます。
■最後に(種明かし的に)
……実はこの記事を日経に書いたの、私自身です。
この記事は当日のデイリーアクセスランキングでも総合1位でしたが、ウイークリーのアクセスランキングでも1位となったことが日曜日の日経新聞朝刊で紹介されています。
日経の記事がネットでBUZZるというのはあまり例がないらしく、かなりのアクセスを稼いだと聞いています。2年以上にわたって住宅購入や子育て、退職金や年金不安などをいろいろ語ってきて、今月はたまたま「趣味のお金」の話だったのですが、反応の大きさにちょっと驚きました。
日経電子版の記事は月単位でテーマを決めており、16日掲載分では、より具体的な予算上限の話をしています。もしよろしければこちらもごらんください。
あ、先ほどのセルフツッコミについて回答を(笑
1)カネがかかる趣味とかからない趣味の区分は本当に難しいです。同じ趣味でもハマり具合でまったくカネの使い方は変わりますし、独身か既婚者かでも予算は全然変わってきます(既婚者からすると「1万円以上かけたら確かにかけすぎだよなあ」という感想が返ってきます)。ここに掲げているのはしょせんは例示なので、最後は「自分はどうか」で判断することがポイントかと思います。
2)複数の趣味がある場合、合計予算で意識する必要があります。ひとつの趣味に特化している場合も同様です。年収の1割を超えるとちょっと多い感じで、2割を超えるとかけすぎ、という感じです。このあたりは9月16日掲載コラムで書いています。
3)趣味の予算を1万円にしろ、というのはこのコラムの趣旨ではなく、「1万円を超えたらカネがかかると認識せよ」が趣旨でした。趣味に1万円を超えることはしばしばで、私自身もマンガは月1.2万円~1.5万円買います。問題は使っているカネを把握しているかどうかと、それに見合った節約等を他でしているかだと思います。