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マドン監督やブレーブスGMが批判の矢面に!米メディアが目を光らせるスター選手の遇し方

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
トラウト選手への対応で米メディアから批判を受けたジョー・マドン監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【選手会と協議を行った日本ハム】

 今月7日にプロ野球選手会が日本ハムに対し、昨年11月にFA権を有する西川遥輝選手、太田泰示選手、秋吉亮投手の3選手に対する対応について「選手の価値を一方的に下げるもの」として抗議文を送付していたのは記憶に新しいところだ。

 その後日本ハムは選手会と協議を行ったことを明らかにし、双方の認識を確認し合ったことを発表している。そして今後は選手会に対し、「ノンテンダー」という用語を使用しないことを伝えたようだ。

 今回の件はこれで決着されることになるのだろうが、ただ今後は日本ハムに限らずFA選手が西川選手らのような扱いを受ける可能性もあり、選手会としてはFA制度の見直しを含めさらに検討していくことになっていきそうだ。

【ルール遵守と選手への敬意は別物】

 日本ハムは今回の件に関し、一貫して「決められたルールを遵守してきた」という姿勢を崩していない。もちろん日本ハムの3選手に対する処遇は、野球規約・統一契約書に違反することは一切なかった。

 それを報じるメディアも、日本ハムの主張通り「ノンテンダーFA」という表現を多用し、批判の声は挙がってこなかった。

 だがルール上は問題なかったとしても、これまでチームを支えFA権を取得したベテラン選手を遇する上で、チームは彼らへの敬意を抱き、誠意ある対応をとっていたのかは、やはり疑問が残るところだろう。

 もし今回の一件がMLBで起こっていたとしたら、米メディアからとんでもない追求を受けていたはずだ。それほど米メディアは、スター選手に対するチームの軽率な対応に目を光らせ、批判を厭わないのだ。

【マドン監督のトラウト選手に対する対応に疑義を呈する】

 例えば、現在4月7日のシーズン開幕に向け急ピッチで準備を進めているこのスプリングトレーニングでも、2人の人物が選手に対し誠意のない対応をしたとして、メディアから疑問を呈されている。

 まず1人目がエンジェルスのジョー・マドン監督だ。彼はキャンプ初日の囲み会見の席で、マイク・トラウト選手の外野起用について負担の多いセンターからライトか、レフトにコンバートする考えを明らかにしていた。

 だが翌日になってトラウト選手と直接話し合った結果、前言を撤回し、今シーズンもセンターで起用することを明言している。

 この件に関しては本欄で、今も選手との直接対話を欠かさず、彼らの意思を尊重するマドン監督の姿勢について記事にしているが、これが米メディアから見ると、トラウト選手への敬意が足りていないように映っていたのだ。

 それは、トラウト選手が外野コンバートの件を記者のツイートで知ったという点にあった。ESPNのベテラン記者であるティム・カークジェン記者は、以下のように批判している。

 「マイクもいつの日かコンバートされる日が来るだろう。だがそのニュースをTwitterで知るべきではない。(センター候補の)ブランドン・ウォルシュは素晴らしい守備力を持っている選手だが、まだMLBでの経験が浅く十分な実績を残していない。

 かつてレッズがケン・グリフィーをセンターからコンバートする時も、いろいろ苦労していたと記憶している。こういう時は、まずスター選手にチームの考えを真っ先に伝えるべきだった。ジョー・マドンの考えは決して良いものではなかった」

 カークジェン記者の説明通り、米メディアからすると、MLB屈指のナイスガイとして知られるトラウト選手だったから今回の一件は事なきを得たが、もしプライドが高い選手だったら自尊心が傷つけられたとして、マドン監督やエンジェルスを批判するような騒ぎになっていた可能性があったと考えているのだ。

【フリーマン選手に事前連絡しなかったアンソポウロスGM】

 もう1人が、ブレーブスのアレックス・アンソポウロスGMだ。彼はロックアウト解除後、積極的な戦力補強を断行し、その一環としてアスレチックスからマット・オルソン選手をトレードで獲得している。

 一塁手のオルソン選手の獲得は、FA選手として残留交渉を続けていたブレーブス一筋12年間のフレディ・フリーマン選手との決別を意味するもので、トレードが決まった後、メディアの前に立ったアンソポウロスGMは「苦渋の決断だった」と感傷的に声を震わせながら答えていた。

 その後フリーマン選手はドジャースとの契約が決まり一件落着したのだが、ここでも多くのメディアがフリーマン選手の父親の発言を引用し、アンソポウロスGMの誠意に欠ける対応に疑問を呈しているのだ。

 オルソン選手のトレードが決まった日にフリーマン選手と一緒だったという父親の発言は、以下のようなものだ。

 「彼はショックを受けていた。息子は『信じられない。なぜ自分に知らせてくれなかったんだ。どうしてこんなことが起きてしまったんだ。チームの誰1人として、彼らが(僕無しで)前に進んでいくことを話してくれなかった』と言っていた」

 確かにフリーマン選手ほどの功績がある選手なら、やはりブレーブスとしてもっと違った対応ができていたように思う。

 如何だろう。MLBはステレオタイプ的に契約社会だと言われ続けているが、むしろ日本以上にスター選手、ベテラン選手の遇し方には気遣いを求められる世界でもあるのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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