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藤井聡太竜王、名人挑戦へ茨の道-第81期順位戦A級は3月2日に最終戦-

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
藤井聡太竜王の名人挑戦の行方に注目が集まる。 写真は2019年のニコニコ超会議(写真:森田直樹/アフロ)

 第81期順位戦A級は3月2日(木)に最終一斉対局を迎える。

 挑戦争いは藤井聡太竜王(20)が8回戦で永瀬拓矢王座(30)に敗れたことで、6勝2敗で藤井竜王と広瀬章人八段(36)が並走する展開に。5勝3敗も4名いて大混戦だ。

 残留争いは8回戦で降級者2名がすべて決まった。

 注目の名人挑戦争いを中心に解説していく。

8回戦の結果を受けてー挑戦争いー

記事中の画像作成:筆者 挑戦の可能性があるのは表の6名
記事中の画像作成:筆者 挑戦の可能性があるのは表の6名

 藤井竜王の8回戦は、後手番で永瀬王座と対戦することもあり挑戦争いの大きな山場と見られていた。

 この一戦は角換わりに進み、永瀬王座が仕掛けでリードを奪って粘る藤井竜王を振り切った。

 これで藤井竜王は2敗に後退して、挑戦争いは俄然混沌としてきた。

 2敗対決となった広瀬八段と斎藤慎太郎八段(29)の一戦は、広瀬八段が序盤の工夫で勝ちやすい展開へ持ち込み、危なげなく押し切った。

 これで広瀬八段は2敗を死守し、藤井竜王と同星に持ち込んだ。

 最終戦での挑戦争いの条件を整理しよう。

藤井○広瀬○・・・両者でのプレーオフ

藤井○広瀬●・・・藤井挑戦

藤井●広瀬○・・・広瀬挑戦

藤井●広瀬●・・・3者以上のプレーオフ

 基本的には藤井竜王と広瀬八段の争いとなる。

 もし両者共に負けた場合、現在5勝3敗の棋士で最終戦に勝った棋士もプレーオフに進出する。

藤井竜王、名人挑戦への茨の道

 藤井竜王と広瀬八段が共に敗れた場合のことを考えてみよう。

 仮に現在5勝3敗の棋士が全員勝った(3敗同士の直接対決の棋士を除く)場合、5名によるプレーオフとなる。

 ここで前期成績に基づく順位が関係してくる。順位が下の順に対戦していくので、順位の悪い藤井竜王にとって厳しい条件となる。

 プレーオフの対戦カードは以下の通りで、一番上から順々に対戦していく。

()内は順位

菅井八段(8位)ー藤井竜王(9位) 

上記勝者ー永瀬王座(6位)(永瀬ー斎藤で斎藤勝ちの場合は行われない)

上記勝者ー広瀬八段(5位)

上記勝者ー豊島九段(4位)

上記勝者ー斎藤八段(1位)(永瀬ー斎藤で永瀬勝ちの場合は行われない)

 5名でプレーオフを行うと藤井竜王は4連勝が必要になる。仮にプレーオフ進出人数が減ればそれだけ必要な勝数が減る計算だ。

 また、藤井竜王はダブルタイトル戦の最中で対局日程が非常にタイトだ。

2月25・26日:王将5

27日:島根から移動

3月1日:静岡へ移動

3月2日:A級

3月3日:静岡から移動

3月4日:新潟へ移動

3月5日:棋王3

 非常に厳しい日程で、若い藤井竜王でも負担は相当のものだろう。

 そこでさらにこのプレーオフも戦うとなると、挑戦への道が険しすぎる。

 藤井竜王が挑戦権をつかむためには、最終戦の勝利は必須といえよう。

8回戦の結果を受けてー残留争いー

降級2名が決まった
降級2名が決まった

 8回戦までに佐藤(康)九段(53)の降級が決まっており、8回戦で糸谷八段(34)が敗れて佐藤(天)九段(35)が勝ったことにより、最終戦を待たずに降級する2名が決まった。

 佐藤(天)九段と菅井八段(30)の一戦は、角交換振り飛車から佐藤(天)九段の玉頭攻めが炸裂して菅井八段に粘りを許さず快勝した。

 今期の佐藤(天)九段は苦しい戦いを強いられてきたが、7回戦からの連勝で危機を脱した。

 糸谷八段は稲葉八段(34)との直接対決に敗れた。

 大一番を得意の一手損角換わりに託した糸谷八段。中盤ではペースを握っていたがねじり合いで形勢を損ねてそのまま敗戦となった。

 前期は最後まで挑戦争いに加わっていた糸谷八段だが、波に乗れない今期を象徴するような一戦だった。

将棋界の一番長い日

 順位戦A級の最終戦は、「将棋界の一番長い日」と称されて一年でも非常に注目度の高い一日となる。

 今年は藤井竜王の名人挑戦なるか、という点でいつも以上に注目されるだろう。

 最終戦の対局は静岡県静岡市『浮月楼』で一斉に行われる。

 こちらでの対局も恒例となりつつある。現地では前夜祭や大盤解説会も開催されるが、すでにチケットは完売となっている。

 動画メディアでも中継がある。

 主催社である朝日新聞社毎日新聞社は、YouTubeで配信を行っている。

 またABEMA将棋チャンネルでは、藤井竜王ー稲葉八段戦を解説付きで中継すると発表している。

 Web媒体では、名人戦棋譜速報モバイル中継で観戦可能だ。

 今年は「将棋界の一番長い日」にふさわしい舞台が整った。

 ご注目いただき、各媒体でご観戦いただければ幸いだ。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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