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新型コロナワクチン接種後の死亡 接種との因果関係は? 日本における副反応報告の課題

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

新型コロナワクチンが承認されてからというもの、副反応に関する論争が繰り広げられています。副反応はもちろんゼロではありませんが、死亡にいたるような副反応が多いというシグナルはあるのでしょうか。

新型コロナワクチン接種後の死亡

新型コロナワクチン接種によって日本の超過死亡が増えている」という話を、SNSなどで目にします。2022年8月の人口動態統計で、単月の死亡者数が多かったことから話題となったようです。果たして、日本全体で問題になるほど接種後死亡は増えているのでしょうか?

副反応検討部会の資料によると(1)、2022年9月4日までの接種後の死亡は計1,855件あり、いずれもが「因果関係が認められない」あるいは「情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できない」とされています。

「個々に調べれば因果関係は分かるはず」と不信感を抱き、接種を躊躇する人も少なくありません。少し誤解があり、個別検討だと逆に因果関係の証明は難しくなります

ワクチンを接種しなくても同様の経過をたどった可能性があるため、「パラレルワールドに行かないと分からない」という結論になってしまいます。

相関関係と因果関係

突然ですが、「アイスクリームの売り上げと水死者数が増加」には、相関関係があります。夏だから当たり前です。しかし、アイスクリームがたくさん食べられたから水死が多いという因果関係はありません()。

図1. 相関関係と因果関係(筆者作成)
図1. 相関関係と因果関係(筆者作成)

ワクチンに限ったロジックではありませんが、「ワクチン接種後に〇〇が起こった」という前後関係・相関関係は、「ワクチン接種が原因で〇〇が起こった」という因果関係と決してイコールではありません。特に対象者が多いと、一定割合で因果関係を疑う事例が発生します。

「木」を見て因果関係の判断が難しい場合、「森」を見て判断するしかありません。つまり、「ワクチンを接種した人」と「ワクチンを接種していない人」で発生した死亡を比較する必要があります。

国内外の死亡増加のシグナルは?

医療現場で普段使用している薬剤には、数百人単位でしか有効性や安全性が検討されていないものも多いですが、新型コロナワクチンは、それらよりはるかに多くの被験者で検討され、かつ厳しい監視の目が入っている状況です。

現在、国内で流通している新型コロナワクチンについて、接種者と非接種者の間で、何か重い病気を発症した人や亡くなった人の割合に差はありません(2-4)。

アメリカにはVSD(ワクチン安全性データリンク)というシステムがあり、想定外の副反応があるかどうか監視されています。VSDの強みは、非接種者のデータがあるということです。接種者と非接種者の両方のデータがあり、「森」の議論ができるのです。

VSDのデータによると、ワクチン接種によって非コロナの死亡(超過死亡も含む)が増えるというシグナルは検出されていません。それどころか、接種者のほうが、非コロナの死亡が少ないことが示されています(5)。

報道にもあったように、日本の人口動態統計による死亡者数が増えた8月の第7波は、救急医療が逼迫し、本来なら入院できていた急性疾患患者さんが入院できなかった等の特段の事情がありました。過去最多の救急搬送困難を記録した波です。

対応する我々のマンパワーも限られていました。もしワクチン接種による超過死亡が多発していたなら、不自然な死亡が桁違いに報告されていたでしょうし、現場で「この謎の死亡は何だ!」と厚労省に伝えていたと思います。少なくとも、そういう混乱はありませんでした。

日本版VSDに期待

「木」ではなく「森」の検討では、日本全体で問題になるほどワクチン接種後の死亡が増えているわけではなさそうです。少なくとも、私たちが普段使っている薬剤と比べて、安全性情報は細かく報告されています。

日本ではアメリカのVSDのような仕組みが確立されていません(図2)。今後、予防接種の政策を円滑に進めるためには、「ワクチン接種後に出た症状がワクチンに起因するかどうか」を調べられるシステムが不可欠です。

図2. ワクチンの副反応を評価できる仕組み(筆者作成)
図2. ワクチンの副反応を評価できる仕組み(筆者作成)

九州大学の福田治久准教授らは、予防接種台帳情報と国民健康保険のレセプト情報から個人情報を排除したデータベースを作り、接種した人と接種していない人の有害事象等の割合を比較できるシステムを構築しています。これが、日本版VSDの礎になると期待しています(6)。

(参考)

(1) 第85回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第14回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00052.html

(2) PMDA審議結果報告書(ファイザー社) (URL: https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/672212000_30300AMX00231_A100_6.pdf)

(3) PMDA審議結果報告書(モデルナ社)(URL:https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210519003/400256000_30300AMX00266_A100_4.pdf

(4) Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/adverse-events.html

(5) Xu S, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021; 70(43): 1520-4.

(6) VENUS study(URL:https://venus.hcam.med.kyushu-u.ac.jp/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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