日本でも話題の代替肉、本場米国で人気が突然失速 指摘される意外な理由とは
植物を加工して作る「代替肉」の人気が、本場米国で急落している。代替肉は本物の肉より健康や地球環境に優しいとの理由から注目を浴び、ここ数年、市場が急拡大してきた。ところが昨年来、成長がピタリと止まり、関連企業の株価も下がり続けている。代替肉は日本でもSDGs(国連の持続可能な開発目標)などと絡めて話題となっているだけに、米市場の異変は気になるところだ。
最も成功したIPOだったが
「ビヨンド・ミートの株はついに買いか?」――オンライン金融メディア「モトリー・フール」は今月14日、こんな見出しの記事を配信した。
ビヨンド・ミートは、エンドウ豆をベースとした代替肉を開発した注目のベンチャー。2019年5月の株式公開(IPO)時には、取引初日の終値が公募価格25ドルの約2.6倍となる65.75ドルまで上昇し、2008年のリーマン・ショック以降、最も成功したIPOとして大きなニュースになった。
6月後半に一時200ドルを突破した株価は、その反動からしばらく軟調に推移。しかし、2020年春から新型コロナウイルスが猛威を振るい始めると、再び上昇に転じた。新型コロナの感染拡大の影響で畜産物の流通が滞ったことや、「健康的な食生活をすれば自己免疫力が上がり、コロナに感染しても重症化が防げる」との情報が広がり、健康的なイメージのある代替肉の需要が高まったためだ。
ライバルも苦境
だが、買いは長続きしなかった。2020年末には再び軟調な地合いに転じ、翌2021年夏場頃からはほぼ一本調子に下がり始めた。現在はピーク時の10分の1、4年前の公募価格をも下回る20ドルを切る水準で売買されている。
さすがにこの水準では、「ついに買いか」と多くの投資家が考えても不思議ではない。しかし、モトリー・フールの記事の結論は、強い売り推奨を意味する「strong sell」だった。
ビヨンド・ミートのライバル、インポッシブル・フーズも市場の突然の逆風に苦しんでいる模様だ。同社は株式非公開のため株価や経営の詳しい実態は不明だが、昨年10月、全従業員の約6%を削減すると発表した。経済ニュース専門のブルームバーグ通信は1月、同社が追加の大規模な人員削減を検討していると伝えた。
ビヨンド・ミートも昨年10月、従業員の約20%を削減する計画を明らかにしており、代替肉市場をけん引してきた大手2社がいずれも苦しい状況に追い込まれている現状が鮮明になっている。
環境、健康を売りに急成長
米国で代替肉市場の急成長を後押ししてきた2つのキーワードがある。1つは「環境」。もう1つは「健康」だ。
環境面では気候変動問題の影響が大きい。ハリケーンや山火事の被害が年々、大規模になるのに伴い、米国でも地球温暖化に対する市民の関心が急速に高まっている。そうした中、牛のげっぷに含まれるメタンガスが地球温暖化の一因になっていることから、牛肉の消費量を減らすべきだという論調が目立ち始めた。
健康面では、世界保健機関(WHO)の専門機関「国際がん研究機関(IARC)」が2015年、牛や豚などの「赤身肉」を「グループ2A」(人に対しておそらく発がん性がある)に分類したことで、一部の米国人の間に、牛肉を食べることへの抵抗感が強まった。
では、環境にも健康にもよいはずの代替肉はなぜ突然、人気を失ったのか。米メディアや調査会社の分析をまとめると、いくつかの興味深い要因が見えてくる。
高い、まずい
まず、値段だ。モトリー・フールの記事によると、ビヨンド・ミートの代替牛肉の値段は本物の牛肉の値段に比べて約2倍高い。代替豚肉や代替鶏肉は3~4倍高。それでも初めの頃はあまり気にせず購入する消費者が多かった。だが、最近の物価高で値段を気にする消費者が増え、お金に余裕のない消費者が安い本物の肉にシフトしている。
実際、コンサルティング大手デロイトの調査によると、「高くても代替肉を買う」と答えた消費者の割合は、2021年は55%だったが2022年は46%と9ポイントも減った。
次に、味だ。最近開発された代替肉は、様々な原料や最新の技術を利用し、見た目も風味も食感も本物の肉に近づいている。だが、それでも本物の肉には及ばないとの評価や感想が目立つ。
ただ、これらの要因は企業のコスト削減努力や新たな素材の開発、試行錯誤などで克服できる可能性があるとの指摘が多い。問題は次の2つの要因だ。
宣伝文句に疑念
1つは、環境や健康によいという代替肉の宣伝文句に疑念を抱く消費者が増えていることだ。デロイトの調査によると、代替肉は本物の肉より健康によいと考える消費者の割合は2021年の68%から2022年の60%に低下。環境によりよいと考える消費者も70%から65%に減った。
ビヨンド・ミートのホームページによると、同社のハンバーガー用パテの原材料には、水、エンドウ豆タンパク、圧搾キャノーラ油、精製ココナッツオイル、米タンパク、天然香料、ドライイースト、ココアバター、メチルセルロース、ポテトスターチ、塩、塩化カリウム、ビートジュース色素、リンゴ抽出物、ザクロ濃縮物、ヒマワリレシチン、酢、レモン果汁濃縮物が使われ、ビタミンやミネラルとして硫酸亜鉛、ナイアシンアミド、ピリドキシン塩酸塩、シアノコバラミン、パントテン酸カルシウムが添加されている。
一方、インポッシブル・フーズの製品は、様々な原材料に加え、拒否感を抱く消費者も多い遺伝子組み換え技術が使われている。
代替肉はウルトラプロセスフード
米主要紙ワシントン・ポストは、代替肉は結局、多くの原材料を混ぜて作った「ウルトラプロセスフード(超加工食品)」だと指摘し、「多くの消費者は、ウルトラプロセスフードに対し、肥満や不健康というネガティブなイメージを抱いている」と、人気失速の原因を指摘した。実際、ウルトラプロセスフードと健康の関連を指摘する研究論文は少なくない。
同紙はさらに、次のような興味深い分析も加えている。
「代替肉に真っ先に興味を示すのは、環境問題や動物福祉の問題に関心の高い消費者が多い。しかし、そうした消費者は同時に、食べ物に関しては、シンプルな原材料で作った健康的な物を食べたいという気持ちが強い」
つまり、代替肉はそもそも売る相手を間違ったか、商品コンセプト自体が最初から失敗だったのではないかというわけだ。
分断国家を象徴する食べ物
2つめの要因は「分断国家」米国ならではの要因だ。
米南部テネシー州を拠点とするレストラン・チェーン「クラッカー・バレル」は昨年8月、インポッシブル・フーズ社の「インポッシブル・ソーセージ」をメニューに加えるとフェイスブック上で通知した。すると、ビーガンやベジタリアンなどから感謝の声が寄せられる一方、非難の声も殺到し、大炎上状態となった。多くのメディアもこれを報じた。
中でも目立ったのは、代替肉やそれを採用する店側を「woke(ウォーク)」とののしる声だ。ウォークはもともと、人種差別や性差別など社会的不公正に対する意識が高い人を指す言葉だが、最近は、保守派がリベラル派を批判したり揶揄したりする際にひんぱんに使われ、米社会の分断ぶりを象徴する言葉となっている。
デロイトは、米国の人口の半分を占める代替肉をまったく口にしない人たちに「代替肉を売ることは簡単ではない」と指摘し、理由の1つに、「代替肉をウォークと見るなど、文化的に受け入れられないという態度が見られる」ことをあげている。