遺言にとって「日付」が重要な2つの理由
山田良一さん(仮名・65)は、初期の癌にかかってしまったこともあって「そろそろ遺言書を残しておいた方がよいかな・・・」と思うようになりました。そこで、前々から考えていた財産引き続き方を便せんに書いてみました。その内容は2人の子どもの内、長男にほとんどの財産を残すというものでした。その理由は、次男は素行不良で、その尻ぬぐいのために相当のお金を費やしてきたからでした。
本文を書き終わり、日付を書こうと思ってカレンダーを見ると、ちょうど大安でした。良一さんは「これは縁起がいい。せっかくだからこう書こう」とつぶやきながら「令和5年3月吉日」と書いて封筒に入れて封印をしました。果たして、この遺言書は法的に有効なのでしょうか。
遺言には「日付」が必要
民法は、自分で書いて残す自筆証書遺言は、日付を自書しなければならないと規定しています(民法968条)。
民法968条(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
「日付」が必要な2つの理由
自筆証書遺言に日付を自書しなければならないのには次の2つ理由があります。
遺言者の「遺言能力」の有無を判断するため
民法は、遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならないと規定しています(963条)。この能力を「遺言能力」といいいます。
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果(自分の死後に遺言によって起きること)を理解できる能力のことをいいます。日付は遺言者が遺言を残した時に遺言能力を有していたかどうかを判断する材料となるのです。
複数の遺言書が出てきた場合の対応のため
遺言者の死後に複数の遺言書が出てきた場合に、原則として後の遺言が有効になります。もし、日付が付いていないと前後が確定できなくなってしまいます。そこで、日付を自書しなければならないとしました。
「特定」できれば有効
日付を書く目的は、遺言書を作成した年月日を特定することです。したがって、年月日が特定できればよいので、次のように記載しても有効です。
・65歳の誕生日
・令和5年の天皇誕生日
・2023年の秋分の日
「吉日遺言」は無効
では、良一さんが書いた「令和5年3月吉日」はどうでしょう。令和5年3月の大安は、1日・7日・13日・19日・25日・31日の計6日もあります。したがって、作成した日を特定できません。このような大安を日付に書いた俗に言う「吉日遺言」は無効となってしまいます。
「日付」のトラブル事例
吉日遺言の他にも遺言の日付に関して実際に裁判で争った判例をご紹介しましょう。
・「昭和」と書くべきところを「正和」と書いた
・「平成12年1月10日」を「平成2000年1月10日」と書いた
※平成12年=西暦2000年
「これらの日付は、真実の日付とは明らかに違いますが、明らかな誤記であることが遺言書の記載その他から容易に判明する」として遺言は有効と判断されました。
日付は「年・月・日」を書く
このように日付は作成年月日が特定できるように記載すればよいのです。しかし、なんといっても次のように「年月日」を記載するのが安心です。
・令和5年3月18日
・2023年3月18日
なお、自筆証書遺言では日付は「自書」しなければなりません。したがって、日付印やゴム印で日付が付けられていても無効になります。念のため。