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Cö shu Nie 海外ファンも虜にする唯一無二の世界の根底に流れる、誰もが自己肯定できる優しさ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ジー・ミュージック

数々の人気アニメの主題歌やEDを手がけ、国内外のファンを虜にする、独特の世界観の音楽

Cö shu Nie(コシュニエ)といえば、『東京喰種トーキョーグール:re』や『約束のネバーランド』『呪術廻戦』『15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ』など、これまで人気アニメの主題歌やエンディングテーマを数多く手がけ、その独特の世界観の音楽が、国内にとどまらず海外のファンも虜にしている。

ロックでありポップでありオルタナでもあり、ジャズのアプローチを取り入れた曲もあり、全く説明がつかない多様で繊細な音を鳴らすCö shu Nie。その全曲の作詞作曲を手がける中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)と、強烈なリズムでバンドの音を支える松本駿介(B)にCö shu Nieの音楽がどうやってできていくのか、そして6月28日に配信リリースした新曲「no future」について聞かせてもらった。

これまで様々な人気アニメの音楽をクリエイティブし、作品に寄り添いながらも、毎回そこに自分達の爪痕を残してきた。そのアニメのファンがCö shu Nieの音楽にハマることはもちろん、Cö shu Nieの音楽を聴いたことをきっかけに、アニメを見始めたという声も多い。アニメタイアップとCö shu Nieの音楽の関係とは?

中村 幸せなことに、これまでアニメとタイアップさせていただいた楽曲が、すごく自分に合っていたんだろうなということはすごく感じます。アニメ用の楽曲とそうじゃない楽曲を作る時、使う感性は同じだとは思いますが、作品を読むと、そこから作者が叫んでいるような、浮かび上がってくるような場面があるじゃないですか。そういう部分ってたくさんの人が共感するところでもあると思うので、自分自身もすごく共感するところがあって。そんな親和性みたいなものを見つけて、テーマとしては共通点を探すけど、掘り方としては自分の曲を書く感じです。そうじゃないと作品に責任を持てなくなるので、アニメのテーマソングであっても、自分の曲であるというところは守ってきたつもりです。

インディーズ時代に「asphyxia」がアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のOPテーマに抜擢

2018年インディーズで活動していた中で、『東京喰種~』の原作者・石田スイ氏自らがフックアップする形で「asphyxia」がオープニングテーマに抜擢された。

中村 インディーズ時代から、正直国内の反応より、海外からCDを送って欲しいという声が多かったんです。だからジャンル的にもそういう部分はきっとあると思うし、アニメでさらに自分達の音楽が海外に広がったという感覚はあります。

松本 インディーズ時代はYouTubeにもそんなに投稿していなかったので、海外の方も石田スイ先生もよくぞ見つけてくださいましたって感じです。

初期衝動が詰まったインディーズ時代ミニアルバム3作を配信リリース

そんなインディーズ時代のミニアルバム3作『イドラ』(4月1日)『オルグ』(5月1日)『パズル』(6月1日)が4月から3か月連続で配信リリースされた。初期衝動が熱量となって閉じ込められ、カオティックな世界の中にCö shu Nieの軸をきちんと感じることができる。そして中村の歌がより生々しく、襲い掛かってくる感覚だ。

中村 あの時代は“叫び”という感じだったと思います。

松本 爆発してたな(笑)。

中村 だから今は当時と比べたら発声方法も歌い方も変わったと思います。

松本 純粋なバンドサウンドでしたね。

中村 言葉とサウンドに乗せて、胸の内に溜まってるものを垂れ流している感じでした。

インディーズ時代の楽曲といえば、2011年に会場限定で発売した1stシングル「迷路」を、2022年発売の2ndアルバム『Flos Ex Machina』に「迷路~序章~」「迷路~本編~」として再録。それまではライヴでしか聴けない幻の曲になっていた。最初のバージョンとは歌詞が変わっている部分もあり、中村の意識の変化を感じとることができる。

中村 一番最初のシングルを、10年後に発売した冒険心に溢れた『Flos Ex Machina』というアルバムに入れて、全然違和感なく聴けるというところに私としても少し誇りを持っていて。いい意味で進化はしてるけど、ブレずにやっている部分があるという表明として、自分達の根源ともいえる「迷路」を入れて、次のアルバムの根源にもなっています。

