コロナ時代にキャリアをどう作るか【森本千賀子×倉重公太朗】第3回
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近年は副業について盛んに議論されるようになり、「これからは個の時代」と言われるようになりました。所属する企業の看板だけで仕事をしたりキャリアを築いたりすることが難しくなってくる時代。だからこそ、人脈を大切にし、ビジネスで協力しあえる仲間とつながることは、とても大切です。カリスマ転職エージェントの森本千賀子さんが行っているのは、誰でも真似できるような、ちょっとしたこと。その微差の積み重ねが将来大差となって返ってくるようです。
<ポイント>
・新幹線や飛行機で必ず真ん中の席をとる理由
・スパムメールすらチャンスに変える
・大学生が自粛期間に積極的にすべきこと
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■「行った先で輝く」のが真の勝ち組
森本:今は出向や転籍の辞令が出てしまったり、「地方のM&Aした会社に行って再生しなさい」と転勤を言いわたされたりしたことが、転職理由となることも多々あります。私は「とにかく1年間出向先でがんばってみてください。そこでみんなをやる気にさせて会社を再生させた経験値は、ものすごい価値になるので」と話しています。
倉重:その経験を持って転職したらいいのではないかという話ですね。
森本:そうです。まさにこれが『半沢直樹』だと思いまして。「勝ち組、負け組なんてないんだ」「行った先で輝くのが真の勝ち組なんだ」というのは、私のせりふを取ったなと思いました(笑)。
倉重:たまたまですけれども、法律面と現場面で全く同じことを考えていましたので、うれしく思います。
森本:すごいですね。法制化に向けてがんばってほしいです。転職となると、なかなか飛び出せない方もたくさんいますから。
倉重:1~2年出向でしてみて、その会社が合っていれば転職しても良いわけです。
森本:なおかつ、行って苦労するということが大事です。「若いときの苦労は買ってでもしろ」と言われていますよね。
倉重:裁判官は必ず5年目ぐらいで出向するのです。弁護士事務所や企業などにも行きます。「常識がない」といわれますから、現場を知るという意味もありますね。
森本:学校の先生もそうしたほうがよくないですか。
倉重:確かに。民間企業の大変さを知ってほしいですよね。
森本:うちの子たちの担任の先生と2者面談をすると、「向いていないなら辞めたほうがいい」という話になって、最後は転職相談になったりします。
倉重:確かに官民の出向サービスがあってもいいですよね。
森本:事業会社に行ってもらって、経済の流れをきちんと分かった上で、もう一回教育現場に戻ってきていただきたいです。
倉重:そういう意識を持った公務員の人が増えると、すごく世の中が変わります。
森本:これは倉重先生にぜひお願いしたいです。私はそういう事業をやりますよ。今副業ということで何とかそれを実現させようとしていますけれども、別に副業でなくてもいいわけです。
倉重:特に今はコロナで暇になっている部署もありますよね。そこにいる人たちを忙しい会社に一時的に応援で送り込み、そこで得た経験を活かしてもらうのもいいと思います。
森本:とてもいいと思います。来月からそれを新規事業でやると宣言しておきます。
■人との出会いが我が人生
倉重:せっかく営業のプロフェッショナルに来ていただいているので、オンラインになってから、もがき苦しんでいる営業の方にもアドバイスをお願いいたします。
森本:営業こそ、「AIが進化した先にどこまで必要なのか」と言われないように、価値をきちんと自分の中に培っておいていただきたいと思います。当然コミュニケーションスキルや提案力、企画力も必要ですが、コロナ以前に私が意識してきたことで正解だったと思っているのは、人脈やネットワークです。セルフブランディングがこれほどまでに大事なのかということを実感したコロナ禍です。今はテレアポやEXPOなどのリアルイベントで名刺を獲得するなどの新規のリード獲得ができないので。
倉重:そこなのです。今人脈がある人はそれでいいですけれども、ない人はどうしたらいいのですか。
