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渡辺明挑戦者(36)がリードするも豊島将之名人(30)が追い上げ中 名人戦第1局は終盤の勝負どころに

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影、画像作成:筆者)

 6月11日。三重県鳥羽市・戸田家において第78期名人戦七番勝負第1局▲豊島将之名人(30歳)-△渡辺明三冠(36歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 千日手が回避された後、渡辺三冠は飛車を転換した4筋から動き、銀桂交換の駒損ながら駒を前に進めます。豊島玉は5八の中住居に構えているので、戦いが起こったらすぐに弾が飛んでくる位置。一方で渡辺玉は2二に入城していて、玉形は対照的です。

 豊島名人が71手目を考慮中、渡辺三冠は白いマスクから、黒いランニング用マスクへと替えました。前日1日目にも用いて話題となったものです。

 渡辺いろいろな人がいろいろなことを連想するようです。「忍者」という人もいます。忍者の里である伊賀市は三重県の内陸。対局がおこなわれている鳥羽市は海沿いで、距離としては100kmほど離れているようです。

 ABEMAの中継では、福崎文吾九段が封じ手を紹介していました。中村太地七段(ABEMA解説)と飯野愛女流初段(聞き手)の間では、次のようなやり取りがありました。

飯野「封じ手の用紙についてなんですが、この後、その封じ手はどのようにされるんですか?」

福崎「・・・いや、これは僕はあの、メルカルで売ろうかなとおもて」

飯野(爆笑して下を向く)

中村「絶対ダメ。絶対ダメなやつです、それ。先生・・・」(苦笑)

福崎「抗議の電話が殺到するからやめとくけどな。前、売れたっていうからな、チャリティでな」

飯野「あっ、チャリティでですね! はい」

福崎「チャリティで売れたことがあったんよ、前ね。だから僕も・・・まあ・・・抗議の殺到するけど、お金の方が大事やからな。売ろうかな、とかね(にっこり)・・・あかんで、これ、冗談やで」

 このきわどいやり取りが福崎流です。(野暮ではありますが念のため、本当に全部冗談のようです)

 ところで今から2005年4月の名人戦第2局▲森内俊之名人-△羽生善治挑戦者戦でも、福崎九段が立会人を務めていました。

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 12時30分。昼食休憩に入りました。

 13時30分。昼食休憩後、中央で本格的な戦いが始まります。豊島名人が「天王山」と言われる5五の地点に銀を進めたのに対して、渡辺三冠も四段目に金をすすめ、ガツンとぶつけます。「力感あふるる」という表現を使いたくなるような、熱のこもったやり取りでした。

 渡辺三冠は白いマスク、黒いランニング用マスク、マスクをしないという3つの状態を使い分けているようです。午後の戦いが始まった時には白いマスクでしたが、それをはずしてお茶を飲み、次には黒いマスクの登場となりました。

 4筋から前線に飛び出した渡辺三冠の飛車は、豊島名人の駒に追われながら五段目で横にスライドして8筋に戻り、また最初に飛車が置かれていた8二の地点に戻りました。飛車がぐるっと一周するする間に、わずかに渡辺三冠がポイントをあげたようです。

 豊島二冠は4筋に銀を2枚並べ、厚みを築きます。

 対して渡辺二冠は豊島陣が前線に伸びたのを見て、自陣から遠見の角を打ちます。これが豊島陣奥の金と飛をにらんで、気持ちのいいカウンターでした。形勢は少しずつ渡辺三冠がリードを広げたかのように見えました。

 しかし豊島名人も渡辺陣の中央、5三の地点に大きなと金を作ります。

 94手目、渡辺三冠は桂を打ち、豊島玉の本営に迫ります。勝敗はまだ不明。簡単ではなさそうです。

 豊島名人の手番で18時、休憩に入りました。30分の休憩で、両対局者はその間に軽食を取ります。

 再開は18時30分。夜には決着がつくことになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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