「自分の逃げ場、安心できる場所、ここではないどこかを作ることが創造の源」

Cö shu Nieの音楽はまさに“際限ない”。一曲一曲全くテンションが違い、違うアーティストの作品のように聴こえる。アバンギャルドなものからキャッチーなものまで、聴き手のイマジネーションをくすぐる中村の多彩なクリエイティブの源泉は、どこにあるのだろうか。

中村 育った環境だと思います。家庭環境があまりよくなかったことに起因しているのか、悪夢ばかり見ていました。毎日毎日悪夢を見るので、眠りたくない日がずっと続いて、そういう妄想に近い、ここではないどこか、みたいなものに強い意識があって。そこをより具体的に景色として描いていったものが『イドラ』『オグル』です。自分の逃げ場というか、自分が安心できる場所というか。夢の中で色々な怖いことが起こるんですけど、ここではない、とりあえずこの現実ではないどこか、というのが創造の源になっています。

「意味のわからない悪夢をずっと見ていて、でもそれが『asphyxia』を書いた時に消えたんです」

中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)、松本駿介(B)
中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)、松本駿介(B)

その“どこか”を自分で作っていくことが中村のクリエイティブであり、Cö shu Nieの音楽である。だから多くの人が“駆け込みたくなる”世界観なのかもしれない。

中村 今になって思うのが、それを色々な人と共有して、みんなの安心できる場所でありたい、というところに繋がってくるんです。夢の内容は本当に自分でも意味がわからなくて、ぶっ飛んでいると思います(笑)。意味のわからない夢をずっと見てて、それが「asphyxia」を書いた時に消えたんです。アニソンを書かなければ、と結構たくさん曲を作りました。でも(石田)スイさんに「自分自身の曲を書いて欲しい」と言われて、それでいいんだって思って、その時に自分の過去と向き合って書いた曲です。逃げ場を作ることも大事だけど、自分の引きずってきたものを理解することが、私には必要だったのだと思う。だから音楽を書くことはライフワークで、それなくして生きてこれなかったと思います。

松本 夢の話は、僕も結構夢を見るほうなので想像はできたし、デモの段階からイメージがすごく湧くというか、インスピレーションが一気に湧くタイプのデモをくれるので「これどういうことなんだろう」ということは、今まで全く感じたことがないです。その部分は最初から波長が合ったというか、共鳴できていたというか。

「『パズル』から明らかに思考が変わってきた。歌詞をきちんと伝える歌モノの音楽として、みなさんと共有したいと思うようになった」

中村 『パズル』辺りから明らかに思考が変わってきたと思います。歌詞をきちんと伝えたい、ちゃんと歌モノの音楽としてみなさんと共有したい、そんな思いが芽生えてきた時期で、それがアニメというもので繋がり始めて。言葉にするということは、小さな箱に想いを詰めることで、クオリアみたいなものが、全部ギュッと凝縮できたらいいんですけど、削ぎ落とされる可能性があるので、そうじゃない表現を自分でできるような気がして、そこを目指すようになりました。『パズル』から「asphyxia」の間の時期、歌詞っていらないのでは?と思ったことがあって。言葉になってなくても音楽って雄弁に語るし、そういうものが自分達には合ってるんじゃないかなと思ったのですが、そういう運命ではなかったみたいです。

魂を削るような重厚かつエモーショナルなベース、驚異的なテクニックを駆使する高速かつ複雑な演奏のドラム。歌と音が緻密に重なり生まれるグルーヴ

6月18日開催された『YATSUI FESTIVAL!2023』で、遅ればせながらCö shu Nieのライヴを初めて観た。中村の繊細で表情豊かな歌と、超絶技巧のリズム隊の音は圧巻だった。松本のベースはまさに魂を削るような重厚かつエモーショナルで、ドラムは驚異的なテクニックを駆使する高速かつ複雑な演奏。歌と音が緻密に重なり生まれるグルーヴ。気持ちと体が前のめりになりその世界に浸った。2020年にドラムが脱退してからは、サポートドラムと共に極上のアンサンブルを作り上げている。

(C)YATSUI FES.2023(O-WEST) Photo/MIWA TOMITA@shirivasta_miwa
(C)YATSUI FES.2023(O-WEST) Photo/MIWA TOMITA@shirivasta_miwa