森本:遅過ぎることはありませんので、気付いたら時からやってほしいのですけれども。全ての出会いがいろいろな意味でのご縁につながっていると思います。「我」「逢う」「人」と書いて「我逢人(がほうじん)」という言葉がありまして、これは禅の言葉です。「人との出会いがわが人生」ということなのです。仕事上の出会いもそうですし、セミナーなり、オンライン飲み会でもそうです。例えばこの間もオンライン飲み会で10人ほどの中で、初対面の経営者が半分いらっしゃいました。実は、飲み会の最中に全員の名前を控えておいて、後からメッセンジャーで探して、「先ほどはありがとうございました」というメッセージを送ったら、皆さんから「このスピード対応がモリチさんなのですね」と驚かれました。
倉重:普通は飲み会が終了したらそこで終わりですよね。
森本:その場で話が盛り上がらなかったら一生会わないまま終わる人もいると思うのですけれども。せっかく一定時間、自分の命を使って過ごしたわけですから。当然ほとんど話していない方もたくさんいましたが、いろいろな偶然の結果として引き寄せられので「せめてごあいさつぐらいはしておこう」と思いました。
倉重:モリチさんは新幹線で真ん中の席を取って、隣の人に“飴玉”を配って仲良くなるんですよね。
森本:B席は絶対に空いていますから(笑)。真ん中の席をとると、結構きょとんとされるのです。「他にもたくさん席が空いているのに、間違っていませんか?」という感じですね。
倉重:それも偶然の出会いですからね。
森本:そうです。私には新幹線のB席でつながったご縁が本当にたくさんあります。それだけで一冊の本を書けるくらいです。先日は新大阪から東京までの移動の間に、隣の方のエピソードを聞いて、ハンカチを取り出して泣いてしまいました。
倉重:そんなにheart to heartのコミュニケーションをとっているのですか。
森本:意外と他人のほうが自分のことを何でもしゃべれてしまったりするわけです。「もう二度と会わないだろう」と思うと、意外と本音ベースの話をできてしまいます。友達にしても、身内にしても、いろいろな感情を持って接してしまう分、気遣いしてしまうのですが、他人には話せてしまいます。その方は、自分の奥さんにも言ったことがないようなことを私にしゃべったと言っていました。「独身なら付き合っていますよね」というような感じです(笑)。
倉重:2時間半で運命の出会いがあるわけですね。
森本:本当にちょっとしたプラスアルファのアクションが取れるかどうかで変わります。飲み会のあとに一言、「先ほどはありがとうございました」というようなメッセージで感動していただけるぐらい、たぶん皆さん、何もしていないということですよね。
倉重:Zoom後の対応は結構大事ですよね。
森本:多分会ったままで、そこで仲良くならない限りは、スルーしてしまっている方が多いと思います。この間面白い話がありました。今メッセージの乗っ取りが増えていますよね。「ごめんなさい、乗っ取られてしまって送られてしまいました」というような感じで、私のところにも何十件とメッセージがくるのです。
倉重:すごく来ますね。
森本:「いいですよ」と言っているのですが、中には5年ぶりや6年ぶりなど、すごく懐かしい方もいます。それをきっかけに、「昔から、飲みに行こうと言いながらなかなか行けなかったので、お茶でもどうですか?」と誘った方がたくさんいるのです。Zoom面談したり、実際にお茶を飲みに行ったりしています。そうしたら皆さん、1,000~2,000件スパムメッセージを送られてしまってみんなに謝罪をしたけれども、そういうふうに会ったのはモリチさんだけだと言われました。
倉重:スパムメッセージさえ利用してしまうというのは、さすがです。その発想はありませんでした。この一歩踏み出す感じをあらゆる局面で続けていくということですよね。
森本:そうです。そのスパムメッセージも、偶然のようで再会のための必然だったのではと感じたり。その積み重ねが自分のブランディングにつながるので。
倉重:「パスワード変えてください」で終わらせないと。
森本:そうなのです。そのアクションが次のビジネスチャンスにもつながったりします。
倉重:いいですね。若い方へのアドバイスにもなりますね。
■大学生は今何をすべきか
倉重:今の大学生はきつくないですか。授業はオンラインでできるとしても、サークルやバイトなどもできません。どうしたらいいですか。
森本:こういうオンラインセミナーは本当に数え切れないぐらいありますので、検索して、片端から出席すればいいのです。理論としても、統計学的にもそうだと思っているのですが、そのセミナーが自分にとって損か得かなんて最初は分かりません。でも、数をこなしていくうちに感覚が磨かれていくと思っています。
