「今こそテレビは貫録を」。上沼恵美子が「サンドウィッチマン」に託すバトン
自らの腕一つでお笑い界のトップを走り続けてきた上沼恵美子さん(69)。「М-1グランプリ2007」で優勝し、お笑い、そしてテレビ業界をけん引する「サンドウィッチマン」の伊達みきおさん(50)、富澤たけしさん(50)。互いにリスペクトする二組が初めてともに司会をした読売テレビ・日本テレビ系の特別番組「新春 上沼×サンドの出すぎた杭は打たれない」が1月2日に放送されます。ネットメディアの台頭でテレビの真価が問われる時代になりましたが、上沼さんが託す思い。そして、二人に明かした自らの流儀とは。
テレビの力とは
上沼:3年前からYouTubeチャンネルをやり始めて、結果的に、改めて「テレビの力」を再認識することになりました。
いくら歳を取ってても、現役でやっているならば「分かりません」「やったことありません」ではダメだと思うんです。ネットという領域にもコンセントをさして吸収しておかないといけない。そう思って、YouTubeを始めたんです。
その結果、世界とつながる感覚も、間口の広さも感じました。YouTubeとはこういうものだと自分の中に落とし込めました。その上で思ったんです。「やっぱり、テレビは偉大やな」と。
もともと私はテレビが大好きで、テレビに出してもらって、ずっと、テレビ、テレビ、テレビで来た人間です。
最近はそんな一人として「今後テレビはどうなるんでしょう」というような取材もしていただくようになりました。そういう取材で話をさせてもらう中で、考えが練られていくというか、より強く結論が出たんです。テレビは偉大。貫禄があります。
企画を考える。ものを作る。そして、視聴者の皆さんに見てもらう。テレビはこれを70年やってきました。
最近は他の媒体も増えてきて、制作費の問題でもテレビが苦しくなっていると聞きます。それでも、面白いものを作るノウハウがどこに一番あるのか。テレビだと思います。お金の問題、コンプライアンスの問題もあって可能性が狭まっている。もしくは狭めているのかもしれない。それでも、私はまだ一番はテレビだと思っています。
伊達:今回たくさんのゲストに来ていただいて、上沼さんと番組をやらせてもらいました。司会なんて言うのはおこがましいですけど、アシスタント的に番組をさせてもらって改めて感じました。「これはテレビじゃないとできない」と。このエリアがまだまだあると思いますし、そこがテレビの強みだとも感じました。
上沼:そこを出すべきだし、しっかり出せば、みんなが見る。私ね、飲食店と一緒やと思ってるんです。おいしいところには必ずお客さんが戻ってくる。しっかりした料理を自信持って出す。簡単に言うなと言われるかもしれませんけど、本当に、本当に、それが大事だと思うんです。
YouTubeでは何をやるか自分で考えて、構成して、カメラも一生懸命やってもらってますけど、はっきり言ってお粗末です。まぁ、私らがやるのはあの味でちょうどいいのかもしれませんけど、やっぱりね、テレビは“ぶ厚い”んです。
こっちのYouTubeは自宅で撮ってるからとかそういう表面的なことではなく、テレビには底力があるんです。プロの意味というか。エラいもんやなと思います。「スポンサーをネットに持っていかれた」じゃなく、今こそ貫録を見せる時やと思います。そして、しっかりとした腕も見せる時です。
伊達:若い人たちの家にテレビがないとか、そういうことをよく聞きます。そのたびに「なんとかならないのか」と思ってはきたんですけど、小手先で若い人に合わせにいくとかではなく「今こそ貫録」。重たい言葉だと思います。
富澤:子どもたちを見てても、テレビじゃなくネットに目を向けてますし、その子たちが大人になったらどうなるのか。否応なく、そこは考えますよね。
それでも、本当に面白いドラマがあればみんな見てるし、例えば「笑っていいとも!」の最終回で「とんねるず」さんと「ダウンタウン」さんが絡むとなった時は自ずと注目が集まりました。「見たい」と思うものを生み出せばテレビを見る。今でも、そこは変わらずにあると思うんですよね。
上沼:そしてね、この10年、15年、テレビを引っ張ってきたのは「サンドウィッチマン」だと私は思っています。
伊達:滅相もないことです。ただ、今もお仕事をいただいてますし、見てくださる方になんとか楽しんでもらいたい。そのために何をすべきなのか。ここだけは必死に考えていこうとしています。
あと、僕らの話になりますけど、いつまでもネタはやり続けていきたいと思っています。僕らは「М-1」で世に出してもらったんだから、そこはおさえておかないといけない。優勝した時に島田紳助さんから「漫才、辞めたらアカンで」と言われましたし、そこの歩みを止めるわけにはいきませんしね。
