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「歌会始の儀」 愛子さまの初々しいデビュー作と、意味深な佳子さまのお歌

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
佳子さま(写真:Motoo Naka/アフロ)

 1月18日、今年も新年恒例の皇室の伝統儀式、「歌会始の儀」が開催された。天皇皇后両陛下や皇族方、一般の入選者らのお歌が独特の節回しで披露されたが、今年の注目はなんといっても、成年になられた愛子さまが初めて出されたお歌だ。

 残念ながら愛子さまは学業を優先されて欠席となったものの、自ら詠んだお歌を出された。お歌を詠まれることは、宮中の伝統として長い間受け継がれ、いわば皇族としての嗜みの一つであり、必須の教養となっている。

 今年のお題は「窓」。日本の伝統文化や歴史に造詣が深いと言われる、愛子さまが詠まれたお歌とは——。

■期待が集まる愛子さまのお歌

 2018年、学習院女子高等科2年生だった愛子さまは、夏休みを利用して、英国の名門・イートン校のサマースクールに約3週間にわたり参加された。その間、愛子さまは寮生活を送りながら、英会話やイギリス文化を学ばれたという。

 なにしろイートン校は、約600年の歴史を持つ男子校。ウィリアム王子やヘンリー王子も卒業生に名を連ね、厳格な規則によって運営される学校だ。

 夏休みとはいえ、物見遊山の思い出作りといった雰囲気はまったくなく、朝からぎっしりと授業のスケジュールが組まれ、当然ながら日本語は禁止。すべて英語で対応しなければならず、その上、ご両親や友人への連絡も禁止だったとか。

 そんな厳しい環境の中に自らを置いた愛子さまは、短い期間ではあったものの、大きな成長を実感されたのではないだろうか。

 愛子さまのお歌には、イートン校に到着され、歴史ある建物を前にした時、この場所で過ごすことで、世界がもっと身近になるだろうという、ワクワクとした当時の思いがこめられているという。

「英国の 学び舎に立つ時迎へ 開かれそむる 世界への窓」

 ご両親と離れて海外に滞在されるのは、愛子さまにとって初めての経験。環境も文化も違う毎日は、発見と驚きの連続で世界の広さを実感されたはずだ。

 とまどいもあったかもしれないが、それよりも世界に開かれていく大きな視野に、胸が高鳴ったことだろう。

 今回、「窓」というお題をお歌にしようと思われた際、愛子さまにとっての「窓」は、まさに世界に開かれた広い広い大空と、そこから見える様々な言語や文化、人びとの営みだったのだろう。

 愛子さまの未来が、このお歌のように大らかに伸びやかに、世界へと広がってほしいものだ。

■金木犀にこめた意味とは?佳子さまのお歌

 皇族を代表して披講されたのは、秋篠宮家の二女・佳子さまのお歌だ。

「窓開くれば 金木犀の風が入り 甘き香りに心がはづむ」

 秋のある日に部屋の窓を開けると、金木犀の香りが風にのって漂ってきたが、鼻をくすぐるその香りで嬉しいお気持ちになったことを、お歌に詠まれている。

 それは季節の移ろいの一場面を描いたお歌ではあるが、実はとても意味深な内容も含まれているように思う。

 なぜなら、金木犀は9月から10月にかけて、甘い香りを放つ花を咲かせる。秋の甘い香りは、もしかしたら昨年10月の姉・小室眞子さんの結婚を、暗喩的に例えているのではないだろうか。

 さらに金木犀の花言葉は「謙虚」とともに、「気高い人」そして「初恋」という意味もある。

 自らの意志を貫き「初恋」を成就させた、「気高い人」として姉を讃えているような気もしてくる。もしもそうであるならば、佳子さまのお歌の腕前は、なかなかのものだと感じざるを得ない。

■天皇皇后両陛下のお歌

 令和の時代となって3回目の歌会始となった今回も、天皇陛下は国民の安寧なる日常に思いを馳せ、心を寄せる御製を詠まれている。

天皇陛下御製

「世界との 往き来難(がた)かる世はつづき 窓開く日を偏(ひとへ)に願ふ」

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって、今大きく落ち込んでいる世界との、人々の往来が再び盛んになる日の訪れを願い、交流の再開を「窓」が開かれる様子になぞらえられてお気持ちを詠まれた。

 万人の暮らしが元通りになることを心から願われる、陛下の深い祈りが伝わってくるようだ。

 雅子さまは、日常のふとした風景の中に、皇后となったある日の心模様を詠まれている。

皇后陛下御歌

「新しき 住まひとなれる吹上の 窓から望む大樹のみどり」

 陛下と雅子さま、そして愛子さまは、ご一家で去年9月、それまで長くお住まいになった赤坂御所から、上皇ご夫妻が一昨年まで長年暮らしていた吹上御所に移られた。 

 この御歌は、吹上御所に移られた雅子さまが、上皇ご夫妻が暮らされた日々に思いを寄せ、感謝の気持ちを新たになさりながら、大きな木々の緑深い御所からの眺めを詠まれたものだという。

 お歌の持つ味わいの世界には、常日頃、何を心の拠り所とし、何を人生の支柱としているのか、その価値観がにじみ出るものだ。

 今回、筆者が感じたのは、愛子さまは「世界」、佳子さまは「恋の成就」、陛下は「祈り」、雅子さまは「感謝」…そんな心の内に触れたような気がする。

「皇室ご一家が激励してきた「もう一つのオリンピック」とは? 深いつながりを解説」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220120-00277716

「愛子さまと同世代のプリンセスは欧州の未来を担う女王候補 共通点と相違点は?」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220118-00277182

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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