倉重:数を打たなければ当たらないですし、数はいずれ質に変化しますよね。
森本:学びの場を取捨選択している場合ではなくて、見つけた時点でご縁があるということですから、スケジュールが合うのなら取りあえず行っておけと話しています。100個のセミナーに行ったら、良いセミナーとダメなセミナーの傾向もわかってくるはずです。
倉重:たくさんセミナーに出たらネタにもなりますし、ダメなセミナーの見分け方についてブログにも書けますね。
森本:私も1カ月でZoom面談を150本入れてみました。150件もやると、背景はどういうものがいいかなど、いろいろ見えてくるわけです。
倉重:150!それはすごい。確かに営業の人は、バーチャル背景やライティングにも気を使わないといけません。
森本:今は動画が後ろで流れているようなバージョンもありますよね。私は最近、TikTokも始めました。YouTuberはみんなやっているから、まだマイナーなものがいいと思いまして。
倉重:私はYouTuberになりました。TikTokで何を配信しているのですか?
森本:10~20代向けに「人生のテーマ」について話しています。1分で自分の言いたいことをばんと言って流すのです。今はもう20本ぐらい出ています。
倉重:何というアカウントでやっているのですか。
森本:森本千賀子でやっています。面白いのですけれども、うちの次男が見つけてしまって、「これはママじゃない? TikTokにママがいるよ」と言って友達に自慢していまいた。
倉重:モリチさんがこんなに新しいことに挑戦しているのですから、若い人は時間があったら何でもしてみないといけないですね。
森本:TikTokやYouTube、Twitter、noteでもいいのでやってみてください。私も韓流ドラマにはまっていましたけれども、そういう感想でもいいのです。韓流ドラマの感想をFacebookに投稿したら、“イイネ”が500件を超えました。久々にコメントを頂く方もいました。またそこからつながっていきます。
倉重:オンラインならではの偶然の出会いもたくさんありますよね。
森本:韓流ドラマのつながり方は半端なくて、ものすごく絆が強くなります。
倉重:確かに。私も西武ライオンズという野球のチームが好きなので、Facebookグループでファンクラブをつくったりして、会ったことがないけれどもお互いにつながっている人がいます。
森本:共通の趣味の力は強いですよね。エリアを超えてつながったりすることもできます。
それこそ日本だけではなくて、制約がなくなった分、海外ともつながりやすくなっています。
(つづく)
対談協力:森本千賀子(もりもと ちかこ)
1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。
1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、主に経営幹部・管理職クラスを求めるさまざまな企業ニーズに応じて人材コーディネートに携わる。約3万名超の転職希望者と接点を持ち、約2000名超の転職に携わる。
約1000名を超える経営者のよき相談役として公私を通じてリレーションを深める。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など受賞歴は30回超。
プライベートでは家族との時間を大事にする「妻」「母」の顔 も持ち、「ビジネスパーソン」としての充実も含め“トライアングルハッピー=パラレルキャリア”を大事にする。
2017年3月には株式会社morich設立、代表取締役として就任。
転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを提案し、エグゼクティブ層の採用支援、外部パートナー企業とのアライアンス推進などのミッションを遂行し、活動領域も広げている。
また、ソーシャルインベストメントパートナーズ(SIP)理事、放課後NPOアフタースクール理事、その他社外取締役や顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。
3rd Placeとして外部ミッションにも積極的に推進するなど、多方面に活躍の場を広げている。
本業(転職エージェント)を軸にオールラウンダーエージェントとしてTV、雑誌、新聞など各メディアを賑わしその傍ら全国の経営者や人事、自治体、教育機関など講演・セミナーで日々登壇している現代のスーパーウーマン。現在、2男の母。