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紅白出場MISAMOへの思い 「TT」振付師リア・キム氏が語る「昔から3人それぞれの表現力があった」

リア・キム氏 1MILLION DANCE STUDIO提供

31日夜に放映される紅白歌合戦。

K-POPのガールズグループTWICEから3人のユニット「ミサモ」が初出場を果たす。いずれも96~97年生まれ(同学年)の日本人メンバー名井南、湊崎紗夏、平井ももの3人による構成だ。

TWICEは2017年に「TT」によって紅白初出場を果たした。以降18年、19年、22年に出場し、今年は日本人メンバーの3人がユニットとしてのデビュー曲「Do not touch」を披露する。

この年末の折、ゆかりの人物に聞いた。

ダンサーで振付師のリア・キム氏。

「デビュー前からTWICEのレッスンをしていた」という彼女は、2017年に紅白歌合戦にTWICEとして初出場を果たした名曲「TT」のダンスをクリエイトしたことで知られる(韓国語版は2016年リリース)。

いわば、TWICEの日本での第一歩を支えた人物の一人だ。「TT」は「好きな人との考えが一致しない。他の何もかもがうらめしい」というミドルティーンの葛藤を歌った楽曲。涙を表すアイコン「TT」を模したサビ部分のダンスは、日本でも大きなブームを巻き起こした。

韓国語版の振り付けを行って以降、長い時が経った今、日本人メンバーたちの成長をどう思うのか。エールと当時の思い出話を聞いた。

10代の頃のミサモ 3人それぞれの印象 モモについて事務所に提案したこと

リア・キム氏は2014年にダンススタジオ「1MILLION」を設立。韓国大手芸能事務所SM、YG、JYPでダンストレーナーとして活動し、TWICEのほか、パク・ジェボム、2NE1、Wonder Girls、MAMAMOO、ソンミなどの振付を手掛けた。現在は米ロサンゼルスを拠点に今年発足した新K-POP事務所「TITAN CONTENT」のChief performance officerとしても活動し、来年に始まるグローバルオーディション開催を待つ。

TWICEについては、2015年のデビュー前からダンストレーナーを務めてきた。

「彼女たちは全体的に本当に礼儀正しく、一生懸命に努力する姿がありました。こちらが『これをやってみよう』と言った時に、何でも一生懸命にチャレンジする様子が伝わってきたんです。だから私に『多くを教えたい』と思わせるような子たちでした」

だからミサモがまだ18歳頃だった時期から様子を知っている。第一印象は「韓国語が上手くて、最初は日本人だとは分かりませんでした」。

リア・キム氏自身はレッスン中に怒りはしないものの、「黙々と進行するタイプ」。交わす言葉はそれほど多いわけではない。ミサモの3人は最初からレッスンの内容を理解していたし「分かりました(アルゲッスムニダ)」などの返事をしてきた。

もちろん、3人それぞれについて感じるところがあった。ミ・サ・モの順番で行こう。まずはミナ。

「以前に長い間バレエをしていたと聞いていました。だから、何かダンスを教えた時、その動作がとても美しいんですよ。何を教えてもとても美しく、優雅に上手に表現できる子だと感じました」

サナについての印象は、もしかしたら今も変わらず、そしてファンの印象とも近いものかもしれない。

「表情や表現力がとても優れていると思いました。歌詞に合わせて顔の表情で感情を表現するのが上手だったんです。特にその表情で、歌詞の意味をよく伝えられる。その部分がとても優れていて、可愛らしかったです」

ダンスの実力で知られるモモについては、感じるところが多くあった。

「本当に優れていると思いました。最初にレッスンをしたとき、彼女は非常に早く学び、とても上手で、力強かった。他のメンバーももちろん上手でしたが、モモは特にダンスの才能が際立っていると感じました。」

