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注目の倉本聰脚本『やすらぎの郷』のターゲットは、高齢者よりも、SNSユーザーか

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
倉本聰『やすらぎの郷 中」 表紙画像
倉本聰『やすらぎの郷 中」 表紙画像

オープニングをカットして、代わりにやすらぎ体操からはじまるという攻めの姿勢

巨匠・倉本聰が描く、老人ホーム〈やすらぎの郷La Strada〉に集った、かつてテレビドラマや映画の世界で活躍した作家や俳優たちの悲喜こもごもを描く、お昼の帯ドラマ『やすらぎの郷』。

若者コンテンツに押されがちなテレビに、シニア(中高齢)向けのドラマを、と志高くはじまった、この作品は、4月に開始早々、石坂浩二、八千草薫、浅丘ルリ子ら、往年(扱いしていいのかわからないほど現役感がするが)の大スターがそろった豪華さと、昨今のドラマ批判ひいては日本批判など、舌鋒鋭く世相を斬りまくる台詞、昭和の芸能界のゴシップネタをモチーフにした、おそれを知らないエピソードの数々など、サービス精神旺盛な内容で、SNSを沸かせている。

Yahoo!ニュース個人でも記事を書かれている方もいるし、ネットのあっちでもこっちでも、『やすらぎの郷』がスゴイ、『やすらぎの郷』がヤバイ、と楽しんでいる記事がアップされている。

それを読んでいると、最初は、高齢者向けの重厚なドラマかと思っていたのに、回を増すにつれ、高齢者よりも、SNSに慣れたネット好きの中年(40代を中心に、30代や50代も)に向けたネタドラマなんじゃないかという気がしてきた。そろそろ全体のほぼ3分の1が終わる第7週、このはじまり方も、明らかにSNSでの反応を意識した攻め方だったのだ。

前番組『徹子の部屋』が終わると、いきなり、あきらかにNHKの『みんなの体操』を意識した“やすらぎ体操”がはじまり(ドラマのなかで既に登場している体操で、『やすらぎの郷』を続けて観てる人には何がはじまったか理解できる)、いつものオープニング曲(中島みゆき『慕情』)が省略されてしまった。

だが、15分の本編がほぼ終了する頃、石坂浩二(役名:菊村栄)とやすらぎの郷入居者仲間・ミッキー・カーチス(役名:マロこと真野六郎)と山本圭(役名:大納言こと岩倉正臣)が海釣りをしながら、しみじみいい話をしているところに、いつもの『慕情』の前奏が流れはじめる。おやおや? ……と思っていると、初めて聞く2番の歌詞で、これまたいつものタイトルバック映像が流れた。

大河ドラマ「真田丸」を意識したのだろうか

さんざん遺産相続に関する生臭いエピソードを描いた後、亡き妻への純粋な想い(もし会えるなら、昔の若く美しかった妻ではなく、亡くなる直前の老いた妻に会いたい)を吐露するおじいちゃんたち。そこに『慕情』(2番)でいっそう感動が高まる。もうこれで最終回でもいい感じなくらいのエンディングだ。

『やすらぎの郷』は目下、序・破・急で言ったら「序」が終了するくらいのところなので、一旦、まとめてみた、ということだろうが、

筆者はこれを、「大河ドラマ『真田丸』作戦」と呼びたい。昨年の大河ドラマ『真田丸』で、いつものオープニングがエンディングで流れて、SNSが大熱狂した回があったのだ。それについては、当時、こんな記事を書いた。

 エキレビ! 驚きの「真田丸」44話。OPをEDにした仕掛け人は誰なのか。NHKに直接聞いてみた

もちろん、OPがないとか、OPがED になるとかいう演出は、『真田丸』が本邦初というわけではない。とはいえ、やはり、NHKの『みんなの体操』のパロディふうなことをやっていたり、昼に15分の帯ドラマを企画したりということから考えれば、NHKをまったく意識していないとはいえないだろう。

ちなみに、NHKの朝ドラに対して、かつて倉本聰が抱いていた感情なのではないかと思われる台詞を挙げて、先日、こんな記事も書いた。

朝ドラといえば、倉本先生はかつて「6羽のかもめ」(フジテレビ 74〜75年)の13話で、登場人物に、朝ドラについて、こんなことを言わせています。

このドラマの最終回で、「やすらぎの郷」でもさんざん言っているテレビ批判をすでにやっていることは、たくさん記事になっていますが、それだけでなく、朝ドラについても具体的に語っていて、必見です。

「(前略)おふくろたちの世代って、どうしてこう変調的にNHK、NHKって言うんです、え?

朝から晩までオールNHKなんだ。NHKならなんでもいいんだ。

朝の小説なんか昼また見てる。朝見たんですよ。それをどうして4時間しかたたないのにまた見なくちゃならないんだ。

誤解しないでくださいよ。

わたしなにもNHKを批判してるわけじゃないんだから。

うちのおふくろを批判しているんだから。

こういうことはね、断っておかないと最近すぐ問題にされちゃんだ」

今なんて、BS で本放送の前にもさらに見ているわけで、倉本先生、忸怩たる思いでしょうか。

出典:エキレビ! 「やすらぎの郷」石坂浩二はコロス、八千草薫はデウス・エクス・マキナである

笑いとペーソスの混ぜ具合が名人芸

なにはともあれ、やはり、『やすらぎの郷』は、テレビとお茶の間(もはや死語だが)との活発なコール&レスポンスを狙っていると感じる。だからこそ、高齢者がじっくりしみじみ味わって観るという視聴スタイルのみならず、SNSを活用する中年の心を射止めてしまうのだろう。

だが、決してそれだけではない。

さきほど、大人のための重厚なドラマかと思ったら……とは書いたものの、そこは倉本聰先生。笑いの中に、ペーソスを忍ばせる。

41話では、今の時代、“死んだら土にも帰れない”という台詞が、チクリと刺さった。

当分、『やすらぎの郷』は見逃せない。

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送BS 朝日 朝7時40分〜)

第7週 41回 5月29日(月)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:池添博

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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