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“推し活”注目の背景に羨望の眼差し? ドラマ、書籍などから高まる社会的関心

武井保之ライター, 編集者
『推し活を20倍楽しむ』(中村辰之介著)画像提供:音楽之友社

ここ数年のトレンド的なアップワードになっている“推し活”。情報番組で頻繁に取り上げられたり、アイドル推し活がテーマのアニメやドラマも注目され、「いい推し(1、1、0、4)」の日の11月4日は、“推し活”界隈の特別な日になり、さまざまなイベントが開催されてシーンが盛り上がる。

ここ最近では、新人脚本家の発掘のための『第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞』で推し活を描く『推さないでくれませんか?』(戸成なつ)が大賞を受賞したほか、現役の推し活者が自身の体験を綴る人生指南書であり実用書『推し活を20倍楽しむ オルタナ好きの僕がグループアイドル沼に嵌った15年と学んだ秘訣20』(中村辰之介著/音楽之友社)が発刊されている。

なぜ推し活が注目されるのか。そこには、現代社会に適応しながら好きなことへの欲求をつらぬく生き方への羨望と関心があるのかもしれない。

会社員をしながら両立させる仕事と推し活

『推し活を20倍楽しむ』は、15年間いろいろな推し活をしてきた筆者が、そのなかから学んだことや、それが人生のなかでどのような意味があり、どのような位置づけになっているかを、自らの言葉でときに明るく、ときに切々と綴っている。

そこには、日々の多忙な生活のなかで、自分の好きなことを細々と楽しんだり、人知れず愛でたりしている、多くの推し活ライト層にとって、興味深く、発見と学びがあり、かつ共感もできるであろう要素がてんこ盛りになっている。

たとえば、15の章立てのなかの「仕事と両立させる」では、会社員として仕事をしながらの円滑な推し活を指南している。

アイドル推しの筆者の日常は、毎日のようにライブDVDを鑑賞して、休みの日はコンサートや握手会に通いつめる。そんな日々のなかでは、どうしても外せないイベントの日に限って、休めない仕事が急に入ることがある。そのときにどうするか。

アイドル推しという趣味を理解しない人も多いなか、アイドルヲタはダメな人というレッテルを貼られないためにどう振る舞ってきたかという実体験を語り、仕事を休んでも周りから悪く思われないためにはどうすればよいか、という推し活に限らない普遍的な答えを導き出している。

失恋以上の失意やネガティブな感情への対処法

一方、推し活のなかでは、納得のいかないことや負の感情を抱くこともある。そういうときに、推し活歴15年のプロは、ネガティブな気持ちにどう向き合い、どう処理したのか。どうすれば前向きに活動を続けられるのか。そこには、ポジティブシンキングの真髄とも言えるだろう生き様がある。

そのほか、食生活を推しに合わせる「食で推す」や、人生の拠りどころが失われる失恋以上の失意となった「卒業を受け止める」、グッズや関連商品の収集によって気づいたらワンルームマンションの部屋にお宝のアンコールワットが立っていたときに、お金のない筆者がどうしたかなど、人生そのもののような教訓の数々が綴られる。

そこにあるのは、ぶっ飛んだ生活を送る筆者の波乱万丈なエピソードからなる、ひとつの推し活者の生き様であり、人生そのもの。それは、少し客観視すれば、決して別の世界の出来事ではない。誰もの人生に当てはまる普遍性がある。

人生を豊かに生きるための実用書

本書を読み、推し活がここ数年のアップワードになり、社会的関心が集まる理由が腑に落ちた気がする。

好きなことに夢中になり、時間もコストもかけながら必死にそれを追いかける彼らは、仕事でもプライベートでも活き活きとし、人生を楽しんでいる。そんな姿を客観的に眺める人の心のなかには、楽しそうだなという、うらやましさのような感情が生じるのかもしれない。

ただひたすら好きなことに没頭できる日常とは切り離された時間や場所は、その人にとっての幸福な時間に違いない。それは生命の限られた時間を生きる、人それぞれの人生をより豊かにする。

本書は、人生を豊かに生きるための実用書だ。もちろん好きなことは人それぞれだろう。多種多様な趣味のなかのひとつである、アイドルという推し活の未知の世界を知ることは、読者それぞれの“好き”に対する何かしらの気づきを与えるに違いない。人生への発見と学びがある本だ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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