そういったなかで、モモについては所属のJYPエンターテインメント側にある申し出を行った。

「私は全てのメンバーを平等に考えていましたが、スタイルの違いには注目していました。メンバーの国籍による区分けではなく、スタイルがより重要なことで。例えばモモのように、ダンスの才能がある子には、所属事務所側に相談して、彼女が他のメンバーよりも難しいレベルのレッスンを受けられるようにしました。特化し、パフォーマンスの主要メンバーとして活動できるようにもっと学ばせてほしいと思ったんです。私はその人の長所をとことん伸ばそうと考えます。提案した後、実際にモモだけを別にトレーニングしたこともあります。難しいポッピングやテクニカルな動作までを含めたレッスンを行い、彼女がさらに上達できるようなクラスを長い期間行いました」

「TT」の振り付けで考えたこと

そうやってレッスンを重ねるうちに、JYP側から「TT」の振り付けの話が来た。最初はガイド役のボーカリストが仮録音した音源で聞いた。「すごく可愛くて、スッキリする曲」という印象だった。同時にある悩みももった。

「メンバー一人ひとりの魅力をよく知っているからこそ、どのパートにどのメンバーを当てはめようか」

JYP側からのリクエストは、「記憶に残る振り付けにしてほしい」だった。自身は元々、「重要なパートからダンスを作っていく」スタイルゆえ、TTもやはりサビの有名なダンスから作った記憶がある。

「できるだけ歌詞の内容を体で表現する、という方針でダンスを作っていきました。今よりも当時のK-POP界は歌詞の意味をすごく大切に捉えて作る傾向がありました。『歌詞の意味ひとつひとつがよく聞こえるように』『まるでアーティストが直接話しかけるように動作を作って欲しい』という事務所側のリクエストも多かったので」

「TT」の楽曲とダンスは韓国で大好評となり、翌2017年には日本語バージョンも発売となった。「日本語はよく分からない」というリア・キム氏だが、印象として「韓国語バージョンよりかわいくなった」と感じた。同時に「日本語の歌詞のイメージとダンスが合っているだろうか」という心配も少しあったのだという。

杞憂だった。「TT」日本語バージョンが収録された日本デビューアルバム『#TWICE』は好評で、その後東京体育館で初の単独公演を開催などの活躍を見せた。同年年末の『NHK紅白歌合戦』への初出場はもちろん、リア・キム氏が創作したサビ部分の“TTポーズ”は『JC・JK流行語大賞2017』に選ばれるほどだった。

「メンバーにとってちょっと怖い存在だったかも」

「TT」前後の楽曲のヒットなどもあり、グループは大きく成長していった。リア・キム氏はある時、韓国でテレビを観ているとTWICEが映っていた。

その時、初めて彼女たちのことを知ることがあった。

「彼女たち、こういうキャラクターだったんだ」

そこには楽しそうにはしゃいでいる姿があった。

「本当に、みんな私の前では静かだったんです。やっぱり『先生』だったから…ちょっと怖がっていたのかもしれませんね。私の前では、いたずらをたくさんするといった様子はあまり見られませんでした。後にデビューしてからテレビで見て、あの子たちにはあれほどに明るい面があるんだと感じたほどです。練習室にいる時は、みんなすごく集中して真剣にやっていたので、実際はどんな性格かはよくわかりませんでしたね」

「TT」制作時の他の関係者を取材するに、3人とも関西出身の女性だが「サナとモモはすごく活発。ミナは少し静か」という声が聞こえてくる。ファンの方々も似たイメージだろうが。リア・キム氏の目に映っていたのはミナのキャラクターのみだった。

「ミナも元々はとても静かだと感じていました。他のメンバーに比べても、とても静かでした。でも自分の仕事には熱心で、黙々と静かに一生懸命やるスタイルだったんです」

いっぽう、サナに関してこんな思い出もある。

「当時、私は本当に集中してストレッチのトレーニングをしたものです。脚を開くようなストレッチがありますよね。そういったものをたくさんやったのですが、ミナとモモはすでにほぼ完璧にこなせる状態でした。いっぽう、サナはその時少し苦労していたように思います。うまくいかなかったので、ずっと別個で練習をたくさんしていたことを思い出します。そういったこともあって、ストレッチをする時は全員が少し緊張する時間だったんですよ」

