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155mm榴弾砲でドローン相手の対空射撃を行う「統合対空信管」

JSF軍事/生き物ライター
統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省

 9月8日に防衛省から「令和5年度 事前の事業評価 評価書一覧」が発表され、17種類の新兵器の開発研究の概要が掲載されています。その中の「統合対空信管の研究」は、本来は対空砲ではない155mm榴弾砲でドローン相手に対空射撃をしようという計画です。

事業の概要:統合対空信管の研究

155mmりゅう弾砲等から射撃する対空火力として、島嶼部等における中型以下のUAV(※1)群等に有効に対応する対空信管を研究する。本事業で得た成果を用いて、令和13年度末に中型以下ドローン・スウォーム対処能力を確立する。

(※1) UAV(Unmanned Aerial Vehicle):無人航空機

出典:統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省

 開発理由は「貴重な地対空ミサイルは巡航ミサイル相手に使いたいので、安いドローン対策の安価な迎撃手段として榴弾砲で対空射撃を行う」というものです。本来は対空砲ではない榴弾砲ですが、目標がドローンならば低空を低速で飛んで来るので対応が可能だろうという目論見です。

 用意される対空信管は小さなドローンを感知できる近接信管となりますが、「信管」ということは砲弾は従来からある既存のものを使うということです。つまり対空用に最適化された調整破片を実装した弾殻の砲弾は用意しないという意味で、コストを重視した計画になります。

 中型ドローン以下を目標とするというのは、大型ドローンが飛ぶような高高度での対空射撃は全く考えていないということです。大型ドローンともなると高価な機材なので数も少なく、地対空ミサイルで迎撃しても十分にお釣りが来ます。

 なお99式自走榴弾砲ならば砲塔式で全周旋回が可能ですが、19式装輪自走榴弾砲は左右の射界が限定されるので、接近された状態では目標を捉えきれない場合があります。

運用構想図

統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省
統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省

統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省
統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省

統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省
統合対空信管の研究:令和5年度事前の事業評価:防衛省
  • UAV(Unmanned Aerial Vehicle):無人航空機
  • CM(Cruise Missile):巡航ミサイル
  • SAM(Surface-to-Air Missile):地対空誘導弾
  • ADCCS(Air Defense Command and Control System):対空戦闘指揮統制システム

 他の防空システムのレーダー情報から目標の位置をADCCSを経由して榴弾砲に伝えて射撃を行います。

 なお他国にも陸上用の155mm榴弾砲で対空射撃をしようという計画は幾つかあるのですが、想定目標が全て異なっており使用目的が違います。

ドイツの場合:カウンターRAMとしての155mm榴弾砲の対空射撃

 ドイツのKMW(クラウス=マッファイ・ヴェクマン)社が提案しているのはカウンターRAM(対ロケット弾・砲弾・迫撃砲弾の迎撃)の用途で155mm榴弾砲を対空用に用いるもので、低強度紛争を想定し、派遣部隊のキャンプを防空するシステムです。155mm榴弾砲AGM(Artillery Gun Module)を使用します。提案のみで採用されてはいません。

アメリカの場合:巡航ミサイル迎撃としての155mm榴弾砲の対空射撃

 アメリカは2020年9月にM109自走榴弾砲が特殊な高速砲弾HVP(Hyper Velocity Projectile)を用いて巡航ミサイルを模したBQM-167標的機を迎撃する試験を実施して成功させています。HVPは砲弾としてはかなり高価ですが、ミサイルよりは安くなります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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