ヤマト死傷事件から考える解雇と絶望と犯罪の心理
■ヤマト宅配センターで二人が死傷する事件発生、元従業員の男が逮捕される
10月6日未明、神戸市のヤマト運輸の宅配センターで、二人が死傷する事件が発生しました。報道によると、逮捕された男(46)は元従業員で、「昨日解雇され腹が立った」と語っています。
男は、現場近くで運転していた車をパトカーにぶつけたと見られていますが、「人を刺し、さんざんなことをした。どうせ逮捕されると思い、パトカーに車をぶつけた」と供述していると報じられています。
また先日、逮捕された男と別の従業員がけんかになり、被害者女性が仲裁に入ってけがをしたとして、警察に相談していたとも報道されています。
■元従業員による職場での殺人事件
今回の事件はまだ公務執行妨害での逮捕段階であり、犯行動機も、被害者女性への個人的感情なのか、それとも解雇されたことによる職場への怒りなのか不明ですが、欧米では解雇された従業員による銃乱射事件などが何件も起きています。
たとえば、昨年2019年アメリカのイリノイ州では、解雇直後の従業員(45)が銃を乱射し、5人が死亡しています。今年2020年の2月にも、ミルウォーキーにあるビール会社で、解雇された直後の従業員(51)が銃を乱射し、5人が亡くなりました。1986年にはオクラホマの郵便局で停職中の男(44)が銃を乱射し、14名が亡くなる事件も発生しました。
アメリカで発生する大量射殺事件の半数近くは、職場関連だという調査もあります。アメリカでは、職場での銃乱射事件に備えた対策訓練が行われたり、オフィスに狙撃探知器を起き、銃乱射に備える企業もあるとも報道されています。
職場でのトラブルはどの国にもありますが、日本よりも解雇が日常的にあり、また銃の所持が広く認められていることが、事件の原因の一つでしょう。
しかし日本でも、コロナによる景気悪化で、大量の解雇、雇い止めが起きています。次第にアメリカ型社会になりつつある日本でも、心配なところです。
■職場銃乱射事件の犯人像
この種の犯人は、全く問題がなかった従業員の場合もありますが、次のような問題が見られた場合もあります。
たとえば、突然の無断欠勤、家庭問題の悩み、深刻な金銭問題、生活全般のやる気の低下、この種の犯罪者への共感、自殺をほのめかす発言などです。「殺人者はひとりで、職場の同僚に批判的な者」との考察もあります。また、犯人のほとんどは、中年男性です。
職場ではなく学校での銃乱射事件でも、犯人は一見ふつうの子ですが、強い孤独感、疎外感、不満感、被害者意識を持ち、人生に絶望して自殺と集団殺人への思いを持ち始めるとされています。
一般に一度の複数の人を人を殺害しようとする人は、逃亡計画も立てず、自分の人生も終わりにしようと考えている人たちです。
■絶望感による自殺的行為としての犯罪
自殺や自殺的行為も犯罪も、防止するためには、社会の安定と個人の生活と心の安定が必要であり、小さな問題が発生した時の適切な対処が必要でしょう。
日本では、職場に家族的なつながりを感じている人も多く、仕事を失うことは収入を失うだけでなく、心の拠り所を失ったと感じることもあるでしょう。
解雇や失業は、経済的問題だけでなく、心の問題を引き起こします。失業率と自殺率とは、きれいにリンクします。失業者には、経済的支援だけでなく、心の支援が求められています。
解雇、雇い止めの際に、どれほど納得してもらえるか、どのような心理的ケアが行われるのかが大切ではないでしょうか。
絶望感が自殺的犯罪を生みます。
多くの犯罪者は、事件の発覚と逮捕を恐れますが、人前で犯行を実行し、すぐに身柄確保されるような犯罪は、生活の乱れや絶望感を背景にした自殺的行為です。
個人への怒りや恨みであれ、職場全体への無差別な犯行であれ、希望を失っている人の行為でしょう。恨みの感情は、ふつうは時間と共に薄れますが、その後の生活が上手くいかないと恨みは増幅されます。
希望ある社会と生活が、犯罪防止につながります。