Yahoo!ニュース

哲学を知ったら生きづらさが消えた。じつは親子関係の悩みを消す「裏技」を世界的哲学者が示唆していたから

ひとみしょうおちこぼれの哲学者・心理コーチ・作家

のべ1万人以上の女性にカウンセリングをしてきて感じることは、女性は親子関係の悪さを隠して表面上は仲良くふるまっている人が多いということです。

「母の介護だけはしたくない」「母と同居するのだけは勘弁」と言いながら、「先生、私これから母としゃぶしゃぶを食べに行ってきます」などと言います。驚きしかありません。

さて、今回は親子関係におけるモヤモヤした悩みを解消させる「裏」技についてお届けします。さっそく一緒に見ていきましょう。

自己啓発でモヤモヤは消えない

たとえば、親子関係のモヤモヤとした悩み解消のために自己啓発の本を読む人がいます。そこにはたとえば「親子関係に悩んだら公園へ行って自然にふれてリフレッシュしましょう!」などと書かれています。

一理ありますね。モヤモヤした気持ちをいつまでも抱えていてもなにも生まれないわけですから、公園にでも行って気分を変えるといい。

しかし、自己啓発の基本的な特徴は「明るく前向きに」という枠にあなたを当てはめる点にあります。早い話が認知行動療法みたいなものです。「母親のことを考える→モヤモヤする」というあなたの脳にこびりついている思考パターンを「母親のことを考える→明るい未来が見える」というふうに矯正させるのが自己啓発です。

それでモヤモヤが消えると万事OKなわけですがしかし、矯正してもモヤモヤが依然として存在し続けるというのは、みなさんご存知のとおりです。

心理学と哲学のちがい

では心理学はどうでしょうか。

心理学の始祖は実存主義の哲学者であるキルケゴールだと言われています。この場合の心理学とは「深い人間洞察」という意味です。キルケゴールが亡くなった翌年にフロイトが生まれ、フロイトくらいから徐々に、今の科学の心理学が形作られてゆきます。

科学の心理学の特徴は、簡単に言えば「1:1対応」です。「アップル=りんご」と同じです。「なんかモヤモヤする=ウツ」「ウツ改善=薬を処方」という感じで、心の状態を言葉と数字で割り切るのが特徴です。当然、「なんか」という割り切れない思いはそこからこぼれ落ちます。

他方、哲学は「1:1対応」からこぼれるものを扱います。つまり、科学では解明できない何かを扱います。わたしたちの心は科学で解明できないものであふれているし、あなたの過去の経験も科学では割り切れないはずです。そうですよね?「姉は子どもの頃なぜか私をいじめた」のであって「姉は子どもの頃アドレナリン過多によって私のモノアミンの作用を抑制させた」とはふつう言わないですよね? 前者の言い方における「なぜか」が哲学の「種」です。

親子関係のモヤモヤ解消法

さて、では親子関係のモヤモヤを哲学で解消させる方法とはどのようなものなのでしょうか?

ここで精神分析哲学の権威であるジャック・ラカンの哲学を援用しましょう。ラカンは科学の心理学が科学であるゆえに言及できない心の「裏」を考え抜いた人です。

そのラカンの哲学を参照すると、親子関係は凸凹関係だと言えます。凸凹、すなわち親子は正反対の性格を有している。オセロに例えるなら、親が白なら子は黒という具合です。

正反対の性格を有している2人のウマが合うのは、いわば奇跡です。しかしたとえば、「隣のおうちの親子はとても仲良くやってるんだけど、それはどうして?」とあなたは問うかもしれません。

その問いの答えも哲学はちゃんと用意しています。

神様問題

たとえば、「親ガチャ」問題に苦しんだキルケゴールの哲学を援用するなら、親子関係は神様がつくったガチャだから、という答えになります。

もちろん、親がやることをやった結果、あなたは必然的にこの世に存在しています。しかし、あなたはなぜその親の子として生まれたのでしょうか? 親がやることをやった結果、隣の家の子があなたの親の子になってもよかったのではないでしょうか? というふうに考えた場合、結局は神様問題にたどり着きます。

親がやることやったからあなたがこの世に生を受けたわけだがしかし、なぜあなたがその親の子になったのかというのは、神様にしかわからない。すなわち、「神様のガチャ」の結果、あなたはその親の子として生まれ、後年、なぜか親子問題に悩むようになった。

ちなみに、いわゆる毒親問題において、親のことを憎んでいる子は非常に多いですが、親子のマッチングとは神様がつくったガチャの結果でしかないので、子が憎むべきは親ではなく神様です。その憎しみをキルケゴールは、「反抗=神様に対する反抗」と表しています。彼の主著である『死に至る病』という古典中の古典に詳しく書かれています。

悩みを問いのかたちにする

というような感じで、人類の天才や秀才が究極まで考え抜いた考え、すなわち世界の古典と呼ばれている哲学者たちの考えをうまく使えば、あるていど親子関係は納得のいくものに収まります。

しかし、それでも納得しない方もいらっしゃるでしょう。「親子関係は神様がつくったガチャというのはわかるけど、それでもやっぱり私は親が憎い」と言う人が私のもとにカウンセリングに来ますから。

その場合は、彼女は「真にわかっていない」のです。頭で知識としてはわかっているけれど、全身で本当にはわかっていないのです。

そういう時は、モヤモヤした悩みを問いのかたちにして1つずつ自分で答えを出していくことをおすすめします。

なにも難しいことではありません。「〇〇とはなぜだろう?」という問いを付箋に書いて心の壁に貼るのです。そしてそれを折に触れて見て、答えを考えてみてください。考えるのに疲れたら少し休むといいです。やがて答えがおのずから浮かんできますから。

これは頭の良さではなく、頭の丈夫さの問題であり、誰にでもできます。

おちこぼれの哲学者・心理コーチ・作家

8歳から「なぜ努力が報われないのか」を考えはじめる。高3で不登校に。大学受験の失敗を機に家出。転職10回。文学賞26回連続落選。42歳、大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なぜ努力が報われないのか」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道主宰「哲学塾カント」に入塾。キルケゴール哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミー主宰。

ひとみしょうの最近の記事