一度見たほうがいい。ランクが違う浦和レッズの新外国人選手、その名はモーベルグ
モーベルグの凄さの秘密は上半身にあり
ヒーローは遅れてやってくる。ついに、浦和レッズに『DMK』降臨。
David(ダヴィド)・Moberg(モーベルグ)=Karlsson(カールソン)。元スウェーデン代表の28歳で、直近はチェコの名門スパルタ・プラハで7番を付けていた左利きのウインガーだ。浦和では10番を背負う。
このステータスだけでも相当やりそうな印象を受けるが、実際にプレーを見た衝撃はそれを上回った。一度見たほうがいい。これは本気で、ランクが違う選手だから。
モーベルグの凄さを説明するのに、言葉や時間は必要ないだろう。磐田戦は後半開始からピッチに現れたが、1分40秒後、いきなり意表を突くシュートでスタジアムを沸かせた。さらに1分後、ドリブルで3人を翻弄しながら、メッシばりの小さなモーションでファーサイドへ流し込み、J1初ゴールを記録。この間、わずか3分弱だ。カップラーメンより早い。サッカーって、そんなお湯かけるぐらいの簡単なものだったか。
彼を見て、まず驚いたのは上半身のしなやかさだ。
3人を翻弄したゴールシーンのドリブルは、最後にボールをまたいだように見えるが、シザースというよりは、ボディーフェイクだった。ボールの上で足を動かしたので、ボールに触るリアリティは無く、シザース効果としては薄い。
ただ一方で、大きく重心を動かして踏み込んでいるため、ステップにリアリティがあった。その大きめの踏み込みから、ビヨ~ンとバネのように戻ってくる。これが異常に速い。磐田DFとの対決を見ると、バネと棒が勝負している感じ。動きの素材が違った。
一言で言えば、アジリティー(俊敏性)が高いわけだが、モーベルグはそれを脚力ではなく、上半身のしなやかさで生み出す。まるでブラジル人選手だ。ネイマールなどブラジルの選手たちは、『ジンガ』と呼ばれる上半身の揺らしで変幻自在のリズムを生み出すことで知られるが、モーベルグのドリブルもそれに近い。
あの体術は必見だ。左右のステップだけでなく、縦へ運ぶときもスピードの緩急を付けたが、彼自身のバランスは全く崩れない。なおかつ、相手DFがバランスを崩して足を出せない『間』を知っており、その瞬間にボールを運ぶ。格闘家のような駆け引きだ。
そんなドリブルもすごいが、シュートもすごい。
ボディーフェイクで相手を翻弄した後、ビヨ~ンと戻って、即シュート。テークバックの予備動作がほぼ無い。軸足を踏ん張らず、そのまま軸足を抜き、蹴り足を放り出すようにボールにぶつけている。ワンテンポ、いや、半テンポ早い。「よーいドン」で打つのではなく、「よいドン」で打つ感じ。その結果、相手DFが体勢を立て直すより、シュートが通過するほうが早かった。
すごい選手が来たな! 正直、書きながら、興奮を抑え切れない。
あんなリカルド・ロドリゲスの顔も初めて見た気がする。監督としてゴールを手放しに喜ぶ場面は今までにもあったが、その姿は包容的で、頑張った息子の活躍を喜ぶ父のようでもあった。ところが、今回は雰囲気が違う。喜び方に威厳が無いというか、ピュアというか。憧れの人を見るような目?あまりにも待ち焦がれたせいだろうか。もしかすると、これは監督のベールが脱げた、リカルド・ロドリゲスの素の顔かもしれない。試合中に脱げてはいけないものが、一瞬、脱げた気がする。北風と太陽みたいに。
本物が持つエネルギーは、やっぱり違う。
モーベルグを更に活かすためには…
さて。浮かれてばかりではなく、そろそろ懸念も挙げておこうか。
驚異的なドリブラーが出てくれば、当然、対戦相手は警戒するだろう。モーベルグは得意なパターンを持つ選手だ。左足にボールを置いてカットインする型、シュートはファーサイドへ巻いて蹴る型がある。
浦和への加入会見では、「目標にしてきた選手は、まずティエリ アンリが出てきます」と答えたが、さもありなん。ゴール場面以外にも、ファーサイドへ巻くインカーブシュートを何度も繰り出した。幼い頃の目標が「アンリ」と聞けば、なるほどと頷くしかない。
左足のドリブルと、インカーブシュート。仮にこれらの型を研究されたら、どうなるのか? モーベルグは詰まってしまうのか? しかし、彼は加入会見でこうも語っている。
「陣形を崩すことに関しては、驚くようなことをするわけではありませんが、常に違いを作りながら、同じパターンでアクションを起こさないようにすることが自分のストロングポイントだと思います」
同じパターンでアクションを起こさないのが、強みだそうで。はい、解決。
実際にスパルタ・プラハ時代の映像を見ると、彼の言葉がウソや誇張でないことはよくわかる。左足以外に、右へ持ち出して右足でクロスを入れたり、シュートを打ったりと、右足をよく使う。また単騎突破ばかりではなく、フットサルのピボ当てのようにポストプレーヤーを使って侵入したり、時には遠めから意表を突くループシュートをワンタッチで見舞ったりと、マジカルなプレーが多い。
「自分は相手の陣形を崩したり、不確定要素を生み出したりすることが強みだと思っています」と自身が言う通り、モーベルグは突撃型のドリブラーやフィニッシャーではない。攻撃のバリエーションがかなり豊富な選手だ。フリーキックも上手い。相手に研究されたとしても、様々なアクションを起こせるはず。
味方とのコンビネーションも巧みだった。磐田戦では酒井宏樹のオーバーラップを使ったり、江坂任や伊藤敦樹とパス交換したりと、今はまだぎこちなくも試みは見えた。おそらくモーベルグの技術やテンポ、アイディアについて行くためには、浦和の選手がもう一段レベルを上げる必要がある。それはイコール、チームの成長だ。
一方、そんな期待ばかりの攻撃面に比べると、守備は多少不安があるかもしれない。
正直、プレッシングの強度は低い選手だ。磐田戦はチーム合流直後だったので、コンディション面に難があったとしても、スパルタ・プラハ時代の映像を含め、あまり守備で強度を発揮できるタイプではなさそう。
これまで浦和は4-4-2で守備をすることが多かったが、モーベルグの個性を生かすために、今後は4-3-3へシフトする可能性はある。インサイドハーフがサポートし、ウイングにより高い位置を取らせ、攻撃的なプレーをさせる。ここ2~3年、川崎フロンターレが取り入れたのと同じやり方だ。
この形は攻守両面で、インサイドハーフのハードワークが重要になる。モーベルグの力を引き出せるか否かは、伊藤敦樹や小泉佳穂らが鍵を握るのではないか。
また、[4-3-3]で3トップの攻撃力を生かすなら、リヴァプール型も思い当たる。守備は中盤3人のハードワークに頼るが、相手に押され気味なときは、左サイド側のサディオ・マネが守備に下がり、4-4-2気味に変形してカバー。逆に右サイド側のモハメド・サラーは前に攻め残り、カウンターの充電をする。アシンメトリーに攻守のバランスを整えるやり方だ。
これを浦和で考えれば、攻守両面でハードワークできる関根貴大がマネ役を務めれば、サラー役はモーベルグ。同様の機能は期待できそうだ。
モーベルグという攻撃の芯を手に入れた浦和が、どんな形へたどり着くのか。面白くなってきた。ここまでは充分な勝ち点を積めなかったが、代表ウイーク明け、浦和の逆襲が始まるかもしれない。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など