それでも、全ての時間がストイックだったわけではない。「TT」のレッスンをやっていた当時、皆で笑いながら取り組んだ記憶もある。

「ある時、踊りもせず口パクで、『表情の練習だけを別途やってみて』と言ったことがあります。踊りに集中するあまり、表情づくりがおろそかになることもあったからです。最初はとても恥ずかしがったけど、何度かこのレッスンを重ねるうちに、みんながとても楽しむようになりました。自分から積極的にやろうとするようになりましたね。今でも私の昔の携帯電話の端末を探せば、その時の動画が残っているはずです。一度、メンバーたちとその動画を一緒に見ながら、とても楽しく思い出を振り返ったことがあります。そのレッスンの時は冗談を言い合い、笑いながら、ジェスチャーや表情、キャラクターを出す練習だけをしたんですが、彼女たちはとても楽しんでいました。私にとっても楽しい経験だったと記憶しています」

母国語での活動 楽しんで

そのなかで一緒に笑っていたメンバー、ミナ・サナ・モモが日本で3人のユニットで大舞台に立つ。

そこへの思いと、彼女たちへのエールを。

そうリクエストすると、リア・キム氏からの長い言葉が返ってきた。

「TWICEは今や韓国での地位を築き、長年の活動を通じて他のK-POPアーティストからも深い敬意を受けています。もはや私がかつて見ていた『子どもたち』ではなく、彼女たちは真のアーティストへと成長し、素晴らしい姿を見せてくれています。後輩たちにも良い手本を示していますね。日本市場で3人で新たな挑戦に取り組むのは、本当に素晴らしいことだと思います。TWICEとしてはあまり経験していなかった日本でのユニット活動は、多少のプレッシャーを伴うかもしれませんが、彼女たちには楽しい経験になるでしょう。母国語での活動ですからね。私は、彼女たちが日本で愛され、K-POPが日本市場での成功を収めていることを大変嬉しく思います。外国で苦労して築いた地位が、日本で再び愛されるというのは、彼女たちにとっても幸せなことでしょう。日本での活動が素晴らしく、多くの愛されることを心から願っています。私は彼女たちを全力で応援しています」

ミナの「優雅さ」、サナの「表情」、モモの「ダンス」。31日のステージではどんな姿を見せるだろうか。

(了)

<新K-POP事務所「TITAN(タイタン)」が2024年に実施するグローバルオーディション>

リア・キム氏が元SMエンターテインメントの共同代表、ハン・セミン氏、元アーティスト企画総括者カン・ジョンア氏、ファッション誌「DAZED KOREA」元編集長のイ・ギョム氏らとともにK-POP事務所「TITAN CONTENT」を設立した。

同業界初の「米国に本社を置くK-POP事務所」として、2024年にグローバルオーディションを開催。日本では2月~3月に開催予定。

TITAN CONTENT
TITAN CONTENT

この他、K-POPの他社のアーティストも集う「Web3・メタバース・AIなどの新技術を活用したプラットフォーム事業」も並行して進める。これが実現すれば、日本のファンも新たな形で推しに会える形が実現しそうだ。

リア・キム氏はChief performance officerとして同社のダンス部門を統括。今回のインタビューを通じ、抱負をこう話している。

「私はSMとも仕事をしてきたのですが、当時からハン・セミン氏らはとても素敵な人たちだなと思っていました。今回一緒に仕事をすることになりましたね。ダンスという面で見ても、Web3・メタバース・AIはすごく相性がいいと思います。新しい形で日本のファンの皆様にも楽しみをご提供できると思います」

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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