2016 ドラフト候補の群像/その5 高橋雄輝[信越硬式野球クラブ]
年頭、JR長野駅ほど近くに取材に出向いたときのこと。雪のなか、傘をさして迎えにきてくれたのが、このドラフト候補だった。差し出された名刺には、
『ながのアド・ビューロ 高橋雄輝』
とある。企業チームだったNTT信越を母体として発足したクラブチームのため、選手の所属先はばらばらである。
「(東海)大学を卒業するとき、野球を続けたくてもどこからも声がかからなかった。それはそうですよね、肩を痛めて、4年間で3試合しかリーグ戦に投げていないんですから(笑)。そこを、信越クラブが拾ってくれたんです」
社会人でも、1年目は肩が完治しない。肩の痛みを抑えるよう、テイクバックを小さくフォーム改造すると、2年目はなんとか痛みがなくなった。そしてきっかけは、3年目の昨年4月、長野大会。2014年の都市対抗覇者・西濃運輸を3安打で完封すると、NTT西日本との決勝も完投勝利し、MVPを獲得するのだ。高橋はいう。
「3年目、期待と不安が半々でしたが、落ちる系の球がすべてよかったし、三振も取れた。(辻利行)監督からは"今年はお前で行く"といわれていましたが、あれで信頼されたと思います」
迫力のある投球をテーマに
フォーム改造の副産物でボールの出どころが見にくくなると、最速146キロの直球がなおさら生きる。SSFやチェンジアップなど、落ちる球との緩急も効果を増す。昨年の都市対抗でも、日立製作所の強力打線を相手に内角直球を駆使して粘投。クラブチームが優勝候補を倒す金星に、
「大学時代、チームは選手権で東京ドームで試合をしましたが、僕はメンバー外(笑)。初めての東京ドームは、気持ちよかったですね。企業チームと互角にやれたことで、手応えも感じました」
また昨年の日本選手権でも、社会人屈指の好投手・榎田宏樹(日本新薬)と0対1の投手戦を演じている。このときは、日立戦では0だった三振が、降板した8回途中までで9。本人が課題とする「迫力のある投球」に近づいている。
ストレートの質を上げることをテーマに臨んだ今季、エースとしてチームを2年連続の東京ドームに導いたが、本大会では三菱重工名古屋に5回5失点で屈した。初回二死から四球がらみで3点を献上するなど、立ち上がりが課題といわれるが、さるスカウトによると、
「あの試合は、球審に殺されたね」
つまり、きわどい球がことごとくボールと判定され、仕方なくボール1個分甘くなったところを痛打されたというのだ。
「体をもっとうまく使えば、スピードは上がると思う」
と語る高橋。選手の勤務先がそれぞれ異なるため、チームとしての練習は週末のみだが、平日はもっぱら、一人黙々とトレーニングに励むという。その成果か、着やせして見える体は筋肉のヨロイをまとう。クラブチームとなってから、初めてのプロ入りはあるか……。
●たかはし・ゆうき/投手/1991年1月30日生まれ/181cm88kg/右投左打/東海大高輪台高〜東海大