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歴史的なダブル違憲判決「婚姻の平等さらに前進」名古屋地裁判決を傍聴

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
名古屋地裁前で旗出しをする弁護団や支援者ら(筆者撮影)

30日、名古屋地方裁判所で下された「結婚の自由をすべての人に」訴訟判決を傍聴した。

「憲法24条2項と同時に、憲法14条1項にも違反する」

歴史的な違憲判決が出た直後、「わっ」と傍聴席から声が上がった。

西村修裁判長が判決要旨を読み上げたあと、自然と拍手が起き、違憲判決を実感し鳥肌が立った。弁護団や傍聴席の人が涙を流す姿につられて、涙腺が緩む。「すごい」「よかった」とお互いに抱き合う姿が視界に入った。

判決は抽象的な言葉が続くが、改めて裁判とは、いまを生きる一人ひとりの生活や命について考えるものなのだと実感した。「普通じゃない」「生産性がない」などと、これまで社会によって抑圧されてきた人々の尊厳を回復する、そうした意味を持つものなのだと。

名古屋地裁は今回、同性カップルの関係を国の制度で公証する、そうした枠組みが何もないのは、憲法24条2項と憲法14条1項に違反するという判断を下した。

改めて判決の内容と意義を振り返りたい。

憲法は同性婚を禁止はしていない

これまで「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、すでに札幌・東京・大阪地裁で判決が下されている。

いずれも、婚姻について定めた憲法24条1項や2項、そして法の下の平等を定めた憲法14条1項という順番に、憲法違反かどうかの判断がなされた。

憲法24条1項に「両性の合意」と書かれていることから、依然として憲法は同性婚を禁止しているという誤解が根強くある。

しかし、名古屋地裁の西村裁判長は、憲法24条1項について「同性婚を禁止しているとは言えない」と釘を刺しつつ、意識調査では同性間への賛成が多数だが、反対も一定数いること、いまの婚姻制度をそのまま同性カップルに適用するだけでなく、別の規律を設ける可能性もあり得ることなどから、憲法24条1項に違反するとは言えないという判断を下した。

これまでの各地裁判決でも、憲法24条1項については同様の判断だった。まだこのあと憲法24条2項や14条1項についての判断が続く。焦らず裁判長の声に耳を傾けていると、憲法24条2項の説明の途中で、風向きが変わったように感じた。

両当事者の関係の社会的承認

憲法24条2項は、国が結婚や家族に関する法律を作る際、個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて規定することを求めている。

裁判長は憲法24条2項について説明を進めるなかで、ほんの少しだけ時間をおいて、またゆっくりと続きを語り始める瞬間があった。

先程の憲法24条1項の時とは打って変わり、思わずうなずく言葉の数々が続く。

「同性カップルは異性カップルと何ら異なることはなく、性的指向や性自認は、自らの意思や精神医学的な療法で変更されるものではない」

被告である国側は、婚姻の目的を「生殖」だと主張していた。しかし、名古屋地裁は、婚姻の意義や本質は「単に生殖と子の保護・育成のみ」にあるわけではなく、親密な関係に基づく「共同生活」を営むことであり、そのためには「両当事者の関係が正当なものであるという社会的な承認が欠かせない」とした。

しかし、同性カップルの関係は国の制度によって公証されておらず、こうした「重要な人格的利益」を受けられていないと指摘。

思わずメモを取るペンの動きに力がこもる。これは違憲判決が出るのだろうか、と期待の気持ちが高まった。

憲法24条2項に違反する

判決を傍聴したある人は、今回の判決について「みんなが社会の意識を変えてきたおかげで出たんだよ、と言ってくれているように感じた」と語っていた。

確かに、判決では世界各国で同性婚が導入されていること、日本でも自治体のパートナーシップ制度が広がっていること、民間企業で同性パートナーへの福利厚生制度を適用していることなどが指摘されていた。

さらに、世論調査で同性婚への賛成が多数であることも触れられ、「近年家族の多様化が指摘されており、伝統的な家族観が、唯一絶対のものであるというわけではなくなっている」と明確に述べられていた。

