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波乱を呼ぶ「延長即タイブレーク」! 運に大きく左右される決着方法に改善点はないのか?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今夏の地方大会ではタイブレークで明暗が分かれた。本大会でその流れは?(筆者撮影)

 いよいよ明日、夏の甲子園が始まる。朝刊には、各チーム20人のベンチ入りメンバーが掲載されていた。ベンチ入り20人は現場からも要望が多く、実現は大いに歓迎できる。一方で、今春からではあるが、延長即タイブレーク継続試合導入など、試合の運用そのものも大きく変わっている。特にタイブレークに関しては、今夏の地方大会で波乱を呼んだ要因の一つとされ、甲子園の本大会でもさまざまな受け止め方をされるだろう。

タイブレークは延々と続く可能性も

 まずは甲子園大会のタイブレークの運用方法についておさらいしておく。9回を終わって両校無得点、または同点の場合、10回からタイブレークに入る。無死1、2塁からの攻撃開始で、10回の先頭打者は9回最終打者の次打者。つまり継続打順となる。走者は2走が前々打者、1走が前打者で、投手が走者になることもある。決着がつくまで行われるため、延々と続く可能性もある。

タイブレークは運に左右されるルール

 まずこのタイブレークについては選手、特に投手の故障予防や健康を守るために、試合を早く終わらせることが目的のルールである。一見、合理的なようだが、実は運に大きく左右されるという大きな問題がある。まずは、先攻チームの得点を見て攻撃できるため、後攻チームは戦いやすい。追いつきさえすれば、負けることはないからだ。これはタイブレークに限ったことではないが、先攻チームは9回以降の守りで「サヨナラ負け」のプレッシャーがかかる。走者が3塁にいたら、暴投や失策でも点が入る場面を想像すればわかりやすい。あとは打順によって作戦が変わる。守備側は、設定された2走者の生還は仕方ないとして守るので、先攻チームはそれ以上の得点をしないと苦しくなる。これも運で、めぐり合わせによって作戦や守り方は変わってくる。

今夏の地方大会決勝タイブレークは、後攻チームの勝利が多数

 監督が作戦を迷う可能性としては、これもできるだけ多く得点したい先攻チームが打順によってバントをためらうことにつながる。今夏、ある地方大会の終盤戦でタイブレークに突入した試合を見た。先攻チームが3番から、後攻チームは7番からの攻撃で、先攻チームは3番打者に打たせ、結果的に中軸全員が凡退して無得点。後攻チームはバントから3塁へ進め、適時打でサヨナラ勝ちした。先攻の3番打者は外野手を越えそうな大飛球を放ったが、これが抜けていれば2点以上が望めた。勝者の監督は「打ってきてくれたので助かった。バントされたら1点は覚悟しないといけないので」と話したように、打順に関係なく、後攻チームが攻守両面で圧倒的に有利なことは間違いない。ちなみに今夏の地方大会決勝でのタイブレークは6試合(青森、福島、和歌山、愛媛、宮崎、鹿児島)あり、青森を除く5大会で後攻チームが勝っている。

投手の走者は何とかならないものか

 そして運用面でぜひとも早く改善してもらいたいのが、投手をタイブレーク走者にすることで、これはルールを変えれば簡単に解決できる。特に夏の炎天下、投手は少しでも長くベンチの日陰にいるべきで、走者になって塁上で消耗するなら、最も過酷な投手の負担を軽減するというこのルールの趣旨から逸脱している。たまに見かける頭部死球などでの「臨時代走」に、投手がならないのと同じ理屈である。走者のまま攻撃が終わり、すぐさまマウンドに行く負担を考えれば、この運用がいかにおかしいかがわかる。

心身をリセットし「新たな試合」として

 地方大会では、タイブレーク突入前にグラウンド整備などでかなりの時間的空白があった。今夏は暑さ対策もあって、甲子園でも十分な休息が取られるだろう。いきなり走者を背負い、ただでさえプレッシャーがかかる場面で、投手の精神的負担は計り知れない。外から見ていて思うのは、10回からは「新たな試合が始まる」と割り切った方がいいのではないか。休息の間に心身ともリセットして、ベンチも選手も、冷静に戦ってほしいと願っている。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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