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甲子園練習って何してるの?初日に光ったのは龍谷大平安の密度の濃い30分

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

開幕目前に迫った第87回選抜高等学校野球大会、出場校にはそれぞれ30分間甲子園での練習時間が与えられている。甲子園練習時はバックネット裏が開放されており一般の人も無料で観ることが出来る。ただし、雨天で室内練習場になった場合は一般向けの公開は無いのでご注意を。甲子園練習初日の16日は昨年の覇者・龍谷大平安、優勝候補筆頭・仙台育英、大会ナンバーワン投手・高橋を擁する県立岐阜商業など12校が汗を流し、大会へ向けて最終調整を行った。

甲子園練習ってどんなことしてるの?

甲子園練習には決まった流れがある。アルプススタンドからグラウンドに入ったところで集合写真を撮り、ベンチに荷物を置く。その後、1列に並んで掛け声と共にグラウンドに駆け出すシーン(試合前の整列やノックに向かうシーンをイメージすればわかりやすい)を何度か撮影する。ここまでをグラウンドでは別の高校が練習している中、ファールゾーンで行う。そして時間になるとサイレンと共にグラウンドに散って行く。練習で決められているのは時間のみで内容は各校の自由。ただし、30分後に鳴るサイレンは練習終了の合図であると同時に次の高校の練習開始の合図でもあるので30分の中にグラウンド整備の時間も含まれる。練習終了後はベンチ前で取材を受けて、それが終わると退場。これが甲子園練習の一連の流れである。

練習内容はノックが中心

この甲子園練習の肝心の中身、

◯◯高校はノックなどで汗を流し主将の△△君は「優勝目指して1つでも多く勝ちたい」と話した。

という報道のされ方しかされないが実際はどのようなことをしているのだろうか?

多くの高校が行う内容としてはノック、バッティング、ピッチング、グラウンド整備というのが標準的な流れだ。普段とは違う球場で試合をするのだからほぼ全てのチームが行うのがノック。ただもちろんノックと言っても通常のシートノックのみの高校やランナーをつけてのゲームノックを行う高校など内容も時間配分も様々。例えば、米子北はノックに15分使うと、その後は投手陣がマウンドから投げ込む間に野手はグラウンド整備。練習内容としては非常にシンプルだった。八戸学院光星も通常のシートノック、ランナーをつけてのゲームノック(ランナーはわざと暴走気味に走り中継の練習も)に多くの時間を使い、その後は投手がピッチング、一塁手と三塁手はバント処理の際に重要となるライン際の打球の転がり方を確認。どちらの高校もバッティング練習は行わなかった。

対照的だったのは、大会屈指の打撃力を誇る天理。練習開始から20分間、ひたすらシートバッティング。打球音と鋭さ、飛距離は群を抜いており大会でも強力打線に注目だ。その後は外野手はフェンス際のクッションを確かめる簡単なノックを行ったが、内野手はすぐグラウンド整備に取りかかったためノックを受けていない。天理の他には近江もノックを行わなかった。ランナーも守備も実戦さながらのバント練習から練習を開始させると、その流れのままシートバッティングに移行。常にバントは一、二塁、シートバッティングは満塁の状況でスタートし中継プレーや声の連携、際どいタイミングでは一塁にヘッドスライディングするなど攻守共に試合と変わらぬ熱の込もった動きを見せた。

龍谷大平安が見せた完璧な30分の使い方

各校が工夫をこらし最終調整に臨む中、初日に登場した高校の中で最も密度の濃い30分を過ごしたのが龍谷大平安だった。グラウンドコンディション不良のため予定より1時間遅れで始まった甲子園練習初日の1校目、まっさらなグラウンドに姿を現すと分刻みの練習をこなした。

10:00 内野手は各ポジションに就くと少し離れた所からボールを手で転がし跳ね具合を、捕手はバックネットにぶつけ跳ね返り具合を確認。その後、各塁に入り本塁→三塁→二塁→一塁→本塁の順にボール回しを2周、逆回しで2周。さらに投手が絡む挟殺プレーでの動きを確認。

10:03 シートノック(捕れる打球も一度わざと落として拾い直すなど実際の試合で起こり得る事態も想定)

10:11 シートバッティング 1打席5スイングで最後は打ったら走る。

10:25 投手はマウンドから投げ、野手はグラウンド整備。合間に各塁への牽制も行う。

10:28 全員でグラウンド整備

無駄な動きが全く無く、練習開始のサイレンが鳴ってから跳ね具合の確認、ボール回し、挟殺プレーまでで3分足らず。この時点で驚異的だ。ノックも原田監督が内野手に打っている時はコーチが外野手に打ち、フライ練習の際は原田監督がライト方向、コーチがレフト方向に打ち待ち時間がほとんど無い。シートバッティングに移る時も投手はノックの間に肩を作っていたベンチ外のサポートメンバーが入り、打席には先にノックを切り上げ打撃の準備を済ませていた投手陣から入る。誰が次にどう動くのかを全員が理解しているからこそ出来る完璧な動きで、練習と練習の間に隙間が無い。グラウンド整備の合間にピッチングと牽制の練習、と一言で言ってもすぐに出来るものではない。おそらく龍谷大平安は甲子園練習のための練習を行っている。春夏通算72回目の甲子園出場はもちろん全国最多。中には練習時間を余らせる高校も何校かあったが、全国にその名を轟かす京都の伝統校が他を圧倒する時間の使い方を見せた。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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