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日銀は長期金利上昇を止められるのか?

岩崎博充経済ジャーナリスト

米国は無傷で「出口戦略」を実施しできるのか?

日本銀行の金融政策決定会合で、期待した成果が得られなかったとして、株価が再び下落し、円も買われて円高が進み、長期国債も一時0.88%まで上昇した。国内では総じて黒田日銀総裁に対する評価は高かったのだが、海外の投資家は違ったようだ。長期金利上昇を防ぐために「固定金利オペ」を拡充するのではないかと期待していた投資家が多かったが、その予測は裏切られた。政策を小出しにはしない、という前言を2ヶ月でひっくり返すわけにはいかなかった、あるいは最後の切り札として残しておきたかった、というのが日銀の本音だろう。ただし、これで依然として長期金利上昇のリスクは残ったままとなった。

どの国の経済危機もそのスタートは長期金利の急騰から始まる。考えてみれば、円安、株高を演出することでデフレからの脱却を目指すアベノミクスが、最初に躓いたのも長期金利の急上昇だった。長期金利の急騰は、まさにその国の経済を崩壊させかねない。現在の世界は、どの国も景気が悪いために金融緩和政策を採っている。金利を引き下げて通貨を大量に供給している。そのために、債券が大量に発行されて、それをまた中央銀行が買い取っているという図式だ。

実際に、FRBは現在毎月580億ドル、日本円で5兆8000億円もの債券を購入し続けている。MBS(モーゲージ証券)を400億ドル、米国債を450億ドル購入し続けることで、不安定だった住宅市場を安定化させ、雇用の状況も改善させようとした。そして、実際にこのところの経済指標はどれも好転しつつある。そんな背景の中で、バーナンキFRB議長が議会証言で語った「量的緩和に関する早期縮小の可能性」が世界のマーケットを一変させた感がある。

現在の世界経済は、米国の非伝統的量的緩和政策によって、支えられてきたといっても過言ではない。債券購入の額を調整しつつ市場と会話しながら、徐々に非伝統的金融緩和策を終了させていきたいというのが、バーナンキ議長が描く「出口戦略」になるわけだが、問題はこの出口戦略には大きなリスクがあることだ。

1930年代の世界恐慌時に、当時のルーズベルト米大統領はインフレになるのが怖くて、金利をあげて増税までしてしまった。その政策ミスが原因で1929年に次ぐ景気後退を強いられた。1937年秋のことだ。恐慌が始まって8年後に再び大きな景気後退を引き起こしてしまったわけだ。現在の米国は、当面金利も上げないだろうし、増税もしないだろうが、それで安心できるかといえばノーだろう。

そういう意味では、FRBの出口戦略は実に難しい。短期間で大量の資金を市中に放出してしまったために、米国も常に長期金利上昇のリスクにさらされる。加えて、米国の金融政策と同時にECB(欧州中央銀行)も非伝統的な金融緩和で大量の資金を市中に放出した。それらの資金は、ヘッジファンドなどのリスクマネーに流れて、通貨や商品、債券、そして株式市場に大量に流れ込んだ。金融マーケットはあちこちですぐにバブルを形成する状況に陥っている。そんなときに米国が出口戦略を実施したらどうなるのか。世界中のマーケットは再び大混乱に陥る可能性もある。出口戦略がわずかに現実味を帯びてきたという状況だけで、日本株がピークから15%も下落し、為替も1ドル=103円から、一気に95円にまでドルが売られて円が買われた。連動して、世界の株式市場や為替市場も混乱した。

世界は「バブル」に満ちている

しかも、世界経済は米国が出口戦略を迎えつつあるときに、またひとつ大きな荷物を背負ってしまったのかもしれない。日本が異次元の金融緩和策を実施してしまったために、大量の資金が世界中にシフトして大量の資金が債券に向かうことになった。債券価格は下落し、金利が上昇しやすい環境になってしまった。

世界がいかに「金余り」なのかは、ヘッジファンドなどの活動を見ればよくわかる。英国の大手ヘッジファンドの「マン・グループ」が、日本株などへの投資の失敗で6月3日までの1週間で、主力ファンドの運用資産が6.1%減少したと発表して注目を集めたが、マン・グループといえば株式や債券、商品市場など世界の先物を対象にコンピュータプログラムで運用する「CTA(商品投資顧問)」として有名だが、CTAが大幅損失を出すのはマーケットが不安定なときにはしばしば見られる現象だ。プログラム売買といえば市場の流れに沿って投資するトレンドフォローだが、アルゴリズムさえもついていけないほど大きなボラティリティだったことを示している。こうしたヘッジファンドの大幅損失が、やがては巨額損失へと変わり、再び経済危機が訪れるかわからない。

そもそも、現在の世界経済はバブルに満ちている。資源国への投資、商品市場への巨額投資、通貨先物市場や株式先物市場などなど、ヘッジファンドや金融機関の自己運用部門などが、莫大な資金を使って運用している。日本株も、日経平均株価を動かすために値動きへの寄与度が高いファーストリテーリングを売買して調整するといった技まで駆使しているといわれる。

1980年代後半の日本の株式市場、リーマン・ショック以前の米国株式市場などで、同様のことが行われたと記憶しているが、こうした投資手法が出てくること事態、すでにバブルといって良いだろう。ジョージ・ソロス氏が再び「円売り、日本買い」をスタートさせたという報道があったが、米国などの非伝統的金融緩和政策に加えて、バズーカー砲を炸裂させてしまった日本銀行も加えて、世界経済はとんでもない難しい局面を迎えつつあるのかもしれない。

アベノミスク最大のリスクは長期金利の上昇

今回の日銀の金融政策決定会合の直後、10年もの長期国債の金利も急上昇したわけだが、問題は日本の長期金利の上昇懸念が依然として強いということだ。そもそもアベノミクスは、インフレ率を2年後には2%にするという金融政策だ。ということは、当然ながら長期金利も2%を超える水準になることは容易に想像できる。

国債に投資している銀行などにとっては、2年後にはほぼ確実に損失がでるとわかっている国債を保有したままにしているとは考えにくい。日本銀行自身が、長期金利の1%上昇で国内銀行の利益が6兆円超失われる、という試算を出しているが、国内銀行が国債を売れば売るほど国債価格は下落し、金利も上昇する。

黒田総裁の描くシナリオは、はやくも2ヶ月で狂いを生じて、市場が追加策を求める状況になっている。日銀は、国債の7割を買い上げると宣言しているが、では残りの3割は誰が買うのか。そして、2年後に2%のインフレ率が達成できたとして、出口戦略はどうするのか。米国が直面している出口戦略の難しさよりさらに高いハードルを越える必要がある。米国も、まだバーナンキが正しかったことを証明できているわけではない。出口戦略が成功してはじめて、大量の量的緩和の正しさが証明される。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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