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わずか1日で発言を撤回したジョー・マドン監督の真っ先に選手の意思を尊重するブレない姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
前日の発言を撤回しトラウト選手のセンター起用を明言したマドン監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【キャンプ初の会見に応じたトラウト選手】

 エンジェルスのマイク・トラウト選手が現地時間の3月15日、スプリングトレーニング初の記者会見に応じた。実はこの会見でトラウト選手がどんな発言をするのか、多くのメディアが注目を寄せていた。

 というのも、ジョー・マドン監督が前日の記者会見で以下のように説明し、長年センターを任されてきたトラウト選手を左翼もしくは右翼にコンバートする考えを示していたのだ。

 「(コンバートは)議題にはなっていた。だがまずマイクと話をしなければならない。

 大きな負傷をした後で毎日センターを守るのは簡単なことではない。ただ我々(エンジェル・スタジアム)の左翼も広く、同じく簡単ではない。これからもいろいろ議論していくべきことであり、決定事項と言うことではない」

 2011年にMLB初昇格を果たした頃はセンターを中心にレフトやライトを任せられることがあったトラウト選手だが、2014年以降はずっとセンターを任されてきただけに、MLBを代表するスター選手がどんな心境でいるのか知りたいのは当然のことだった。

【トラウト選手「ニュースを聞いた時はビックリした」】

 コンバートの件について記者のツイートで知ったというトラウト選手は、終始穏やか表情で以下のような話をしている。

 「今朝ジョーとペリー(・ミナシアンGM)と話をしたよ。この件が話題になるまで、個人的に考えたこともなかった。

 もし契約(2030年38歳までの契約)が残り少なくなり、野球人生の終盤になったらコンバートすることも考えるだろうし、コーナー・フィールド(ライトもしくはレフト)なら身体的負担も減るし、162試合闘うにはいいことだと思う。

 ただ自分は今もセンターを守りたいと思っている。いい話し合いができた。どうなるかは分からないし、我々は若手が成長し、いい外野陣が揃っている。出場選手を決めるのは彼(マドン監督)だよ。

 ニュースを知った時はちょっとビックリした。昨年ベンチでそれとなく話をしたことはあったけど、決して深刻なものではなかった。今日の話し合いでは、ちゃんとお互いの考えを共有できていた」

 あくまでマドン監督の決定に従う姿勢をみせていた。

【マドン監督もあっさりと前言を撤回】

 そしてトラウト選手の後に行われた会見で、マドン監督は前日の発言を撤回し、トラウト選手をセンターで起用していく考えを明らかにしたのだ。

 「(話し合いをした結果)彼はすごく良い状態だ。肉体的にも強靱になり、体重を落として身体も絞れてもいる。すべてが整っており、彼はセンターを守れると感じている。

 (発言が変わったのは)ロックアウトの影響の1つだ。なかなか他の人たちと話すことが許されなかった。昨日はあくまでマイクと話し合うことができていなかった上での発言だ。最終的な決定は、彼と話し合い、彼がどう感じているかを確認してからだった」

 マドン監督が説明するように、ロックアウト期間中に監督を含めたチーム関係者は、40人枠に入っている選手たちと一切の接触が禁じられていた。だから前言の発言でも「まずマイクと話し合わなければならない」としていたのだ。

【相変わらず選手の意思を尊重するブレない姿勢】

 マドン監督が選手の意思を最大限に尊重する姿勢は、今に始まったことではない。チームを率いる上での彼の信条ともいえるものだ。

 昨年もスプリングトレーニング中に大谷翔平選手と話し合い、過去の二刀流の起用法を全面的に見直し、まず本人の意思を確認した上でDH解除や登板日前後の出場を決めるようになった。

 二刀流選手として歴史に名を刻むような活躍をみせ、満票でMVPを獲得できたのも、マドン監督の後押しがあったからだといっても言い過ぎではないだろう。

 カブス時代からスプリングトレーニング中は、招待選手を含め参加全選手との個別面談を実施してきたマドン監督。自分の考えを一方的に押しつけるのではなく、選手たちの考えや意思を確認することを絶えず続けてきた。

 今シーズンもマドン監督が、大谷選手の能力を最大限に引き出してくれると信じたいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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