朝ドラ「おちょやん」で注目度が急上昇。井上拓哉を衝き動かす名優の言葉
NHK連続テレビ小説「おちょやん」で主要キャストの一人・富川福助を演じている井上拓哉さん(25)。関西を拠点に活動するワタナベエンターテインメントの俳優集団「劇団Patch」のメンバーで、これまで朝ドラ「あさが来た」「まんぷく」などにも出演してきましたが、今回の出演でさらに注目度が高まっています。急速にスターへの階段を駆け上がっていますが、その歩みを支えるのは名優の言葉だと言います。
とにかく悔しい
これまでは主人公の友達の友達とか、物語の中心から“距離”のある役が多かったんですけど、今回は主人公の幼馴染というか、同い年の役柄。
去年の12月頃、決定の連絡をもらった時にはマネージャーさんに「ホンマに僕なんですか?」と聞き直しました(笑)。
今までにない大役ということで、家族もすごく喜んでくれまして。あまり連絡がなかった友だちからも連絡がありましたし。改めて、朝ドラの影響力を再認識しました。
そもそも、この仕事をし始めたきっかけというのは、友だちだったんです。小学校からの友だちで、小さい頃から芸能活動をしていた子だったんですけど、家もすぐ近くで。本当に仲良くて、ずっと一緒に遊んでたんです。
高校生になった頃、2人でUSJに遊びに行ったんです。当然、USJにはたくさんお客さんが来てたんですけど、その子がファンの方々からこれでもかと声をかけられていたんです。「〇〇さんですよね!?」と。
それを横で見ていた時に、なんというか…、すごく悔しかったんです。同い年やけど、負けてる気がして。とにかく悔しい。もともと、漠然と芸能界への憧れはあったんですけど、その体験があって、自分もそちらに進んでみようと思ったんです。
ただ、自分はアイドルには向いてないと思ってましたし、お芝居ができたらなと思っていたら、ちょうど「劇団Patch」の応募があった。しかも、関西が拠点ということだし「これだ!」と思ってオーディションを受けたんです。
「負けてたまるか!」
幸い、合格できたんですけど、入ってみると、これが思っていたよりも全然楽しくなくて。いや、別に「劇団Patch」がアカンということではなく(笑)、僕の意識の問題というか、この世界に入ったらすぐに売れるもんだと思い込んでいたんです。
でも、当然そんな簡単ものではないですし、最初の舞台「OLIVER BOYS」をやった時に、あまりにも大変すぎて全く楽しめなかったんです。想像していたキラキラしていた世界とは違う。そんな思いがあって、最初の1年くらいは全然楽しくなかったんです。
ただ、そこで辞めなかったのは、ずっとスポーツをやってきたからだと思います。バスケ、野球、テニス、ソフトボール。そういうものをずっと続けてきて、そこで負けず嫌いというか「負けてたまるか!」という心が根付いていたんだろうなと。
そこから、2回目の舞台「巌窟少年」の時に、やっとお芝居と向き合えた気がしました。最初は舞台の上手(かみて)・下手(しもて)も分からないし、セリフを覚えることだけで精いっぱいだったのが、2回目になると、自分の中でいろいろ試すこともできた。そこで面白みを感じたんです。
あと、ずっと「劇団Patch」で演出を担当してくださっている末満健一さんという方がいらっしゃって、すごく厳しい方なんです。だけど、きちんと真正面から叱ってくださるし、ダメ出しに愛がある。
大人になって叱られることがなくなってくる中、しっかりと叱ってくれる、ぶつかってきてくださる。そこに負けてたまるかとも思いましたし、そうやってくださること自体が、とてもありがたいことですし。
今でも誉めてもらえてるとは全く思えないんですけど、いつの日か末満さんに「井上も頑張ってるな」と思ってもらえるように、何とか頑張ってるところです。
堤真一の「まだまだ」
共演した方からも大きな刺激をいただくことが多くて。僕、堤真一さんに憧れていて、去年、映画「決算!忠臣蔵」で共演させていただいたんです。
松竹の撮影所で撮っていて、クランクアップの時に堤さんがみんなを前におっしゃったんです。
「若い頃から付き人として、この松竹の撮影所でやってきて、今、自分が主人公をやらせてもらっている。こんなにありがたいことはありません。ただ、自分はまだまだです。これからも何とか頑張っていきます」
そう言って、涙を流してらっしゃったんです。堤さんが重ねてこられたものというのも強く感じましたし、堤さんが「まだまだ」なら、僕はどれだけ「まだまだ」なんだと。その言葉というのは、今も深く心に突き刺さっています。
今は「おちょやん」と全力で向き合ってますし、これからも常にお芝居に触れておきたい。毎日、疲れ果てるまでやっていたい。そんな思いです。
芝居以外に力を入れていることですか?僕、焼肉に行くのが大好きでして。しかも、一人で行くのが好きなんです。というのも、こだわりがありまして…。
まず、七輪じゃないとイヤなんですよ。鉄板を使ってガスで焼いた方が熱の入り方が均等になって美味しいとも聞くんですけど、僕はホルモンが好きでして。七輪の炭火で、ホルモンをじっくり焼く。それがいいんですよ(笑)。
例えば、テッチャンとかは皮目というか、そちらから焼かないといけないんです。まずは七輪の真ん中にテッチャンを置いて強火で皮目から焼いて、火が通ったなと思ったら弱火にあたる七輪の外側にズラすんです。そこでじっくりと熱を通してから、最後に強火で脂の部分を十数秒ほど焼いて食べる。
こういうこだわりを完遂しようと思うと、一人で行かないとできないんです(笑)。友だちと行ってたら「お前、ウザいねん」と言われかねませんし…。
「おちょやん」ではトランペットを吹く役でもあるんですけど、その練習もやるとなったらすごくこだわってやってますし、そういう性分なんでしょうね。
良い意味でそこを生かし、そして、焼肉ではもめないようにしながら(笑)、これからも頑張っていきたいと思います。
(撮影・中西正男)
■井上拓哉(いのうえ・たくや)
1995年11月7日生まれ。兵庫県出身。ワタナベエンターテインメント所属。ワタナベエンターテインメントの俳優集団「劇団Patch」のメンバー。身長172センチ。NHK連続テレビ小説には「あさが来た」から「まんぷく」まで、4年連続で出演している。11月30日からスタートした「おちょやん」に出演中。杉咲花演じるヒロインの奉公先のライバル茶屋「福富」のひとり息子・富川福助役を演じている。