映画『インサイド・ヘッド』が教えてくれた ペットが亡くなったときの「悲しみ」とは
犬や猫は家族の一員です。犬や猫とできるだけ長く一緒にいたいと思います。
しかし、犬の平均寿命は約15年、猫の平均寿命は約16年なので、やがてお別れのときがやってくるのです。
犬や猫が死ぬとご飯も食べられなくなり、悲しみに打ちひしがれる人がなかにはいます。
そんな人に向かって「そんなに悲しむのはよくないよ」と言う人もいますが、本当のところはどうなのでしょうか。
シロちゃん(仮名)はリンパ腫になり天国へ
筆者は、がんの犬や猫を多く診察しています。
もちろん、犬や猫のがんを全部寛解できればいいのですが、そうできない現実があります。
小型犬のシロちゃんは消化器官リンパ腫になっていました。闘病生活を1年以上送っていましたが、腸穿孔し命を落としました。
飼い主の太田さん(仮名)は、「シロがお世話になりました」と気丈に挨拶に来ました。
獣医師として治療していた犬や猫が死んでも、最期は苦しんでいなかったか、痛みはなかったのかなどと気になっています。飼い主がその辺りのことを教えていただかないと、どのようにして旅立ったか思いを馳せるしかないのです。
筆者は太田さんに「シロちゃんの最期はどうでしたか」と尋ねました。太田さんは、「前日までは元気にしてご飯を食べていたのですが、急にすごい声で鳴いてね…」と言葉を詰まらせて、目から涙があふれて出ていました。
筆者はかける言葉を探していました。太田さんは悲しみを抑えることができなかったようです。
このように飼い主に泣かれた場合、つまり悲しみが心を支配したときにどうすればよいのでしょうか。
『インサイド・ヘッド』のカナシミとは
2016年のアカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したディズニー&ピクサーの映画『インサイド・ヘッド』の続編『インサイド・ヘッド 2』が8月から公開されています。
前作の『インサイド・ヘッド』は、主人公の少女ライリーの感情をヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリと5つのキャラクターをあらわします。そして少女のライリーがどのように成長していくかを見ていく映画です(これ以降は、『インサイド・ヘッド』のネタバレありですので、注意してください)。
この映画の中で、ライリーが喜びだけで生きることができれば、一見理想的に思えますが、それは実際にはバランスを欠いた状態だということを教えてくれます。
ヨロコビは一時的な感情であり、私たちを活力に満ちた状態に導くことはできますが、その持続性は限られています。
もし、生きている中で喜びしか存在しなければ、私たちはその喜びを当然のものと考え、感謝や満足感を失う可能性があります。悲しみがあるからこそ、喜びが際立ち、その価値が高まるのです。
上のXの動画を見てもらうと、ヨロコビの皮膚は薄い茶色で、緑色の服を着ていますが、髪の毛、目の色が青色です。
一方、カナシミの皮膚は薄い青色で、服は白色で、緑は混ざっていなくて、全体に青系になっています。
このキャラクターたちの外見を見ると、ヨロコビの中にもカナシミが混じっていることがわかりますね。
映画の中でライリーの子ども時代の想像上の友だちであるビンボン(ピンク色の象のようなキャラクター)がロケットをなくして、落ち込んでいます。ヨロコビは、ビンボンを励ましますが、効果がないのです。
しかし、カナシミはビンボンに寄り添い一緒に悲しんであげることで、ビンボンが元気を取り戻しつつあります。
つまり、悲しいときは涙を出してもいいのです。悲しみがあって喜びあるのです。犬や猫と豊かで楽しい時間を過ごしたので、ペットの死後、悲しみという感情があるのだと『インサイド・ヘッド』は教えてくれています。
まとめ
犬や猫を飼っていない人は、ペットを失った人の悲しみ・喪失感はわかりにくいかもしれません。
そしてついつい「そんなに悲しんだらクロちゃん(ペットの名前)が悲しむよ」と言ってしまいがちです。
この『インサイド・ヘッド』は、ペットの死で打ちひしがれている人には、カナシミのように励ましたりせず、寄り添ってあげることが大切だとわかります。
愛犬・愛猫が目の前からいなくなると、悲しみが押し寄せてくるものだと思っておいた方がいいようです。
愛犬や愛猫が死んだとき、無理に元気になろうとせず、悲しみを素直に感じることで、徐々に立ち直る力が湧いてくるのです。
悲しみは避けがたいものではありますが、それを通じて人は成長し、より強く、そして他者とのつながりを深めることができるのです。