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「金をかけず、命をかける」。小沢仁志の哲学

中西正男芸能記者
来年の還暦に向けて記念映画を撮影中の小沢仁志さん

 「顔面凶器」の異名を持つ俳優の小沢仁志さん(59)。NHKドラマ「風の向こうへ駆け抜けろ」(総合、12月18日、25日)に出演する一方、来年の還暦を記念した映画「BAD CITY」にも取り組んでいます。体を張り続けた役者人生でしたが、その中で見出した哲学とは。

金をかけず、命をかける

 もう来年で還暦なんだよね。

 ウソみたいな話でもあるけど、今までずっとアクションをやってきて思うのは、そもそも日本映画の中でアクションの比率ってのが少ない。

 それも当然というか、すごい仕掛けを作るとか、CGで見せるとなると、どうしても海外の作品の方が派手で大掛かりなものになるからね。

 だから、日本のアクション映画としてはそこで勝負するんじゃなくて、それ以外のところで「すごい!」と言わせるしかない。そうなると、やっぱりボディーアクションになってくるんだよね。

 ハリウッドのスターがやらないような役者本人によるカースタントだとか、そういう説得力でうならせる。ま、トム・クルーズはいろいろと自分でやってるけど、こっちはもう一つ痛みが伝わるような、本当に危ないんだけど紙一重でかわすようなものを常に考えてきた。

 金をかけず、命をかける。

 そんなことをやってきたつもりだし、還暦記念の映画も撮影してるんだけど、そこでもそんな生き様を見せられたらなと。

「死ぬ」と思うと死ぬ

 「SCORE2 THE BIG FIGHT」(1999年)という映画をやった時には遊園地の観覧車を倒してその下をギリギリ駆け抜けたり、ジェットコースターを寸前でかわすとかいうのもやったよ。

 実際、ジェットコースターではケツは轢かれてたんだけど(笑)、あと0コンマ何秒ズレてたら、そこで終わりだったよ。さすがにジェットコースターに轢かれたら、さすがにこれはたまんないからね(笑)。

 常にそういうことと向き合っているから、プライベートで何かあっても驚くほど冷静でいられるんだよ。

 以前、札幌に行った時に道が凍ってて滑って転んじゃった。倒れて車道の方に出ちゃったんだけど、そこにタクシーが走り込んできた。

 完全に絶体絶命の状況なんだけど、そこでもちゃんと頭が働くんだよ。転びながらもバンパーのところに足を当てて、タクシーに押される形で直撃は防いでた。

 そして、倒れたまま路上をタクシーに押されながら「この体勢で拳銃を撃ったらカッコいいんじゃないか」というアイデアが浮かんできて。タクシーが止まって、顔面真っ青になった運転手さんが出てきたけど「ありがとう!おかげさまですんげぇアイデア思いついたよ」と言ったら、向こうはポカンとしてた(笑)。

 「これは死ぬな…」と思う現場もあったけど、そこで「死ぬ」と思うと死ぬ。「死んでやろう!」と思うと、意外と死なない。なかなか検証できない領域だけど(笑)、オレはそう思ってやってきたんだよな。

モチベーション

 役者になってそんな生活を続けてきたし「日ごろからトレーニングも欠かさないんですか?」なんてことを聞かれることも多いんだけど、実際、正月の三が日以外は毎日ジムには行ってる。

 そう言うと、みんなに言われるんだよ。「やっぱりそうなんですね。あれだけのアクションをやるために鍛えてるんですね」って。

 でもね、それは大きな間違い。誰が、危ないことやるためにジム行って重たい器具を上げ下げするんだよ。そんなんだったらモチベーションも湧かねぇから。20歳のオネエチャンと海行った時に腹出てたら父親かパトロンにしか見えないじゃない?それがオレにとっては美学に合わない。そのためにやってんだよ。

 オレはずっと思ってるんだけど、動機は不純なほど長続きする。それが根っからの若さを保つことにもなるだろうし。

 オレにとって絶対的に大きな存在が二人いて、一人は亡くなった東映の映画プロデューサー・黒沢満さん。それと、松竹にいた奥山和由さん。二人からは俳優、監督、プロデューサー、そして人としてあらゆることを叩き込まれた。

 二人に報いるためにも「やっぱり小沢は死ぬまで小沢だったな」と思ってもらうような生き方をするしかないと思うんだよね。

 それと同時に、オレの中で60歳という節目は大きくて、先輩方は軒並み60過ぎで人生のターニングポイントを迎えている。60過ぎで亡くなったり、病気をしたり。

 60代が何年続くかなんて分からない。だって、十代からまともな暮らしなんてしたことねぇし、酒と女と映画だけの人生だから(笑)。今でも朝まで飲むし。だから、長生きできるわけない。酷使してきたからね。

 長生きはできないだろうけど、今できる最高に楽しいことがしたい。そして、オレがいろいろな先輩にやってもらってきたように、若い人間にいろいろな経験や実績を積ませる。それだけはやっておきたいと思ってる。

 還暦の映画っていうのも、オレの集大成みたいなことも言ってるけど、本当はこれからの人間のためのものになったらなと。だからこそ、監督もアクションで一番だとオレが思っている人間にやってもらうし、最大限クオリティーの高いものにしようと動いてるんだよね。

 還暦記念なんて言ってるのも、あれは“カツアゲ”のための材料だから(笑)。「オレの還暦祝いなんだけど、協力してくんねぇかな?」っていう。

 本当の意味はそれなんだけど、それをここで言っちゃうとあんまり意味ないんだけどね(笑)。ま、還暦っていうのも、なかなか便利な“カード”だよ。

(撮影・中西正男)

■小沢仁志(おざわ・ひとし)

1962年6月19日生まれ。東京都出身。俳優、映画監督、プロデューサー。俳優の小沢和義は実弟。83年に日本テレビ「太陽にほえろ!」で俳優デビュー。84年、TBS「スクール☆ウォーズ」に出演し注目される。97年には映画「殺し屋&嘘つき娘」で初めて監督を務める。99年には映画「SCORE2 THE BIG FIGHT」で監督・主演を務める。今年、59歳の誕生日にYouTubeチャンネルを開設。NHK土曜ドラマ「風の向こうへ駆け抜けろ」(12月18日、25日)に出演する。来年の還暦に向けて映画「BAD CITY」(園村健介監督)を撮影中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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