授賞式でスタッフの新たな部門を提案した是枝監督。その思いから考える、日本アカデミー賞の現状と今後
今年も日本アカデミー賞の授賞式が行われたが、当事者の日本でも、やはりアメリカのアカデミー賞ほど大きな話題にはならない……という例年の印象はそのまま。映画の興行では日本映画の勢力がキープされているのに、ことアカデミー賞となると、特に一般的に意識されない。今年は『万引き家族』『カメラを止めるな!』といった話題作も最優秀を争ったが、『グリーンブック』『ROMA/ローマ』と、映画ファンはともかく、一般にはあまりなじみのないタイトルがポイントになった米アカデミー賞に比べ、その賞の行方に興味のある人は相変わらず少ない。いつもどおり、ではあるのだが。
これも例年のことだが、米アカデミー賞は日本でもさまざまな媒体で予想記事が出るが、日本アカデミー賞の予想記事を目にすることは、ほとんどない。もちろん米アカデミー賞は世界的イベントで前哨戦のゴールデン・グローブ賞などの流れで決まる面白さがある。しかし日本アカデミー賞も、ブルーリボン賞やキネマ旬報ベストテンなど、多くの前哨戦があるのに、とくにその流れがどうこう、ということにはならない。もう少し、賞に向けた盛り上がりがあってもいいのに、と思う。
レディー・ガガと録音スタッフが並ぶ光景に感動
そんな日本アカデミー賞の授賞式で、是枝裕和監督がスピーチで軽い忠言を呈した。
「衣装という部門が、この(日本)アカデミー賞にはなくて、映る部門としてとても大切だと思っている。ぜひ、衣装デザイン部門を新しく作ってほしい」。
それに対して司会者の西田敏行も「メイクアップの部門なんかも」と付け加えた。
是枝監督がこのようなコメントを出したのは、おそらく直前の米アカデミー賞授賞式に刺激を受けたからだと察する。授賞式の前に筆者が是枝監督にインタビューした際に、候補者昼食会(オスカー・ノミニーズ・ランチョン)を、こんな風に語っていた。
なかなか日本では、こういう機会がない。スタッフへの敬意を、もう少し、日本アカデミー賞でも……というのが是枝監督の思いなのだろう。
今年はスタッフ8部門が、わずか6作で占められた
とはいえ、簡単に部門を増やすことも難しいはずだ。というのも、今年の優秀賞(米アカデミー賞でいえばノミネート)を眺めると、作品や俳優以外の、スタッフの8部門(監督・脚本・音楽・撮影・照明・美術・録音・編集)各5人、計40人の枠が、なんと「6作品」だけで占められているのだ。
優秀作品賞の3作品『万引き家族』『孤狼の血』『北の桜守』がスタッフ8部門全部に入っている。『カメラを止めるな!』と『空飛ぶタイヤ』が6部門で、優秀作品賞以外では『散り椿』が4部門で入っているのみである。
演技賞は、さすがにもう少し幅広い作品から集まっているが、スタッフ部門が作品賞とほぼ同様となっているとなると、衣装やメイクアップなど部門を増やしても、同じような作品の流れになってしまうだろう。もちろん、スタッフの貢献により、総合的に作品の質が上がるわけで、米アカデミー賞も今年は編集賞ノミネート5作が、すべて作品賞候補に入っている。しかし、撮影賞などには、その部門が際立っていた無名の作品が入っていたりもする。
スタッフ部門が6作品のみという今年の例は極端だが、過去をさかのぼると、2016年の第39回(最優秀作品賞は『海街diary』)、2013年の第36回(最優秀作品賞は『桐島、部活やめるってよ』)はともに7作品のみと、少ない年はけっこう目立つ。その他の年も、音楽や美術などで1〜2部門のみの作品が入っているが、だいたいはメインの7〜8作で占められている。たしかに全体の作品数が少ないという理由もあるかもしれない。日本アカデミー賞の選考対象作は2週間限定公開や、レイトショーのみの公開作品は除外されるからだ。
しかし、多少バラエティ感がある演技賞も、作品賞絡みや、対象作品および俳優の一般認知度が重要と感じてしまうのが、日本アカデミー賞。今年の場合も、たとえばキネマ旬報ベストテンや毎日映画コンクールで主演男優賞の『きみの鳥はうたえる』などの柄本佑、キネマ旬報助演女優賞の『愛しのアイリーン』の木野花、ブルーリボン賞主演女優賞の『止められるか、俺たちを』の門脇麦、毎日映画コンクールで男優助演賞の『斬、』の塚本晋也と、各賞で最高賞の面々が、日本アカデミー賞では優秀賞5枠にすら入っていない。個人的には『教誨師』の大杉漣も主演男優賞にふさわしいとも感じたし、『菊とギロチン』や『鈴木家の嘘』、カンヌ国際映画祭のコンペに入った『寝ても覚めても』など高い評価を受けた作品も監督・脚本賞あたりに入っていてほしかった。
メジャー感よりも映画への愛を
やはりある程度、「メジャー感」がないと日本アカデミー賞には入りづらいというのは以前から言われており、かつてのビートたけし(北野武)の「日本アカデミー賞は大手3〜4社の持ち回り」という批判に、何となく頷く人も多かった。
6年前の『桐島、部活やめるってよ』(配給は「大手」ではないショウゲート)がその風穴を開け、今年も『カメラを止めるな!』が8部門で優秀賞に入るなど、インディペンデントへの配慮も感じさせるようになったが、地上波での授賞式放映を観ると、有名な俳優たちと、その他のスタッフの扱いの落差は衝撃的なほどで(もちろん、一般の視聴者向けということなのだが)、スタッフ部門はかなりカットされ、是枝裕和監督の監督賞スピーチもあっさりと短縮。その前後の主演男・女優賞には思い切り長い時間が割かれていたりする。
米アカデミー賞は今年、視聴率を考慮して4部門の発表をCM中に行うと決めたが、激しい批判にさらされて、あっさりと撤回。世界中に放映される米アカデミー賞と比べても仕方がないとは思いつつ、レディー・ガガと録音担当が当然のように並列する場所を体験した是枝監督にとって「もっと作り手にスポットライトを」とは、必然の願いなのだろう。たかが映画のイベントにとやかく言う必要もないのかもしれないが……。