ジェフ・ベゾス氏、NASAアルテミス計画の月着陸機契約獲得に向け20億ドルの私費投入を宣言
2021年7月26日、米宇宙開発企業Blue Origin(ブルー・オリジン)と設立者のジェフ・ベゾス氏は、NASAが2024年の月着陸を目指す「アルテミス計画」で、月面着陸船「HLS」の開発コスト20億ドル(2200億円)を負担すると表明した。NASAのビル・ネルソン長官宛の公開書簡で述べたもので、NASAからの開発費の支払いを2年分放棄する形で肩代わりする。
有人着陸システム(HLS)は、NASAのアルテミス計画で月着陸を担う宇宙船の一種。月面有人探査ミッションの際、宇宙飛行士はSLSロケットとオライオン宇宙船から月近傍でHLSに移動し、月面に着陸する。アポロ計画終了から半世紀を経て人が月面に立つために必須のシステムだ。
HLSの開発ではブルー・オリジンを始めとする企業連合のほか、イーロン・マスク氏が設立したスペースX、防衛・航空宇宙企業のDynetics(ダイネティクス)の3社がNASAの候補企業となり、うち2社が選定される予定だった。しかしNASAは、2021年4月16日に予算の制限を理由にスペースXのみを選定。ブルー・オリジン企業連合とダイネティクスは、競争の機会が与えられなかったとして米会計監査院(GAO)に抗議していた。GAOが調査中のため、HLS契約の第1段階は8月9日まで中断される。
ベゾス氏は公開書簡の中で、スペースXのみが選定されたのは、入札価格を修正する機会が与えられたためで、同様の機会はブルー・オリジンにはなかったと述べた。そこで、2021年度、2022年度予算から20億ドル分の開発費支払いを放棄することで、入札価格修正の埋め合わせをする方向だ。
さらにHLS開発に先立ち、地球低軌道で試験機ミッションをブルー・オリジンが負担して実施すると述べた。HLS向けに開発した「BE-7」エンジンを使用し、月着陸機開発の確実性を高める。ブルー・オリジン開発のHLSは、SLSだけでなくブルー・オリジンが今後開発する「ニュー・グレン」、ブルー・オリジンからエンジンを提供する予定の「ヴァルカン」、スペースXの「ファルコン・ヘビー」など各種ロケットに適合する柔軟性を持ったシステムだとしている。
また、ブルー・オリジンはNASAとのHLS開発契約に際して、開発費超過があっても追加の費用をNASAに求めない固定価格契約を受け入れると述べている。HLS開発では、NASAの要求を満たす予算を米議会がなかなか認めない背景もあり、開発費の不足が足かせとなっている。ベゾス氏はAmazon創業者としての豊富な資金を投入することでNASAに働きかけ、契約獲得を目指すようだ。