ラーメンAFURIと吉川醸造の商標権争いの現時点まとめ
AFURIと吉川醸造の争いについて、前回の記事では、商標権侵害訴訟と審決取消訴訟の違いを一般的に説明しました。多少の不正確さを承知で言うと、商標権侵害訴訟は相手を叩きつぶすための争いであり、審決取消訴訟は相手の武器または防具を無効にするための争いです。
本記事では、2024年5月16日に出た審決取消訴訟判決文の具体的内容について、解説します。
事の発端は、2021年6月30日に登録された吉川醸造の「雨降」(英文字もフリガナもない筆文字)の商標登録(6409633号)に対して、2022年8月22日にAFURI社が無効審判を請求したことです。両社の争いが公に知られるようになったのは2023年8月頃ですが、それ以前から水面下でいろいろ争いがあったことになります。
この無効審判の請求理由は、「雨降」商標登録が、①先登録商標「AFURI」(6245408号)と類似する、②周知商標であるAFURIとの混同を招く、③周知商標であるAFURIにフリーライドした不正目的の出願である、④周知商標であるAFURIに類似した出願は公序良俗違反であるといったものです。結局、主な議論は「AFURI」と「雨降」が商標ととして類似するかという点に帰着します。
これに対して特許庁審判官は、「AFURI」と「雨降」は商標として類似しない、および、「AFURI」は周知商標とは認められらないとしてAFURI社の請求を棄却しました。これに対して2023年10月25日に、AFURI社が審決取消訴訟を知財高裁に提起したわけです(審決取消訴訟は地裁をパスしていきなり知財高裁に提起されます)。
審決取消訴訟でもAFURI社側の主張は基本的に同じで、ロジックと周知性の証拠が強化されているくらいです。そして、知財高裁は特許庁の審決とほぼ同じロジックでAFURI社の請求を棄却しました。周知性については「原告店舗は国内では首都圏を中心に16店舗にとどまっていること、宣伝広告やメディアへの露出等によって周知著名と言い得る程度に使用商標が知られていることを示す証拠があるとは言えないことからすると、使用商標が周知著名であるとまで認めるに足りない」と否定してています。
この判決が侵害訴訟に与える影響ですが、前回記事に書いたとおり、吉川醸造の「雨降」の有効性が確実になったため、これと同一範囲内での使用についてはAFURI社側は権利行使できなくなりました(冒頭のたとえを再度出すと、吉川醸造の防具の一つに無効化に失敗したことになります)。なお、一般的には不正競争防止法であれば登録商標の同一範囲内ので使用にも権利行使できますが、前述のとおりAFURIの周知性が否定されたことでこれも不可能です。
審決取消訴訟から侵害訴訟に話を移すと、AFURIという英文字商標の使用がどう判断されるかは何とも言えませんが、たとえば、「雨降」は継続使用可能だが、「AFURI」は使用不可という判決が出ることは十分考えられます。
以下、細かくなりますが、この機会に、両社の商標登録(出願)と無効審判の現状についてまとめてみます(今回の訴訟に関係あるもの(日本酒を指定したもの)のみ)。
AFURI側
AFURI(6245408号)
2019年4月24日出願/2020年4月14日登録
商標権侵害訴訟で使用されていると思われる登録商標です
2023年5月12日にAFURI側が判定請求(商標権侵害について裁判所ではなく特許庁の見解を求める制度)をしていますが、まだ係属中なので内容不明です。
2023年8月16日に吉川醸造側が無効審判請求していますが、これも係属中なので内容不明です。
※ この登録に対して不使用取消審判(3年以上商標が不使用だと請求可能)が請求されていてもおかしくないのですがされていません。AFURI社が自社の海外店舗向けの日本酒のラベリングを日本国内で行っていることにより商標が使用されていることが当事者には明らかだったので不使用取消は選択肢外となったのかもしれません。
「AFURI\阿夫利」二段書き文字(6609896号)
2022年5月6日出願/2022年9月2日登録
2023年9月21日に吉川醸造側が無効審判請求(係属中なので内容不明)
侵害訴訟で使用されているものと思われます
「阿夫利」縦書き筆文字(6646765号)
2022年7月15日出願/2022年11月30日登録
2023年9月28日に吉川醸造側が無効審判請求(係属中なので内容不明)
侵害訴訟で使用されているものと思われます
「AFURI/アフリ」 二段書き(商願2023-023181)
2023年3月6日出願/審査中
既に英字のみ商標が登録されているのに重複的に出願している理由がわかりかねますが、万一不使用取消された時のバックアップのつもりだったのかもしれません。
この出願には6409633号(今回の「雨降」登録商標)の無効審判の結果を待つとの通知が出ています。特許庁審査官としては「雨降」とAFURIが類似するという判断なのかもしれません。
「あふり」(商願2023-023183)
同上です。
吉川醸造側
「雨降」(6409633号)
今回対象の登録商標です。審決取消訴訟により有効性が一応確認されました
「雨降 AFURI」(商願2023-032269)
上記にAFURIの英文字が付いたパターンです(タイトル画像参照)
2023年3月14日出願/審査中
「AFURI」(6609896号)との類似を理由とする拒絶理由通知が出ていますが、無効審判の確定待ちです。
「雨降/あふり」(商願2023-032281)
同上です。
全体的に言うと、AFURI社の6245408号が一番出願日が早いのでこれが生きている限り、AFURI社が有利ですが、仮に6245408号が無効になると形成が逆転し得ます。ただし、無効審判がどういった理由で行われているかは不明ではあるものの、外部からは明らかに無効になる理由があるとは思えません。仮に産地表示に過ぎないという理由で無効を請求しているのだとしたら、「八海山」はどうなのよ、そもそも「雨降」も「阿夫利」の別名ですよねとなってしまいます。