4500年前の古代彫刻、英国で27億円落札に激怒するエジプト
英イングランドの工業都市ノーサンプトン市が財政難の美術館を改装するため、倉庫に4年間眠らせていた4500年前の古代エジプト彫刻「セカムカ(Sekhemka)」をロンドンの競売会社クリスティーズで競売にかけた。
10日に行われた入札の結果、手数料などを含め、古代エジプトの美術品としては2012年に370万ポンドで落札されたエジプト神話の「豊穣と受胎の女神イシス」の砂岩像をはるかに上回る約1576万ポンド(約27億3500万円)の値がついた。
ノーサンプトン市はホクホク顔だが、在英エジプト大使は「市民が鑑賞するというのなら古代エジプトの美術品が英国で展示されていることをまだ理解できる。しかし、要らなくなって売るぐらいなら、エジプトに返還すべきだ」とカンカンだ。
大英博物館にも古代エジプトだけでなく世界中の美術品が所蔵されているが、これまで「英国で展示されることによって世界中からやって来た人々が鑑賞できる」という理由でギリシャなどからの返還要求を突っぱねてきた。
古代美術品の競売はノーサンプトン市だけの問題にとどまらなくなる恐れがあるため、英国市民やエジプト系移民が中心になって反対運動を展開。美術協会が厳しく批判し、イングランド芸術審議会も制裁として市の美術館への補助金停止などを検討している。
競売にかけられたのは、紀元前2400~2300年に石灰岩でつくられたエジプト王室高官の彫刻だ。1849~50年にナイルヴァリーを旅行した科学者で美術品愛好家のノーサンプトン侯爵2世が入手して、後に家族によってノーサンプトン美術館に寄贈された。「セカムカ」は約1世紀にわたって美術館で展示されてきたが、4年前からお蔵入りしていたという。
英国のキャメロン政権は財政再建に取り組んでいるためイングランド芸術審議会の予算も2010年から36%削減された。そこで、ノーサンプトン市では美術館の展示スペースを2倍に拡張、売店や喫茶店、地元の靴作りの展示センターを設けるため、「セカムカ」を競売にかけ資金を捻出することになった。
ノーサンプトン市は「残念ながらセカムカは我が美術館の目玉展示品ではなく、この100年、人気を集めることはなかった」と悪びれもせず、売却代金で美術館を改装するという。
英国では世界金融危機後、地方自治体が美術館を維持するため収蔵する美術品を売却するケースが少なくなく、昨年にはロンドンのクロイドン自治区が中国の陶磁器コレクションを香港で競売にかけ、800万ポンドを捻出した。
今回、ノーサンプトン市が起こした騒動は、資金難に陥った先進国の美術館が所蔵する古代コレクションを売却するリスクを浮き彫りにした。帝国主義時代のドサクサに英国が世界中からかき集めた古代美術品の取り扱いをめぐり、再び論争が起きそうな気配だ。
(おわり)