まさにこの間、自治体や企業、学校などそれぞれの領域で、当事者やその周囲の人が声をあげ、性の多様性をめぐる適切な認識が広げられているなどの社会の変化を、裁判官は誠実に捉えていたと言えるだろう。

こうした社会状況の変化を背景に、名古屋地裁は、同性カップルが婚姻制度から排除されることで「大きな格差」が生じている現状、これに対し何も手当てがないことは「もはや無視できない状況」だと指摘した。

さらに、同性カップルが婚姻による法的効果を受けられないことは、「公正証書などで解消することはできない」と、代替手段では問題があると釘を刺した上で、たとえ同性婚が法制化されたとしても「(反対派の)不利益は想定し難い」と言及。

近年、パートナーシップ制度を導入する自治体が増加しているが、裁判長は「(パートナーシップ制度により)弊害が生じたという証拠はなく、伝統的な家族観を重視する国民との間でも、共存する道を探ることはできる」と指摘した。

名古屋地裁は、いまの婚姻制度をそのまま同性カップルにも適用するのか、どんな法的保護を与えるのかといった点は国会に立法の裁量があるとする一方、同性カップルが不利益を被っている現状を放置することは、もはや個人の尊厳に照らして合理性を欠く状況で、「国会の立法裁量の範囲を超える」と判断した。

そして、同性カップルの関係について、国の制度によって公証し保護する枠組みがないのは、憲法24条2項に反するという画期的な判決が下された。

憲法14条1項にも違反する

憲法14条1項は、「法の下の平等」を定め、合理的な理由のない区別、つまり差別的取り扱いを禁止している。

国側は今回の訴訟で、「異性愛者であっても同性愛者であっても、制度上は異性と婚姻ができるのだから、差別はない」という詭弁としか言いようがない、あまりに酷い論理を展開していた。

名古屋地裁はこの点について「同性愛者にとって、同性との婚姻が認められないことは、婚姻が認められないのと同義」であり、性的指向により異なる扱いがされていることにはほかならないという、まっとうな指摘がされていた。

性的指向は、自ら選択や修正できる余地のないものだとして、同性カップルに関して、国の制度によって公証し、保護する枠組みがないのは、国会の立法裁量の範囲を超えるため、名古屋地裁は憲法24条2項だけでなく、憲法14条1項にも違反するという判断を下した。

至極まっとうな判断

「裁判所が憲法違反の判決を下すことは相当珍しいこと」だと、この訴訟を追うなかで、弁護団の方々から何度も伺っていた。

札幌地裁で憲法14条1項への違憲判決が下り、東京地裁では憲法24条2項に関して実質的な違憲判決が下された。今回の名古屋地裁判決は3つめの「違憲判決」であり、札幌や東京判決以上の内容と言える。

憲法24条2項と14条1項というダブル違憲判決は、相当踏み込んだものなのだろう。一方で、名古屋地裁判決に関して、至極まっとうなことをただ述べているにすぎないのではとも感じる。

求めているのは、法律上同性のカップルも異性のカップルも平等に扱うこと、ただそれだけだ。婚姻制度の目的は生殖だけでなく、共同生活の保護。同性カップルの関係を法的に保障しても、国は滅びず、少子化とは関係なく、家族も崩壊しない。反対派の論理は合理性があるとは言えない。

法律上同性のカップルは明らかに不利益を被っている。世論はすでに「同性婚」への賛成が多数で、多様な性や家族のあり方を受容する準備ができている。同性カップルの関係を保護する枠組みが何もないことは、個人の尊厳や法の下の平等などを定めた憲法に違反する。

こうした事実に対して、まったく政治が向き合おうとしない現状に強い憤りを覚える。

来週6月8日(木)には、福岡地裁でも判決が下される。その後、各高裁判決へと続き、最終的には最高裁での判断が下されることになる。

同性婚を認めることで「社会が変わってしまう」のではなく、「もうすでに社会は変わっている」。国は最高裁の判断を待たずして、婚姻の平等(同性婚の法制化)を早急に実現するべきだ。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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