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CL、ELで全滅。イングランドサッカー退潮の理由

杉山茂樹スポーツライター

ベスト8が出そろい、準々決勝が始まろうとしているチャンピオンズリーグ(CL)。その中にイングランド勢の姿はひとつもない。

同じことは2シーズン前(2012~13シーズン)にも起きている。だが、その時は95~96シーズン以来、17年ぶりの話だった。つまり、17年間起きなかった出来事が、ここ3年の間に2度も発生したわけだ。

だがイングランドの問題はそれだけに終わらない。ユーロリーグ(EL)でも、イングランド勢は今季、1チームもベスト8に進むことができなかったのだ。

CL(チェルシー、マンチェスター・シティ、アーセナル、リバプール)、EL(トットナム、エバートン、ハル・シティ)に出場した7チーム全てがベスト16で敗退。これは、イングランドサッカー界としては、94~95シーズン以来、20年ぶりに味わう不名誉な記録になる。

CL、ELそれぞれの準々決勝に勝ち残った合計チーム16の内訳を、UEFAリーグランキングの順に示すと次のようになる。

(1位)スペイン4

(2位)イングランド0

(3位)ドイツ2

(4位)イタリア3

(5位)ポルトガル1

(6位)フランス2

(7位)ロシア1

(8位)ウクライナ2

(9位)オランダ0

(10位)ベルギー1

トップ10の中で、イングランドと同じ境遇にあるのはオランダ(9位)のみ。2位イングランドにとってこれは、屈辱的な出来事以外の何ものでもない。

数年前までCLは、イングランド勢を中心に回っていた。とりわけ2000年代後半の勢いは凄まじく、その優勝争いは、バルセロナとイングランドの4強(リバプール、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー)にもっぱら絞られていた。

UEFAリーグランキングでも、08~09シーズンから11~12シーズンまでの4年間、イングランドは首位に立ち、欧州サッカーの盟主の座に就いていた。

だが、13年にスペインにその座を奪い返されて現在は2位。今季の大不振で、その2位の座を近々、ドイツに譲ることが決定的な情勢になっている。4位イタリアとは大きな差がついているので、それ以上、順位を落とすことはさすがになさそうだが、かつての勢いはどこへやら、だ。

バルサ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード(スペイン)、バイエルン(ドイツ)、PSG、モナコ(フランス)、ユベントス(イタリア)、ポルト(ポルトガル)。以上8チームが、CLベスト8の顔ぶれだが、ブックメーカーの評価に基づけば、8チームは、下記のように大きく3つに分類される。

第1グループ(優勝候補)=バイエルン、バルサ、R・マドリード

第2グループ=(ダークホース)アトレティコ、ユベントス、PSG

第3グループ=ポルト、モナコ

かつてのイングランドなら、第1グループに複数のチームを送り込めていた。そのレベルが現在は一歩も二歩も、後退している感じだ。チェルシー、マンCが、決勝トーナメント1回戦で勝利を収めたとしてもせいぜい第2グループ止まり。アーセナルは第3グループだろう。

現在の欧州3強に比肩するクラブがない。真のスーパーチームがない。トップのレベルが落ちていることは確かだ。チェルシー、マンCと、バイエルン、バルサ、レアル・マドリードとの間には、選手の名前でも、サッカーの中身そのものでも、明確な差が存在する。今季、たまたまダメだったという感じではないのだ。

チェルシーとマンCは、言ってみれば金満クラブだ。3強以上に豪華な選手を集めることができても不思議はないはずだが、現実にはそうはいっていない。Aクラスの選手はいるが、特Aクラスの選手はいない。バロンドール級がいない。

スーパースターが何より行きたがっているのは、バルサ、R・マドリード、そしてバイエルン。プレミア屈指のストライカーだったスアレスがバルサに引き抜かれていく姿に、明確な上下関係を見て取ることができる。

その差が、サッカーの中身で補われているわけでもない。アトレティコのようなチームもいまのイングランドには存在しない。戦い方に定評のあったモウリーニョのサッカーも、シメオネを前にすると霞む。中途半端。かつての神通力が薄れているように見える。

決勝トーナメント1回戦。チェルシーはPSGと対戦し敗れた。バルサ、R・マドリー、バイエルンならまだしも、金満クラブという同系列の後輩に敗れる姿は、自らのポジションを新参者に奪われてしまったようで、少々痛々しかった。

もうひとつの金満クラブ、マンCはバルサに完敗。スコア的にはトータル1−3とよく健闘したが、バルサに遊ばれた印象の方が強い。試合後の印象は「マンC頑張ったよね」というより「やっぱりバルサは凄いよね」だった。

スペイン、ドイツにあってイングランドにないものも大きく影響している。それは自国選手の質だ。イングランド人選手のレベルはいま、スペイン人選手、ドイツ人選手に比べて、1ランクも、2ランクも劣る。成績を出すためには、いっそう外国人選手に頼らなければならない状況にある。だが、真のスーパースターはイングランドを最終ゴールとして見ていない。このギャップはこれからますます開いていく可能性がある。

マンUの不振も大きい。クラブの“格”で欧州3強に対抗できるのはこのチームだけ。マンUが欧州のトップに浮上してこない限り、イングランドの再浮上は見込めないのではないか。勢いがつかないのではないか。僕はそう見ている。

(集英社・Web Sportiva 3月31日 掲載済原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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