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ゼレンスキー大統領「戦争の終わらせ方を与えられるなど出来ない」「国民投票が必要」2つのインタビュー

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

3月、キエフ郊外から脱出しようとして負傷した人々をキエフの病院で見舞う。提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ

3月21日、ゼレンスキー大統領は、欧州放送連合の共同インタビューに答えた。

リモートではなく、現地で対面で行われたインタビューである。50カ国以上が加盟している欧州放送連合の中の、数名(3人に見えた)のジャーナリストが、その場にいた。

フランス公共放送で、毎日危険が迫る地帯からレポートしている女性ジャーナリスト・ジャンヌさんの司会で、インタビューは始まった。

「彼らの好きにはさせられない」

現在、マリウポリでの包囲戦が激しさを増し、ロシアの「最後通牒」を、ウクライナは改めて拒否している。

「私たちに最後通牒を押し付けて、戦争を終わらせるためになすべきポイントを与えてもらう。これは間違っています。そのようなことをしても、私たちはどこにも行き着かないでしょう」

「この問題は、すべてのウクライナ人に関わることです。あなた方は最後通牒でそれを行うことはできません。ウクライナは自滅できません」

「私たちは住民を、我々国民を失いました。どうやってそれを受け入れることができるでしょうか。もし私たちが全滅したら、最後通告は自動的に実行されることになります。彼らは、ハリコフ、マリウポリ、キエフ(キーウ)を渡せというのです。しかし、ハリコフもマリウポリも渡せません、キーウの人々も大統領でさえもです。彼らの好きにはさせません」

「彼らは何を望んでいるのか? 全員を滅ぼすことでしょうか」

「だから、この最後通牒を受け入れるのは、私たちがもはや存在しなくなった時だけだと言ったのです」(最後の一人まで戦うという意味ではない、という意味)

「他のどこの市民とも同じように、私は平和を望んでいます。私は、将来平和を取り戻すことができるようになると、希望を持ち続けています」

そして、ウクライナは勝つ用意はあっても「いかなる代償を払っても」勝つことはできないと断言した。

「私たちは自分の土地を守るのだとしても、人間の顔を保っていることを人々に知ってもらうことがとても重要なのです」

「だからこそ、私たちの土地を侵略しに来た人々との違いを、我々は示すのです」

「民主主義への時代の変化を目の当たりにしている」

「将来、世界は変わってゆく、すでに変わっていると私は思っています」

「政治家たちは、すでに自分の国民を恐れています。市民が行動を起こして、決定者に対して影響を与えることができることを、私たちは見ているのです」

「将来には、世論がどんな指導者よりも強くなるでしょう。今日、私たちは、国民が権力を持つという、真の民主主義へのパラダイム・シフト(時代の変遷)を目の当たりにしているのです」

NATO加盟国は「ロシアを恐れているので、私たちを受け入れません。他の安全保障(複数)が存在します。私たちの味方になりたいと思い、私たちを守る準備ができているであろう個々のNATO加盟国が、私たちの味方になりうるでしょう」

「(それは)誰にとっても良い妥協点でしょう」、「このNATOの問題で、私たちをどうしたらいいのかわからない西側にとっても、私たちにとってもです。私たちには安全保障が必要だからです。そして、NATOがさらに東に進出していくことを望まないロシアにとってもです」

その妥協点を見つけることが「この戦争を止めるための出発点」になると、インタビューを締めくくった。

「国民投票を行う」

このインタビューが放映されて、『ル・モンド』はそこそこ長い時間、フランス公共放送は割と短い間、それぞれのネットのライブ(随時更新)で「ゼレンスキー大統領はクリミアとドンバスの妥協について、プーチン大統領と議論する用意がある」と、トップで報じていた。

まだ同じ日に、ゼレンスキー大統領は、ウクライナの地域公共メディアである「Suspline」とのインタビューに答えた。

その中で、大統領は「どんな形であれ」、プーチン大統領に「会う」必要があると主張した。

「会談なしに、彼ら(ロシア側)が戦争を止めるために何をするつもりがあるのか、完全に理解することは不可能です」

さらに「これらすべての変更について話すとき、そしてそれらは歴史的なものになりえます」、「私たちは国民投票に臨むでしょう」と語り、ロシアとの「妥協」の内容は国民投票を伴うと断言した。

フランス公共放送が伝えた。

※21世紀の戦時の国のリーダーの在り方とは

一点についてだけ、最後に筆者のコメントを付け加える。

国民投票についてである。

かつて、フランスの政治の構造史の授業のとき、「フランスには国民投票に対する懐疑心が存在する」と教授が述べた。例として、ヒトラーが占領を正当化するために、国民投票を使ったことを挙げた。

日本には国民投票の制度がなく、ぜひ実現させたいと、民主主義の最高峰のように憧れている世論の一部を知っていたし、私も同意だったので、「なんて進んでいるのだろう。民主主義の蓄積が違う」と驚いたものだ。

今回のゼレンスキー大統領の発言は、「なるほど」とうなった。

彼はあくまで民主主義を貫くというつもりで言っているのだろう。実際には、国内が戦禍にあり、多くのウクライナ人が亡命している現状では、正確な投票は不可能なのは目に見えている。

それでも、無理やりでも国民投票を本当に行えば、住民投票でクリミアを併合したロシアは、反論が難しくなる。「そんな投票は無効だ」と言えば「クリミアだって同じではないか」と反論できるのだ。政治的な駆け引きとして、有効な手になりうる。

ただ・・・どうなのだろう。

第二次世界大戦で、ナチス・ドイツとの休戦を実現した、フランスのペタン元帥という人物がいる。彼は第一次大戦の英雄だったからこそ、負け続きで、完敗寸前だったフランスを、彼に一任する形になったのである。当時80代半ばであった。

フランスは、パリを含む北部のドイツ占領地域と、南部の「フランス国」の二つに分割させられた。「フランス国」は、ペタン元帥を独裁者として置き、独立国の体裁だが、実際はナチス・ドイツの傀儡国だった。

そしてペタン元帥は、戦後にフランスの汚名と非難を一身に引き受けている。まるで、フランスの一般市民は悪くなく、市民はレジスタンスで抵抗し、彼一人が悪かったかのように。

特にユダヤ人を、フランスから死の収容所に移送していた事実のために、彼は非難されまくっている。

この歴史の「発掘」と非難は、第二次大戦時代を大人として生きた人たちが、かなりの数亡くなった時代以降に起きている。

非難は当然なのだが、それでもペタン元帥以外の人ならもっと上手にやれて、ナチスの圧力をかわせたのだろうか。その答えは永遠に出ない。

ウクライナ人、一人ひとりに選ばせる。大変民主的である。民主主義が未熟なウクライナには、そういう過程は必要なのかもしれない。

でも、家を追われた人々や戦っている人たちに、妥協か徹底抗戦か、祖国の運命を選ばせる? 酷なのではないだろうか。国民が永遠に分断されてしまう危険をはらんではいないだろうか。どんな条件下であれ、ひとたび国民投票が成されてしまえば、結果はそれなりの強い影響力を歴史に与えてしまうのに。クリミア半島と同じように。

この考えは、21世紀の、ネットが普及したグローバル化の時代の民主主義にそぐわないだろうか。

「どのような決断であっても、自分が一人で下す。汚名も非難も、国民ではなくて、自分一人が一身に引き受ける」。それが良いのか、悪いのか。戦時のーー21世紀の戦時の国のリーダーの、正しい在り方とは何なのだろうか。答えは、まだ出ない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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