上沼:そら、とにかくネタが面白いですからね。お会いするたびにネタのDVDをいただくんですけど、全て大事にとってますから。全部置いているのはお二人と「ナイツ」だけです。他はね、全部、割ってますねん(笑)。
伊達:せめて、カラス避けにしてください。
手を抜いたらアカン
上沼:私もね、今年で古希になります。「古希って誰のことやねん」とも思いますけど、それが事実ですからね。
これまで大阪のローカルタレントとしてやってきたんですけど、最近、東京からいろいろなお仕事でお声がけをいただくようになってきました。
そんな中、もうエエ歳になったからかもしれませんけど、最近強く思ってることがあるんです。「やらない後悔はしない。やって後悔する」。
私の中に「ここからひと花咲かそう」とか「今から花火を上げよう」という思いが一切ありません。だから純粋に楽しいし、新しいお仕事に対しても、これまで以上に積極的に向き合うようになりました。この歳でというか、この歳だからこそ、こんな考えを持てるようになったんだとも思いますし、これもここまでやってきた一つのご褒美なのかなと勝手に思っています。
仕事、仕事、仕事でやってきた人生でしたし、だからこそ主人が会社を定年退職してからは一緒に絵を描いたり、ゴルフをしたり、陶芸をしたり、仕事以外のことにも取り組んできました。ただ、これって、やっぱり趣味なんです。趣味はね、面白くない。趣味は趣味です。
きちんと責任があって、きちんと締め切りがあって、きちんとプレッシャーがある。もちろん人によりますけど、これもないと人間、面白くないのかなと思います。
それでいうと、まだまだ「サンドウィッチマン」は責任の真っただ中にいますし、好感度1位に何年もなっているという責任も大きいだろうし、どこまでもすごいなぁと思います。
ただ、そこにいるのが当たり前となると、ちょっと気になるところもあるんですけどね。ワルやないけど、笑いのことを考えると、そういう空気も出ていたほうがいいのかなと。
伊達:どうやったらワルの空気が出ますかね?
上沼:そうやね、万引きとか。
伊達:50歳で万引きですか?これはなかなかですね。
上沼:そら、そやね(笑)。でもね、本当にすごい力です。そして、何より面白い。
こんなん人に言うことじゃないけど、私がずっとやってきたのは「手を抜かない」ということです。一生懸命やることです。それでもウケないこともあります。でも、それは仕方ない。ただ、手を抜くことだけは絶対にダメ。
YouTubeでもね、見てくださっている方からの人生相談にお答えする企画があるんですけど、私なりの思いを毎回振り絞っています。せっかく送ってくださっているわけですから、中途半端な答えをしている場合じゃないですし。
伊達:「手を抜いたらアカン」。これは我々を含めた後輩芸人に向けていただいた言葉だとも思いますし、それを守っていれば、テレビがもっと愛されるのかなとも思います。
本当に貴重な言葉をいただいたので、より一層、今年も心してかかりたいと思います。ただ、今回の上沼さんとの収録、ちょっと手を抜いちゃったんで、もう一回最初からやらせてもらっていいですか?
上沼:エエ加減にせぇ(笑)。
■上沼恵美子(かみぬま・えみこ)
1955年4月13日生まれ。兵庫県出身。本名同じ。71年、姉との姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」での千里としてデビュー。同年、上方お笑い大賞銀賞を受賞。歌手としても76年発表の「大阪ラプソディー」がヒットする。77年、結婚を機に引退するが、78年の長男出産後に復帰。85年からNHK「バラエティー生活笑百科」にレギュラー出演し、さらに知名度を上げる。94年、95年とNHK紅白歌合戦の紅組司会を務めた。読売テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、ABCラジオ「上沼恵美子のこころ晴天」に出演中。読売テレビ・日本テレビ系の特別番組「上沼×サンドの出すぎた杭は打たれない」は1月2日午後4時5分から放送。出演は上沼、「サンドウィッチマン」、亀梨和也、岡田圭右、やす子、ゆうちゃみら。
■サンドウィッチマン
1974年9月5日生まれの伊達みきおと74年4月30日生まれの富澤たけしが98年にコンビ結成。グレープカンパニー所属。「М-1グランプリ2007」で大会史上初となる敗者復活枠からの優勝を果たす。09年、二人とも結婚を公表。「キングオブコント2009」で準優勝。みやぎ絆大使、ベガルタ仙台市民後援会名誉会員、東北楽天ゴールデンイーグルス応援大使、宮城ラグビー親善大使なども務める。