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「おもねらずひるまず」を貫く国民民主党 昨年の対応とは異なって来年度予算は反対へ

安積明子政治ジャーナリスト
頑なまでに「給料を上げる」(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2023年度予算案に反対を決定

 国民民主党は2月24日の政調全体会議で、2023年度予算案に反対することを決定した。同党はかねてからガソリン価格の高騰時に揮発油税などを引き下げるトリガー条項発動を提唱していたが、岸田文雄首相がそれを受け入れたことで、2022年度予算案には賛成していた。この時、同党の玉木雄一郎代表は「対決より解決だ」と胸を張ったが、「国民民主党は連立入りしたのか」「大臣のポストを約束されたのか」など批判が相次いだ。党内も前原誠司選対委員長(当時)が腹痛のために衆議院本会議を休み、参議院本会議も足立信也同党参議院幹事長(当時)が体調不良で欠席した。

「予算案が物価上昇を上回る賃上げに繋がるかどうかを検討した結果、一昨日の岸田総理との国会でのやりとりを踏まえて『不十分だ』ということで意見が一致した」

 政調全体会議が終わった後、記者に囲まれた同党の玉木雄一郎代表は、政府予算案に反対する理由について説明した。賃上げを最優先課題として主張する玉木氏らに対して、岸田首相の関心はもっぱら別のところにあるようだ。

〝ウクライナ・ファースト〟の岸田首相

 岸田首相は2月20日に都内で講演し、ウクライナに55億ドル(2月25日午前0時現在のレートで7494億円)を支援することを表明した。なおドイツのキール研究所によると、2023年1月15日までのウクライナ支援金額は全体で1436億ユーロにのぼり、そのうちアメリカは731億ユーロを支出している。EUは350億ユーロ、イギリスは83億ユーロ、カナダは40億ユーロを支出しているが、日本の支出は10.5億ユーロ(2月25日午前0時現在のレートで1509億円)で、これに岸田首相が支援を表明した55億ドルを加えれば、約9000億円にも上る。

岸田首相の頭は広島サミットでいっぱい
岸田首相の頭は広島サミットでいっぱい写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 今年5月に地元・広島市でG7先進国首脳会議を開く予定の岸田首相にとって、故郷に錦を飾る以上の「成果」を国際的に示したいのだろう。そのためにはウクライナを支援することでG7をまとめ、歴史に残る事業としたいに違いない。ところが岸田首相が55億ドルの〝大振る舞い〟を誇示したにもかかわらず、翌21日にはバイデン大統領がウクライナを電撃訪問し、「ウクライナ支援のための有志国の結束」を提案。岸田首相はすっかりお株を奪われてしまった。

 噛み合わないのは、それだけではない。岸田首相は2月15日の衆議院予算委員会で、2020年度でGDP比2%だった「家族関連社会支出」を倍増すると明言したものの、翌16日には松野博一官房長官が「予算倍増のベースとしてGDP比に言及したわけではない」と修正した。さらに木原誠二官房副長官が21日のBS番組で、「子どもが増えれば、予算が増える」と木で鼻をくくったように述べたことが問題にもなった。

「賃上げ、子育て、増税の方針が我々の考えとは違う」

 玉木氏は政府予算案に反対する理由として、3つの問題を挙げた。2月22日の衆議院予算委員会で、玉木氏は岸田首相に賃上げ、電気・ガス代の支援および子育て政策について具体的な対応を求めたが、岸田首相は明言を避けている。同じ考えに基づかない予算案には賛成することはできないというのが、玉木氏らの主張だ。

 もっとも党内では異論もあったようだ。国民民主党は自民党・公明党と実務者協議を行っているが、国民民主党が予算案に反対することで、その運営に支障が出ないかとの懸念もある。

立憲民主党は国民民主党に近づきたいが……

 一方で、これに色めきたったのは立憲民主党だ。同日に会見した泉健太代表は「野党として協力する素地ができた」と歓迎し、安住淳国対委員長も「これから協力できる場面が出てくるのではないか」と期待を寄せた。また2月19日に開かれた党大会では、岡田克也幹事長が国民民主党との「野党間協力」について述べ、「働く人々を代表する政党は1つでいい」と〝合流〟を提唱していた。

 そうした立憲民主党側からの〝ラブコール〟に対して、国民民主党側はいたって冷淡だ。同党の榛葉賀津也幹事長は24日の会見で、「『国民民主党はいらない』というふうにとれる。残念だ」と不快感を示した。さらに「政策実現」を自負する政党として、野党共闘に参画するより与党との対話を重視する方針を捨ててはいない。実際に2023年度予算案に反対する今回の決定についても、玉木氏は「総合的に判断した結果だ」と述べている。野党にありがちな「まずは結論ありき」の話ではないということだ。

 こうした立憲民主党との差別化は、4月に予定されている統一地方選への取り組みからも明らかだ。立憲民主党と国民民主党は連合から支援を受けており、連合は両者の連携を求めている。しかし玉木氏は「必要に応じて調整する」としながら、「独自の戦いが原則」と言明。立憲民主党と合流するつもりは微塵もないのだ。

 そんな強気の源泉はリーダーシップだ。立憲民主党の泉健太代表がいまいち党内の主導権がとれていないのに対し、2022年度予算案への賛成も2023年度予算案への反対も、玉木氏の決断により決まっている。

 一歩間違えると独裁に陥りかねないが、それでもなんとかバランスがとれているのは、実現すべき政策という目標があるからだろう。そしてそのバランス感覚でもって、次期選挙でその存在感を発揮したいというのが玉木氏の思惑に相違ない。実際に今回の予算案に反対するという決定は、話題になったのだ。春の統一選は混戦となりそうだが、果たして玉木氏の戦略は功を奏すのか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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