4~6月期の世界金需要は4年ぶりの低水準に ~価格低下で現物投資、宝飾需要は拡大するも~
産金業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が8月15日に発表した「Gold Demand Trend」の第2四半期版によると、今年4~6月期の世界金需要は874.0トンとなり、2009年4~6月期以来で最低を記録したことが明らかになった。前年同期の977.0トンからは11%の減少となり、金価格は急落しているものの需要を喚起することに失敗していることが確認できる。
最大の要因は、投資需要が急激な落ち込みを見せていることだ。
金上場投資信託(ETF)関連需要は402.2トンの売り越しとなっており、1~3月期の176.5トンに続いて2四半期連続でマイナスの投資需要となっている。これは、金ETFが誕生した2003年以降で初めてのことである。
ETF関連投資は09年に過去最高となる617.1トンを記録していたが、その後は伸び悩み傾向が顕著になっており、11年185.1トン、12年279.1トンと、需要拡大ペースが急速に減速していた。それでも売り越しとなったのは07年4~6月期や11年1~3月期などの一時的な動きに留まっていたが、今年は上期のみで累計578.7トンもの売却量を記録しており、金需要の低迷を決定付ける要因になっている。
WGCは「プロ投資家がETFのポジションを手仕舞う一方、アジアや中東市場の投資家がバーやコインなどの形で金を吸収している」と解説している。確かに、バーやコインなどの金現物投資に関しては前年同期比+78%の507.6トンに達しており、今年に入ってからの価格急落を絶好の買い場と評価している向きも多いことが窺える。これは2006年や07年の年間需要を上回る規模であり、1~3月期の405.6トンに続いて脅威的な規模の需要が発生していることは明らかである。
地域別では、インドが前年同期比+116%の122.0トン、中国が+157%の122.9トン、中東が+66%の11.6トンなどとなっており、特に金消費国の首位と2位の座を争っているインドと中国が積極的に安値を買い拾っていると言えよう。
ただ、金ETF市場からの現物供給圧力をすべて吸収できるような規模には達しておらず、現物とETFを合計した投資需要全体では、前年同期の285.9トンを63%下回る僅か105.4トンに留まっている。上期累計だと334.5トンになるが、前年同期は683.8トンであり、投資需要の分野のみで既に349.3トンもの需給緩和圧力が発生している計算である。
金総需要に占める投資需要の比率は、10年4~6月期には50%を超えていたが、今年は1~3月期が24%、4~6月期は12.1%に留まっている。金は他コモディティとは違い投資需要に強く依存した需要構造にあり、価格急騰局面では投機マネーの流入が金需給も引き締める好循環を形成する傾向にある。しかし、価格急落局面では今年のように投資需要が急速に収縮することで、逆に下げ相場をエスカレートさせる要因になっている。
■中国・インドの宝飾需要は50%増
一方、実需となる宝飾需要に関しては前年同期比+40%の593.1トンとなり、この分野は価格急落の恩恵を享受していると言えよう。これで2四半期連続で500トン超の需要となっており、近年の金宝飾市場縮小トレンドにブレーキが掛かり始めている。
地域別では、インドが前年同期比+51%の188.0トン、中国が+54%の152.8トン、中東が+33%の55.7トンとなっており、概ねバー・コイン投資と同様の需要環境になっている。これらの地域では、宝飾品にも投資の意味合いが強いことで、価格変動に対しては極めて敏感な反応が見受けられる。
もっとも、インドに関してはこうした旺盛な需要が経常赤字の拡大要因になっているため、今年上期は輸入関税の引き上げなどの規制強化の動きが活発化している。WGCも、7~9月期の需要減退リスクを指摘している。中国に関しては国内宝飾販売網の強化や生産能力向上によって、長期的な拡大トレンドが指摘されている。ただ、短期要因として景気減速が金宝飾需要の鈍化を促すリスク要因になる。
同じく実需の工業需要は、前年同期比+1%の104.3トン。この分野は四半期ベースで100~110トン程度で安定した状態が続いており、特に目立った変化は見られない。世界的な工業生産拡大の動き、価格低下を受けて2四半期連続で前期比プラスとなっているが、工業分野での金需要は他金属による代替が難しいこともあり、宝飾品のような劇的な需要変動は確認できない。WGCは、価格低下を受けて在庫積み増しの動きが需要を押し上げた可能性も指摘している。
■中央銀行は動かずor動けず?
近年、需要項目で重要性が増している公的部門(中央銀行など)であるが、前年同期比-57%の71.1トンとなり、低調との評価が否めない数値になっている。100トン割れは11年4~6月期以来のことであり、今年1~3月期の109.7トンに続いて低迷状態となっている。WGCは、価格が乱高下したこと、新興国通貨安、一部中銀の外貨準備減少などの影響を指摘している。
ロシアなどは継続的な購入を行っているが、従来のようなスポット的な大口買い付けが確認できない状況となっている。これまでは、新興国の外貨準備拡大やドル・ユーロの急落を受けて、代替通貨としての金の保有比率を増やす動きが強くなっていた。しかし、新興国経済に急激なブレーキが掛かる一方、新興国通貨安で為替介入によるドル保有高の拡大といった動きも巻き戻されていることで、従来のような大規模な買い付けを行う必要性も余裕もなくなっている可能性が高い。
昨年は年間で544.4トンという驚異的な需要を創出したが、今年は300~350トンというのがWGCの予測である。10年から続く4年連続の買い越しは維持できる可能性が高いが、需要項目における中央銀行の存在感は急激に薄れつつある。
■リサイクルの還流にブレーキ
一方、総供給は前年同期比-6%の1,025.5トンとなった。3四半期連続で前年同期比マイナスとなっている。
鉱山生産は+4%の732.2トンであり、価格急落も現時点では生産への直接的なダメージは限定されていることが確認できる。中国や中南米の生産が好調なことが、新産金を支えている。価格急落で警戒された鉱山ヘッジであるが、1~3月期の11.0トンを若干上回る15.0トンに留まっている。これで3四半期連続でヘッジが行われている形になるが、一部で報告されていた金価格下落に対応するためのヘッジ売買は、現段階では本格化していないことになる。ここで1990年代のように大規模なヘッジが行われると、供給サイドから需給緩和圧力が強まることになるが、今年上期の時点ではそうした動きは確認できない。
供給部門で注目すべきは、それよりもリサイクル供給が前年同期比-21%の308.3トンと大きく落ち込んでいることだ。昨年7~9月期には433.3トンを記録していたが、その後は10~12月期385.6トン、今年1~3月期363.8トンと減少傾向が強くなっている。
地上在庫の還流が一服したのか、価格低下が敬遠されたのかは不明だが、こちらは価格低下局面における金需給の緩和にブレーキを掛ける要因になっている。00年代前半は四半期ベースで200~250トン程度が通常の状態であり、価格急騰で拡大が続いてきたリサイクル市場が、転換期を迎えているのは間違いないだろう。