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藤井聡太竜王、完璧な勝利で竜王戦4連覇まであと1勝! 七番勝負第5局、佐々木勇気八段の後手雁木を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月27日・28日。和歌山県和歌山市・和歌山城ホールにおいて、第37期竜王戦七番勝負第5局▲藤井聡太竜王(22歳)-△佐々木勇気八段(30歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。


 27日9時に始まった対局は28日16時21分に終局。結果は91手で藤井竜王の勝ちとなりました。


 藤井竜王は山場の第5局を制してシリーズ3勝2敗とし、防衛、4連覇まであと1勝としました。


藤井「本局、2勝2敗で迎えた第5局ということでやはり緊張感もあったんですけれど。2日間、集中して指すことができたのかなというふうに思っています。また次局もせいいっぱいがんばりたいと思います」


佐々木「本局は藤井竜王にうまく指されてしまって。完敗だったんですけど。自分では考え抜いて指したつもりなので。どこが敗着なのか(終局直後の)いまはわからないんですけど。そういうところを改善して次に向かいたいと思います。和歌山は初めて来たんですけど。ちょっとほろ苦(にが)デビューということで(苦笑)。またがんばりたいと思います」


 第6局は12月11日・12日、鹿児島県指宿市・指宿白水館でおこなわれます。

藤井「次の第6局はこちらが後手番になるので。ここまで第2局と第4局はどちらも作戦負けから押し切れてしまうような形になっているので。まずは序盤でうまく立ち回れるように、しっかり準備をしていきたいと思います」

佐々木「本局は時間を残してしまっての負けだったので。時間配分をちょっと。勝負どころがもっと早かったような気がするんで、そこだとは思うんですけど。あとは、もう少し作戦の精度を上げないといけないかなと思います。切り替えてやっていきたいと思います」

佐々木八段、シリーズ山場で「後手雁木」採用


 互いに先手番を勝って、迎えた第5局。まずは後手・佐々木八段の作戦が注目されました。佐々木八段は第3局、意表の角交換向かい飛車を採用しています。本局では角筋を止めての、振り飛車も含みにした立ち上がりでした。

佐々木「出だしはちょっとどうなるかわからなくて。もしかしたらこちらが(飛車を)振る場合もあるかなと。振り飛車にする場合もあるかなとは思ってたんですけど」

 14手目。佐々木八段は飛車先の歩を突いて、居飛車でいくことを明示。4三銀型で「雁木」(がんぎ)と呼ばれる構えです。

佐々木「雁木はたぶん、後手番だと初めて指したんじゃないかなと思うんですけど」

今年の名人戦七番勝負第3局▲藤井名人-△豊島将之九段戦では、雁木に対して棒銀での速攻に出て、藤井名人が完勝に近い内容を収めています。本局でも藤井竜王は早めに攻めの銀を繰り出して、仕掛けていきました。


藤井「1日目は少し予想していない形で戦いが起こって。どういうふうに局面を判断するか難しいかなと思っていました」


佐々木「本局は雁木の中でも、金をギリギリまで動かさないっていう指し方をやってみたんですけど。考えてた形と若干、ちょっとズレがあって。その少しの違いがちょっと訂正できなかった気がします」


 仕掛けに端を発した戦いが一段落して、駒組がもう少し続くかとも思われた42手目。佐々木八段は歩を突き捨てて攻めていきます。

藤井「△8六歩から動いてこられて。それに対して、どういうふうに対応するか、難しいかなと思っていました。本譜は少し無難な指し方を選んでしまってたんですけど。もう少し、強く反発するべきだったような気もします。封じ手の手前で(46手目)△5五歩に▲3四歩とかをもっと掘り下げるべきだったかなという気もしたんですけど」「封じ手の前後で、もうちょっと攻め合い志向で指す手も有力だったかなというふうには思っていました」

 藤井竜王は3歩を得する一方で、佐々木八段は相手陣に角を打ち込み、馬を作りにいきます。

藤井「本譜は歩得ですけど、やっぱり後手陣が手厚い形なので、微妙な形勢かなと思っていました」

 49手目。藤井竜王があたりになっている飛車を下段に引きます。ここで佐々木八段は飛車取りに歩を打つか。それともじっと角を成っておくか。佐々木八段が50手目を封じ、指し掛けに。この段階で、コンピュータ将棋(AI)が示す評価値は、藤井竜王が少しだけリードでした。