中村 ベースは、魂はもちろん色々なもの削っていると思います。じゃないとあんなにカッコいい音は出ない。

松本 歌のパワーで助けられています。一番届くのは歌でありそれがこのバンドの武器でもあるので。

中村 ドラムに関しては、ジャズやロック、R&Bとかそのドラマーのスタイルが色々ありますが、私達はロックがメインなので、その確固たる音像を伝えます。昔からドラムのアレンジに関しては結構細かくオーダーしていたので、そこはギャップは少ないと思います。サポートの方が熱量を持ってやってくれる人が多く、元々Cö shu Nieを聴いてくれていたり、好きでいてくれた人が手伝ってくれています。

(C)YATSUI FES.2023(O-WEST) Photo/MIWA TOMITA@shirivasta_miwa
(C)YATSUI FES.2023(O-WEST) Photo/MIWA TOMITA@shirivasta_miwa

松本 中村自身がドラムもやっていたので、自分達の音像をしっかり表現するために、手数まで細かく指示しています。ドラマーがドラマーに伝えるのでそこは「無理です」とは言えないかも(笑)。理論的には可能なことしかやっていないので。ギリギリですけど(笑)。

中村 不可能なフレーズは絶対ないはず(笑)。ライヴは曲によって音源の再現性にこだわるものと、全然違うアレンジにしている曲もあれば、でもベースとか楽器は完全再現していますね。それを見せるためにシーケンスを抜いて聴こえるようにしたり、プレイヤーとしての松本駿介を私としても見せたいんです。曲が持つ力が一番ダイレクトに伝わるようなライヴにしたくて。もちろん会場によっても違うと思うし、それをずっと試行錯誤しているので、来てくださる度にアレンジが変わっていたりすると思います。

松本 ライヴは、曲を生でよりよく伝えるにはどうすればいいか、ということに主眼を置いているので、音を減らすということでも、再現にこだわるということでもなく“プラスアルファ”という考え方です。

「誰にでも色々な“何もしたくない”があると思う。でもあまり罪悪感を感じないでこういう歌を歌って過ごせたらなと思い作ったのが『no future』」

6月28日に配信リリースされた「no future」は、ヒッポホップのビートを基点に、グランジ、パンク系のオルタナティブロック。バンドサウンドの乗せ〈何もしたくない 何も意味ない/仕事いきたくない/何もしたくない 何も意味ない/家から出たくない〉という日常のダルさを歌う、荒々しくも中毒性のある作品だ。

中村 朝起きた瞬間に「ダル、今日はもう何もやる気ない」みたいな日って誰にでもあるじゃないですか。仕事が忙しすぎて、心が疲れ果てて「今日はもう無理」ってなることもある。あとは劣等感から自分は何をしても意味がないと思ってしまい、やる気がでないとか、色々な“何もしたくない”があると思う。でもこういうことであまり罪悪感を感じてほしくないなと思っていて。それでまた落ち込んでしまっては意味がないし、どうやっても明日も生きるんだから罪悪感を感じずに、こういう歌を歌って過ごせたらなと思って作りました。こういう生活の一部にフォーカスした曲を作ることが今まであまりなくて、でも個人的でもっと人間らしいテーマの積み重ねで、自分の根源をもっとリアルにしていきたいという思いの表れなのかもしれません。

松本 最初に聴いた時、Cö shu Nieらしい曲だなって思ったし、やりたいことがシンプルかつ細かいところにも感動しました。何もしたくないっていうメッセージ性は確かに感じたけど、自分は特に裏のグラデーションがすごく気になりました。ロックがベースのようだけどそうじゃなくて、生バンドのグルーヴが求められている曲だと思ったので難しかったです。

9月からライヴハウスツアー、来年ニューアルバムを発売

「no future」(6月28日配信リリース)
「no future」(6月28日配信リリース)

Cö shu Nieは7月2日初の海外公演となる『Anime Expo 2023』(ロサンゼルス)に出演。8月25日には国内有数の大型アニメフェス『Animelo Summer Live 2023 -AXEL-』にも出演する。さらに9月から全国9都市を巡るライブハウスツアー『Cö shu Nie Live Tour 2023-unbreakable summer-』を開催する。「no future」の歌詞とリンクする“終わらない夏”というキーワードを冠したワンマンツアーだ。そして来年ニューアルバムを発売することもすでに発表している。

中村 「no future」で<終わらない夏休みが欲しい>って歌っているので、8月31日がずっと続くような、終わらない夏休みを再現したい

松本 次のアルバムでは、これまで以上に挑戦することになりそうで、その幕開けともいうべき作品が「no future」です。

Cö shu Nieオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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