資産400億円「アンドロイドの父」の乱れた関係 ハリウッドだけではなかった グーグルでもセクハラ横行
グーグルのセクハラ2年間で48人「クビ」
[ロンドン発]「過去2年間に上級管理職かそれ以上の地位にある13人を含む48人についてセクハラを理由に契約を打ち切った。誰一人として退職の際、特別待遇は受けていない」
グーグルの最高経営責任者(CEO)サンダー・ピチャイ氏と人事担当副社長が社員全員にこんなメッセージを送り、衝撃を広げています。
発端は米紙ニューヨーク・タイムズが、スマートフォン用OS(オペレーティングシステム)「アンドロイド(Android)」を開発した元グーグル副社長アンディ・ルービン氏が2014年10月に同社を去ったのはセクハラが原因だったにもかかわらず、その際9000万ドル(101億円)も受け取っていたとスクープしたのがきっかけです。
もう少しピチャイCEOのメッセージを見ておきましょう。
「今日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された話を読むのは辛かった。我々は安心して働ける性差別のない職場環境をつくることを非常に真剣に考えている。セクハラや不適切な振る舞いに関する申し出の一つひとつについて調査し、対応している」
「この数年、管理職の不適切な振る舞いについてより厳格な対応をとることを含め、多くの改革を行った」「15年にリスペクト@を発足させ、社内調査の透明性を高めるため、社内調査の年次報告書を発行している」
社員と関係を持った副社長には報告義務
「ハラスメントの報告は苦痛を伴うので、不適切な振る舞いを経験したり、見たりした社員が秘密裏に、望むなら匿名でも訴えることができる方法を確立している」
「すべての副社長、上級副社長に直属の部下かどうか、利害対立があるかどうかにかかわらず社員と関係を持った場合、報告するよう求める規則を強化している」
ニューヨーク・タイムズ紙によると、過去10年間で不適切な振る舞いで告発されながらも高待遇を受け続けた役員はルービン氏を含め3人いるそうです。
男と女の間には性的な関係はつきものとは言うものの、職場の上下関係の中で自由意志に反して行われた場合、重大な人権侵害が発生します。性交渉を持つことについて「同意」契約書を交わしていたとしても、婚外の関係なら道徳や倫理上の問題が発生します。
「アンドロイドの父」ルービン氏にかけられたセクハラ疑惑をニューヨーク・タイムズ紙から拾ってみました。
「グーグルで妻と出会う一方で、複数の女性社員とデート。11年にアンドロイド部門の女性と同意の上、性的な関係に。13年、婚外関係の女性に対してホテルでオーラルセックスを強制。社内調査の結果、グーグルの共同創業者で現在は持ち株会社アルファベットCEOのラリー・ペイジ氏がルービン氏に辞任を要求」
「ライバル企業で働かないことやこの件について話さないことを条件に、4年間にわたって毎月約200万ドル、計9000万ドルの支給を受ける。退職後に起業したエッセンシャルにグーグルは数百万ドルを投資。18年8月に離婚した前妻が今月になって『ルービン氏は結婚中に、複数の女性に数十万ドルを払って所有関係を持っていた』と提訴」
「君は私の所有物。他の人に貸し与えることもできる」
前妻が起こした裁判には15年8月にルービン氏が1人の女性に送った「君は世話をされるのを幸せに感じるようになる」「所有されるというのは私の持ち物になるようなもので、他の人に君を貸し与えることもできる」というメッセージのスクリーンショットも提出されているそうです。
ルービン氏がグーグルに加わったのは開発したスマホ用OSアンドロイドが5000万ドル(56億円)で買収されたからです。アンドロイドは世界中のスマホの8割で使われるという大成功を収め、グーグルはパソコンだけでなく、スマホも支配するようになりました。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、ルービン氏の傲慢さは増し、部下を「愚か者」「無能」と誹謗することもしばしば。性的興奮を得るための拘束行為を撮影したセックス動画がルービン氏の職場のコンピューターから発見され、ボーナスが一部カットされたこともあるそうです。
11年にルービン氏はグーグルの上級副社長に昇任。年収は2000万ドル(22億4600万円)に。13年にはロボット部門の責任者に就任。東大発ロボットベンチャーSCHAFT(シャフト)や歩行ロボットのボストン・ダイナミックスなど総額9000万ドル(101億円)の買収を主導したことでも有名です。
前妻によると、ルービン氏の資産は09年の1000万ドルから3億5000万ドル(393億円)に膨れ上がったそうです。
米ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が長年、映画界での影響力を乱用して複数の女優に性的関係を迫っていたことが明らかになり、ツイッター上でセクハラを追放する「#MeToo」運動が始まりました。
フランスでは「#BalanceTonPorc(男尊女卑の豚野郎を引きずり出せ)」というセクハラ追放運動が拡大。日本でも、女性記者へのセクハラを週刊誌に報じられた財務省の福田淳一事務次官(当時)が辞任に追い込まれ、6カ月の減給20%の懲戒処分を受けました。
権力ある所にセクハラあり。シリコンバレーにはハリウッド以上のカネと利権が渦巻いています。
配車アプリサービス、ウーバーでは昨年2月、元社員の女性がブログで「上司が露骨に体の関係を誘ってきた」と告発。今年8月には、セクハラや差別の被害を訴えた現社員や元社員計56人に対して190万ドル(2億1300万円)を賠償することで和解へ、と報じられました。
シリコンバレーの職場環境向上サイト「見て見ぬふりをされているバレーの問題」の調査では、47%の女性社員がメモ取りや食事の注文など男性社員なら頼まれない仕事を命じられたと回答。実に60%の女性社員が望まぬ性的な誘いを受け、このうち65%は上司からの誘いだったことが分かっています。
ロボット開発も手掛けた「アンドロイドの父」をめぐるセクハラ問題はシリコンバレーに一気に広がっていく恐れが十分にあります。
(おわり)