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「イチローのピート・ローズ超え」はこんな人に祝福して欲しい

豊浦彰太郎Baseball Writer
早ければ数日中にも「ローズ超え」があるかもしれない(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

マーリンズのイチローが一気に安打数を積み上げている。今月に入り10安打(現地9日現在)で、通算3000本安打まであと27本、ピート・ローズのメジャー記録4256本までは日米通算であと5本といよいよカウントダウンだ。。

これから日本国内での報道も「ローズ超え」を題材に一気に加熱するだろう。しかし、当たり前だが「日米通算」はメジャーでもそして日本でも正式記録ではない。いや、参考記録ですらない。そういう中でわれわれは、どうこの偉業に向き合えば良いのか述べてみたい。言い換えれば、これを理解する人にこそ、4256本超えを祝福して欲しいということだ。

ポイントは3つある。

イチローが歴代1位になるのではないことを理解する

前述の通り、「日米通算」はアメリカでも日本でも正式記録ではない。これにより、MLBはもちろんアメリカのファンも「イチローが史上ナンバーワンの安打製造機になった」と認めるということはない。これは当然のことで、彼らはNPBを対等な存在とはみなしていない。日本のファンの韓国や台湾のプロ野球に対する意識を考えれば理解できるだろう。したがって、イチローの通算安打が4256本を超えても、それはその客観的事実だけが存在するのであり、それ以上にこの記録に過剰な価値を付加しようとするのは正しくない。

これはイチローの偉大さを推し量る1つの尺度であると理解する

イチローが日米通算4000本安打を放った2013年に、Yahoo! Sportsのジェフ・パッサン記者は「In Ichiro’s long road to 4,000. ‘every hit is a gift’, not just the milestones」(イチローの4000本への長い道のり、「1本1本がマイルストーンであるだけでなく授かった成果だ」)というコラムを発表した。

この中で、彼ははいかにイチローがすぐれた選手か、日本の野球界で圧倒的な存在であるか、後に続く日本人選手に影響を与えたか、を淡々と述べていた。そこには、必要以上の美化はなく、かと言って日本で積み重ねた数字に対する否定もない。それが正しい評価だろう。日米通算記録を認知すべきか否かではなく、ピート・ローズ のとの優劣を論じる訳でもなく、両国のトップリーグで合計4256本以上も安打を放つ(であろう)選手に公平な賛辞を述べたいと思う。

実はイチローの日米通算での安打数がローズに肉薄しているということは、現地のメディアでも結構紹介されている。これは、彼らが日米通算を認めているということではなく、これを材料にイチロー の偉大さを再確認しているのだ。したがって、他の日本人 メジャーリーガーに関して「日米通算では」ということが話題に上がることは まずない。

野球談義の妙味は「たられば」にあると理解する

セイバーメトリクスのシンクタンクである「ベースボール・プロスペクタス」は、「マイナーリーグや外国リーグでの実績をMLBに置き換えるとどうなるか」という統計学的アプローチで、イチローのNPBでの1994年(210安打の年だ)以降の1242安打はMLBでは1240本に相当するとの試算を発表したことがある。

27歳という「高齢」でデビューしながらそこから3000本近くも安打を積み重ねたイチローがもっと早くメジャーに渡っていたら、またはアメリカでプロ入りしていたら、一体どこまで凄い記録を残したか、アメリカ人ならずともとても興味深いトピックだ。そんな楽しい議論に、「日本での安打数も足したらローズの記録すら上回りそうだ」というのはとても興味深い題材なのだ。

以上述べたことをしっかり理解している人にこそ、この偉業を祝福してもらいたいと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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