佐々木「(封じ手のあたりは)かなりまずいかなと思っていて。1日目のどこかで細かいミスがあったとは思うんですけど、その細かいミスが自分には、一晩考えてもわからなかったので。なんかそのあたりがやっぱり(雁木を)指し慣れてないところかなと思います」「どこかで細かいミスがあるんでしょうけど。それがわからなかったので、これが自分の実力かなって思います」

藤井竜王、完璧な指し回しで3勝目


 明けて2日目。立会人の桐山清澄九段が封じ手を開きます。

桐山「封じ手はさんぱち歩です」

 佐々木八段の封じ手は飛車先を押さえる歩打ちでした。これは藤井竜王も想定のうちの一つだったでしょう。しかしすぐには指さず、いつもの通り、まずはお茶を一服。そのあとで、飛車をいちばん遠い自玉の下にまで逃げました。こちらは佐々木八段の想定ではなかったようです。

佐々木「▲7九飛車よりも▲5九飛車を本線にしてたので。封じ手のところは。また全然考えてない局面になってしまって」

 佐々木八段は成り返って作った馬を自陣の要所に据え、銀桂を前線に進めて藤井玉の上部から迫ります。

 対して藤井竜王は角を端1筋に打ち、佐々木八段の馬との交換を迫ります。前述の名人戦第3局▲藤井-△豊島戦でも現れた符号で、この戦型ではしばしば急所となるようです。

佐々木「やはり(57手目)▲3七桂から(63手目)▲1六角の筋が厳しいんだなと思ったんですけど。どこまでいってもやっぱり歩が少ない将棋で。攻めにも受けにも、ちょっとやはり、歩がないのがキツかったですね」

 佐々木八段は馬を逃げて交換を避けます。対して藤井竜王は交換して自陣に角を据える順を感想戦で示していました。どちらも有力で難しいところ。佐々木八段は感想戦で「本譜もう、勝負どころなくなったから」という認識を示していて、角交換もあったようです。本譜の順は藤井竜王の角が佐々木玉をにらむ好位置に残りました。

 66手目。佐々木八段は藤井玉の真上にまで銀を進めて迫ります。飛馬銀桂の攻めで、大変な迫力。受けを誤れば、あっという間に藤井玉は寄り形となります。ここで2日目の昼食休憩に入りました。

 再開後、藤井竜王は馬の利きに歩を突き出します。ここは本局のハイライトシーンだったかもしれません。自玉のすぐ近くに銀だけでなく馬まで呼んでしまう可能性があって怖いところ。よほどしっかりとした読みの裏付けがなければ、指せないでしょう。

 

藤井「最初は▲7七歩と打とうかなと思ってたんですけど。▲7七歩に△8六歩から▲同歩△8七歩から清算してして△5四馬がけっこう受けづらいかなという気がしたので。▲6六歩は予定変更ではあったので。突いた局面は後手の手が広いので、それほど見通しは立たないかなと思っていました」

 佐々木八段は突き出された馬を取らず、別のルートから攻めていきます。自陣の桂と金を取らせる代償に、藤井玉のすぐ近くを食い破ることには成功しました。しかし藤井玉に逃げられてみると、追撃が届かない格好に。そして封じ手直後に追われて以後、ずっと使えていなかった藤井竜王の飛車が前線に踊り出て、形勢がはっきりしてきました。

藤井「(77手目)▲7四飛車から飛車をさばいていくことができたので。そのあたりで攻め合い勝ちが見込めそうな形になったかなと感じていました」

 佐々木八段は形を作ったあと、91手目、桂打ちの王手を見て投了を告げました。

 終局直後、佐々木八段は大盤解説場でファンを前に、次のようにコメントしています。

佐々木「今日は大盤解説で、冨田先生(誠也五段)の出番が少なくなるんじゃないかと思って心配してたんですけど(苦笑)。勝負どころがもっと早いところにあったので。そこで時間を投入して考えるべきだったかなと思います」「(後手雁木の作戦で)やっぱり指し慣れてないところが出ちゃったかなと思って。ちょっとあとで雁木の得意な井田さん(明宏五段、新聞解説担当)に聞いてみたいと思います」

 通算14回目の七番勝負でもカド番に追い込まれることがなかった藤井竜王。このまま次で防衛を決めてしまうのか。それとも佐々木八段が巻き返し、藤井竜王がこれまで経験したことのない3勝3敗に持ち込み、最終局第7局までたどりつけるのか。今期竜王戦も、いよいよクライマックスの場面を迎えつつあります。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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