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【W杯現地レポート】日本戦スタジアム周辺での出来事。圧倒的なコロンビアと、夜には予期せぬロシアも。

喜怒哀楽をはっきりと表す。表情豊かなコロンビアサポーターの姿が印象的な一日だった

コロンビア戦勝利。この日、スタジアムとその周辺で何があったのか。勝利をより立体的に味わっていただくために、テレビ中継ではきっと映らなかった周辺シーンの紹介を。

街に出たところから”コロンビアが圧倒”

サランスクは人口29万人の小さな街だった。午前11時45分着の夜行電車を降りたが、駅前は本当に閑散としていた。ヨーロッパの街では中央駅と市街地が離れているケースも多いが、降りてすぐにカフェで食事を採りつつ一休み、とはいかなかった。食品を売る商店がいくつかあるだけ。ショーウィンドーを介しての対面販売が古き時代を思わせる。

本稿写真すべて筆者撮影
本稿写真すべて筆者撮影

そんな駅前の通りをスタジアムに向けて歩くなかで、すぐに察した。「これはコロンビアサポーターに圧倒されるな」と。とはいえ、殺気立っているわけではない。コロンビアサポーターのほうからどんどんコミュニケーションを取ってくる。「いい試合を!」と言って声をかけてきたり、写真撮影を求められたり。心からこの日を楽しむ。そんな印象だった。

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スタジアムを目にして感じる高揚感は「ロシア国内の寝台電車での長い移動を経て、ここにたどり着いたんだ」という達成感でもあった。きっとコロンビア側にも共有されていたと思う。本当に遠い。案内アナウンスがほぼロシア語の上に、看板がキリル文字のため読めない。ひとつの乗り損ない、乗り換えのミス、そういったものが「現地にたどり着けない」という事態を招きかねないのだ。そういう恐怖を乗り越えてここに来た。

いっぽうで小さな町の小さな店の前では、通りかかる両国のファンを眺めるために外に出てきて、ハイタッチするロシア人の姿も。女性グループの一人に英語を話す人がいた。

「うーん、サッカーはよく分からないけど、楽しいわよ。日本がここで試合をすることについて? 今日は明らかにコロンビアのサポーターが多いから、日本を応援しないと」

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ファンフェスタでは”肉”、そしてコロンビア。「4万人来た」

試合会場の真横では「ファンフェスタ」が開催されていた。小さな公園スペースにステージが置かれ、出店が軒を連ねる。

試合観戦までの「最後の食事補給」の機会だった。

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スタジアム内で食べられるものは限られているうえに、ハーフタイムに買おうと思うと、並ぶことが予想される。何よりこの日のサランスクは暑く、スタジアムまでの移動時間(徒歩で約30分かかった)で喉が乾いた。

加えて、肉を焼く香りにすっーと引き寄せられた。どうしても食事のパターンがピザ、ハンバーガー、サンドイッチ、中華などが続くなか、変化がつく点はありがたかった。肉3点と飲み物で合計約630円。

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座って食事をしていると、コロンビア人に本当に何度も話しかけられた。

こちらからも「コロンビアからここに何人来たの?」と聞いたら「4万人」だという。試合会場のキャパシティが45000人だから、ちょっと”盛った”感もあるが、日本とコロンビアの比率の違いは明らかだった。前日の韓国-スウェーデンが「1500対30000」とされるから、それに近い比率だろう。コロンビアからの移動時間はおよそ14時間だというから日本とは大きく変わらない。しかし人数では大きな差がついた。

そして試合後……相手を祝うコロンビアサポーターを多数目撃

試合後、コロンビアのサポーターは本当に素直に日本の勝利を祝っていた。本当に素直で、オープンな人たち。

この姿が試合以外の風景では一番のインパクトだった。

いたるところで日本サポーターに声をかける。握手を求め、ハグを求め、写真の撮影を求める。さらにユニフォームの交換を求める姿もあった。どうもコロンビアサポーターにはレプリカシャツが配布されているようで……「この一枚しかない」と躊躇する日本サポーターの姿も目にした。

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試合後、近くのショッピングモールで電車の出発までの時間を潰していた40代の男性サポーターと少し長く話した。

「今回と前回大会のチームはコロンビア歴代最強かもと言われているんだ。もちろん比較対象は1990年イタリア大会のチームだよ。なのになぜ……日本は上のラウンドに行くだろう。とてもタクティカルだった。コロンビアはあと2つの試合に勝つしかなくなったな……勝ってほしいんじゃなくて、勝つしかないんだ」

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夜、駅への移動が思わぬ”ロシアとの出会い”に

さらに帰り道、想像した以上の光景にも出会えた。サランスクでおそらく最大のショッピングモール「CITY PARK」からスタジアムを通って駅に帰る道で。

日本-コロンビア戦後に行われたロシア-エジプト戦のパブリックビューイングを観た後に帰宅する現地の人たちとすれ違う形になったのだ。あちらも3-1で勝利した。お互い勝ったのだ。アルコールも入っているからだろう、一気に開放的になったロシア人の姿を観た。

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通りかかる人ほぼ全員からハイタッチを求められた。写真を撮ろう、とも何度も言われた。駅まで30分の道のりが1時間15分かかってしまうほどに何度も、何度も。そこにコロンビア人が入り混じって、より会話が盛り上がり……(全般的にコロンビア人のほうが英語をよく話したため、話が長くなる)。

地方都市サランスクの人たちはシンプルにアジア人への興味を示してくる。さらにコロンビア人が溢れかえっていたこの日の街で日本人が”少数派”だったゆえ、声をかけてみたくなったというところもあるのだろうが。何を話すわけではない(英語を全く話さない、という人も多い)。わーっとハイタッチをするだけ。それだけで通じる。思わぬ形で開催地に触れられた。

コロンビアとロシア。2つの国に同時に触れられることなんてこの先あるだろうか。日本が勝ったから楽しかったのか。もちろんそれもあるが、きっと結果が違っても声をかけられる楽しみは同じだった。ここに出場国としていられることがまずは幸せなのだ。見知らぬ街で、見知らぬ人から、試合日には出場チームを「主人公」にしてもらえるのだから。この地で日本代表が1試合でも多く試合を出来ますように。するとこういう時間が増える。一日の最後にはそんなことを願った。

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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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